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現実世界❲恋愛❳ 短編もの

ファインプレイ

作者: 日浦海里

これ自体はフィクションですけど

一つ一つの出来事は、

ある程度の実体験に基づいてたり。


車内での揉め事は良くないので

みなさんも車内マナーには十分ご留意を


いつも電車で一緒になる男の子

いつも同じ車両の同じ場所

電車の扉のすぐ脇の

座席を区切る鉄棒の横

それがいつもの定位置


目を引くような容姿でもないし

背格好も普通ぐらい

特別目立つわけでもない

ごくごく普通の男の子


いつも同じ場所にいるから

気付けば姿を追っていて

いない時には心配になって

姿を見るとほっとする


そうして私もいつの間にか

彼の脇に立つことを

自分の定位置にしてた



同じ場所にいる人と言えば、

社会人のおじさんが一人

いつも彼の立つ横になる

1番端の座席に座って

毎日新聞を読んでいる


いつも紙面を広げて読むから、

隣の席に座る人は

いつも迷惑そうな顔をする

自分の前にどんな人が立っても

気にも留めずに座ったままで

だから私はこのおじさんが

あまり好きにはなれそうにない



いつもの車両のいつもの場所で

彼を眺めるようになってから

幾許かの季節が過ぎたそんなある日


変わらない場所

変わらない時間

変わらない関係


いつか学校を卒業すれば

いつもの通学が終わってしまう

どうにかなりたいと

思うわけではないけれど

なんとなく寂しいかな、と

感じはじめたそんなある日


いつもの場所のいつものおじさんが

隣に座る男性と

突然口論を始めだした


原因は隣の男性の携帯電話

さっきから頻繁に電話が鳴っては

悪びれもなく話してた

確かに嫌な気分だったけど

それも今だけのこと

そう感じていた矢先に

おじさんが男性に注意した


嫌だなぁ、

早く終わらないかなあ


口論はエスカレートして

次第に口調もきつくなる

男性が頭にきたのか

おじさんに掴みかかろうとしたその時

彼が不意に携帯を取り出し

どこかに電話をかけはじめる


「ん、あぁ、わりぃ

 同じ電車乗ってんだから

 今電車なのはしってんけど

 どうせいつもの最後尾だろ

 車掌、呼んでもらえね?

 喧嘩始まっちゃってさ」


男性とおじさんがばつが悪そうに黙り込む

彼はそれを一瞥すると


「終わったみたい

 ん、じゃ、また後で」


そういって電話を切った

そうして何事もなかったかのように

いつものように外を眺める


いくつかの駅を過ぎて、

男性が電車を降りると

おじさんが彼をつついて


「ありがとな」


と声をかけてた


それが私には誇らしくて

思わず笑みを浮かべてしまう


そんな私におじさんが一言


「彼女さんも済まんかったな」


予想もしない不意打ちに

私は頭が真っ白になり

ひたすら頭を左右に振る


「違うんか

 それは重ねてすまんかったな

 いつも混雑してきた時には

 そこの子がかばってるように見えたから

 てっきりそうかと思ってたんやけど」


私が彼を振り向くと

彼は窓に張り付いて

現実逃避を始めてた


「ありがと」


私の言葉に彼は鼻の頭をかいて

目線はいつまでも泳いだままだ


いつもと同じ電車に乗って

いつもと違った通学時間


「新聞、いつも広げすぎやから、

 もうちょっと気を使った方がいいよ」


おじさんに返した彼の言葉は

照れ隠し以外の何でもなかった

最後までお読みいただきありがとうございます。


ファインプレイは誰なのか。

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