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「依頼を達成してきた。確認してくれ」
ゴンっ、と無造作にカウンターに置かれた血塗れの皮袋。
それを置いたライティエットを、ギルドにいた者たちは得体の知れないモノと遭遇した時のように驚きに満ちた表情で凝視するしか出来なかった。一番最初に我に帰ったギルドマスターですら、視線を皮袋とライティエットの顔とに何度も往復させて確認をしているほどである。
「いや、待て・・・待ってくれ!・・・まだお前さんが出て行ってから1日ぐらいしか経っておらんのじゃぞ?山まで行って帰ってくるだけでも1日以上かかるはずじゃ、お前さん一体どうやってこんな短期間で・・・」
「肉体強化の魔法で走っただけだ」
正確には木の上を疾走して麓まで行き、山は飛んで登り、また木の上を疾走して帰ってきたのだが(さすがに飛んで降りることは難しいので下山の時はモンスターを避けながら普通に歩いて降りてきたが)。
それを詳しく説明したところで理解されないと分かっているので、ライティエットは元から話すつもりが全くない。
「それより、コレの鑑定をしてくれないのか?」
「あ、あぁ、そうじゃな!待っていてくれ。おい、誰か確認出来る奴はおるか?」
どうやら半月前に現れたばかりの魔族の為、手配書がまだ作成されていないらしい。そうなると鑑定は実際に魔族と相対したことのある上位ランカーが行うことになっている。
「それなら自分が確認します、させてください」
治療を終えて横になっていたハンターの男が名乗りをあげた。ギルドマスターがこの町専属の金ランカーだと耳打ちで教えてくれる。
かなり重傷だったのか男は治療を終えて尚、足を引き摺って移動していた。もうハンターとして活躍するのは難しいだろう。ギルドマスターも分かっているのか、彼を見る目が懐かしさと悔しさで溢れている。
そんな男がようやくカウンターまで来てライティエットに頭を下げ、袋を開けた。
中に入っていたのは頭部と片腕。どちらも血塗れな上に焦げてボロボロになっており、思わず触る手を引っ込めたくなる状態だった。それでも男はゆっくりと取り出して、震える手で丁寧に確認していく。
「・・・角の形、肌の色、何よりこの爪の長さに鎌のような形!!・・・あぁすごい、間違いありません!奴の、ワークス・アールのモノです!!」
男の感極まった叫びにギルド内に居た人々がわっと歓声を上げる。
あのギルドマスターも強面な顔に笑みと涙を浮かべて礼を言ってきた。
「あぁ、ありがとう・・・本当にありがとう」
「礼は良い・・・それより早く報酬をくれ。この町に来る前からも連戦続きで、さすがに疲れてるんだ」
ライティエットの手を握って礼を言っていたギルドマスターがハッと目を見開いて彼の身体を見直した。
先の戦闘であちこち切り刻まれたマント、切り傷も目で見える範囲だけでも小さいものから大きいものまでいくつもある。何よりライティエットがここで威圧を発した時に感じた魔力の波動が今は殆ど感じられない。肉体強化の魔法でギリギリまで魔力を使い切っているのが嫌でも分かる状態だった。
「すまん、今すぐ準備しよう。何ならここの仮眠室を使っておくれ。重傷者達の治療も済んでおるから空きはあるし、治療も受けられるぞ?」
「・・・必要ない、気持ちだけもらっておく。宿で連れを待たせているから、すぐ戻りたい」
「連れ?ほぉ、なんじゃお前さんもすみに置けんな!待ってろ、すぐ用意する。その間に少しでいいから治療を受けていってくれ」
連れという言葉にニヤっと笑ったギルドマスターはライティエットの肩をバシバシ叩いて奥に引っ込んで行った。
老体とは言え、さすがは元金ランカー。傷のこともあってなかなかに痛かった。
が、それ以前にギルドマスターの反応が理解出来ずに、ライティエットは内心首を傾げながら治療を受けたのだった。
「これが報酬じゃ。短期間で討伐してもらった分上乗せしてある。・・・本当に、ありがとう」
「・・・ギルドマスター、俺が討伐に向かっている間、この町中で異様な魔力を感じたりはしなかったか?」
「異様な魔力じゃと?いいや、そんなモノは感じておらんし、話も届いてはおらんが・・・、何かあったのか?」
報酬を受け取りながら聞いてくるライティエットにギルドマスターは思わずキョトンとして問いを返す。
確実に老いてきたとは言え、これでも上位ランカーだった身だ。町の中で大きな魔力が発せられようモノなら即座に分かるし、ギルドにいればそう言った話は否応無しに集まってくる。
事実、この1日の間に届いた話はライティエットが威圧の時に放った魔力を感じとった者達が駆け込んできて詳細を訪ねにきたくらいだ。
「無いならいい。・・・それより精霊が視える奴から話を聞いてやれ。あと山に上位クラスのモンスターが数体いる」
「モンスターは分かるが、精霊様?よく分からんがお前さんが言うなら調べて聞いておこう。モンスターの情報も感謝する、あとはこちらで任せてくれ」
胸を叩いて力強く頷くギルドマスターにライティエットも小さく頷く。
そしてその会話を最後にライティエットは一言も喋ることなくギルドから出ていった。
ギルドマスター以外に彼に直接礼を言えた者は誰もいない。みな話しかけたい気持ちがなかったわけではない。
だが単独で、しかもたった1日で伯爵級を討伐して戻ってくるライティエットが、やはりどこか恐ろしく。更に討伐前に発した威圧と、今も纏っている硬く冷たい雰囲気に気圧され、誰もそばに近寄ることすら出来なかった。
その姿にギルドマスターはライティエットの情報を頭の中から引っ張り出す。
美しい見た目と強さで人の目を惹きつけるも、本人はそういったものは一切望まず、常に独りで戦い、屍の山を築き上げるのみ。
それが闇の狩人の頂点、白金ランク
異名で『黒銀の死神』と呼ばれている男
ライティエット・リンテル。
そんな彼が急ぎ足で帰る理由となった『連れ』とは、果たして一体どんな人物なのか。
大変気になるが、触れてはいけないような気もしていて詮索するようなことはしなかった。
ただ、その連れが孤独な彼の癒しになっていれば良いと。若人の死んだような目を少しでも輝かせてくれたら良いと。
まるで死に急ぐようなライティエットの後ろ姿を思い出しては、そう願わずにはいられなかった。
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