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「何か聞こえた気がしたが・・・。とりあえず殺せたか?」
相手に全ての魔法を撃ち終えたライティエットが独り言のように呟く。
実際独り言だったのだが、いつもならそんな言葉に対しても律儀に返事をしてくれるメーディエからなんの反応もない。どうしたのかと横を見ると、とてつもなく嫌そうな顔をしたメーディエがその表情のままに空を見上げていた。
メーディエは誰もが認める美少女。そんな彼女の変顔はさすがのライティエットも動揺してしまった。
「ど、どうした?すごい顔をしてるぞ」
「あーうん、ちょっとねぇ。・・・厄介なのと会っちゃったかしら、と思って・・・」
「なるほど、知り合いか」
「えぇ、まぁ・・・。あ、降りてくるわ。やっぱりあの程度じゃ死なないわよね」
ため息混じりに話すメーディエの視線の先には煙の塊が一つこちらに向かって落ちるように飛んできているのが見えた。
流石の魔族でもそのまま受ければ致命傷になりかねない威力の魔法を食らっている筈なのだが。どうやらギリギリ防御魔法が間に合ったらしい。
「とりあえず先に言っておくわね。判断はライに任せるし、私はそれに従う、文句も言わない。・・・ただ」
「くぉらぁーーーーーーーーっ!!!ちょっとそこのアンタ!!!マジで何してくれんのよ!!死にかけたじゃないのよーーーー!!!!」
メーディエの言葉が続く前に空から降りてきた魔女がライティエットをビシッと指差して、これでもかとばかりに大声で叫ぶ。
予想していたらしいメーディエは額に手を当てて長く大きくため息を吐き、ライティエットは眉間に皺を寄せて先ほどのメーディエの言葉の意味を深く理解した。
「・・・厄介というより面倒くさそうだな」
「違うわ、厄介な上に面倒くさいのよ」
「最悪じゃないか」
「否定はしないわ」
「無視するなーーーーー!!!!!って、アンタもしかしてメーディエ!?何でこんな所にいんのよ!?」
「マルクスには関係ないでしょ」
『マルクス』と呼ばれた魔女は身体中のあちこちに火傷をしており、しかも全身ずぶ濡れという見るも無惨な状態だった。
自分をこんな姿にした者への怒りは凄まじいものだった筈なのだが・・・。メーディエを見つけてしまった故にライティエットの存在など意識と視界から抹消されてしまい、怒涛の勢いで思うままに喋り始める。
「えーー!!うそマジでどうやってルーフェン様の城を抜け出したの!?」
「貴女だってお父上の城から抜け出してるけど?」
「うっさいわね!暇だったんだもん、仕方ないでしょ!」
「暇で街破壊しようとしないでよ」
「あ、そんなことより!アンタこんな所に居ないでさっさと帰んなさいよ!!ルーフェン様に迷惑かかるでしょうが!!」
「そんなことって、全く・・・。あとせっかく出て来られたのに戻る訳ないでしょう?」
「はぁ?なにそれ、ルーフェン様のお側にいれるのに一体何が不満なの?もぉな〜んでこんな奴を側に置いてるのよルーフェン様ったら。アタシだったらぜぇ〜ーったい、ルーフェン様のお側を離れたりなんてしないのにぃ!!」
「あげれるなら今すぐこんな立場あげるわよ・・・。大体ルーフェンのどこが良いんだか・・・」
ーピシッ・・・
「どこ、が?・・・え、今どこがって、言った?」
先ほどまでの威勢が消え、辺りが急に静まり返る。
空気が張り詰め、マルクスの赤よりも金の色が強い瞳がどこか暗い色に濁ってどんよりとこちらを見詰めてきた。それに合わせて魔力もじわじわと這い寄るように解放される。
ライティエットは剣の柄を握り直し、攻撃に備えて警戒態勢をとった。
だが、何故かメーディエは全く警戒せずに呆れた目をマルクスに向けていた。
そんな彼女の呆れの理由は、すぐに判明する。
「・・・そんなの、全てに決まってるじゃない!!純金を溶かした様な麗しい瞳に画家も筆を投げ出すほどにお美しいお顔!!金糸を束ねても表現しきれない艶やかなお髪!天を貫かんとする黒く尖った角!長身で美しく引き締まった黄金比の筋肉がついた身体!新しい魔法を次々と開発なさる天才的な頭脳!次代の魔王と言われるほどにお強い魔力!!そして何より、敵には冷酷無慈悲で容赦ないのにアタシ達魔族には超優しいせ・い・か・く!!こぉぉんな完璧無敵素敵パーフェクトなルーフェン様の一体どこが気に入らないってのよ!!?」
「性格」
「はぁぁん、ルーフェン様ぁ〜〜」
メーディエのバッサリ即答も全く聞かず、マルクスは暴走語りからいつのまにか自分の世界に入り込んでしまった。両手を添えた顔を真っ赤にして身体をくねくねさせたり、破廉恥で卑猥な言葉が飛び出たり。頭の中で色々とイケナイ妄想が膨らんでお楽しみのようだ。
メーディエの呆れ顔はこうなると分かっていたからで。ライティエットもとても面倒くさそうな表情を隠しもせずにマルクスを見ている。
「はぁ・・・全く、相変わらず他人の話聞かないんだから・・・」
「お疲れ様。とりあえずそろそろ殺っていいか?」
「殺気を向けてこない奴は殺さないんじゃなかったの?」
「人命優先だ」
「・・・まぁ、それはそうよね」
ほんの少しだけ困った顔をしてメーディエはライティエットに場所を譲った。
さすがにそんな行動を取られたからか、マルクスはピタリと動きを止める。そして妄想である意味煌めいていた瞳を再び暗い色に染め、2人をギロリと睨みつけた。
「はぁ?・・・ねぇちょっと、殺るって、もしかしてアタシの事言ってる?メーディエ程度に惑わされた、ただの人間如きが、この公爵がひとり、『マルクス・デューク』を本気で殺れると思ってんの?」
先程までのじわじわとした魔力の解放ではなく、全力の解放が衝撃波となって辺りの空気を叩きつける。バチバチと飛んで当たる木の葉や枝を軽く払いながらライティエットはマルクスの真名に眉をひそめた。
「公爵・・・だと?」
「あはははは、そうよ!驚いた?でも残念、もうぜーんぶ遅い!!今更怖気付いて謝ったって絶対に許さないんだから、覚悟しなさいよ!!」
高らかに宣言するマルクスは両手に魔力を溜め、今にも魔法を打ち出そうと悠然とした態度で構える。
だがライティエットはそれを気にせず、口元に指をやったまま思案顔で先程から思っていた疑問を口に出した。
「いや、明らかに違うだろう。魔力のデカさからして侯爵も厳しい、伯爵と言ったところだろうか?それとも公爵ってのは魔力では決まらないものなのか?」
その言葉に空気が再び張り詰め、いや、凍りついた。
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