表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

第八章

キリルが入院したと連絡があった。しかし、詳細がわからない。ルルに聞いてもはっきりしない。そして急いで来なくていいからと、念を押された。


グロサム、ラン、アミアはもやもやしながら、数日を過ごした。


「よし、行くぞ。」


週末、3人でガリルドに向かった。最近はアミアの魔力も使い、他の人が聞いたらびっくりする距離を、一気に飛べるようになったので、あっという間にガリルドに着いた。


入院できる病院は、町にひとつだけ。迷わずに向かった。


「悪かったな、心配かけて。」 


キリルは、少し痩せたようだ。しかし病人ぽくない、優しい笑顔で迎えてくれた。


「アミアも、ありがとう。」


「あっ、はい。」


会話は普通にできるようになった。最初の誤解は、完全に消えていないので、キリルは決して距離をつめてこない。それが少し寂しいが。


「それで、何の病気だって?お兄ちゃん。」


母の話しでは、訳がわからなかった。そして本人に会って、更に訳わからなくなる。キリル自身が、病名も何もわかってなかった。


「母さんが言うには、カムリファスから強く、入院させろと言われたらしいんだ。それで、治療らしきものは、朝晩の点滴だけなんだが。」


うーん。


しかもその点滴薬は、ルルの作るものらしい。では、何のための入院なのか。


しかしアミアには、感じることがあった。例えるなら、ゲームの中のライフポイント。そんなものがキリルには、減少しているように感じる。


魔力が少ない時から、自分には予感という能力があった。その力が騒いでいる。キリルの状態は、かなり悪い。


「その、じゃあ、カムリファスに会いに行こうか。」






アミアなら、タウロタがいつでも熱烈歓迎だ。カムリファスも、変わらず迎えてくれた。


「来ると思ってたよ。おかえり、グロサムとラン、アミア。キリルのことを聞きに来たんだろう?」


カムリファスには、どんな魔力の高い人間でも敵わない、次元の違う能力がある。アミアの正体も見破ったし、キリルの不調のことも何か知っていそうだ。


「まあ、単刀直入に言うと、キリルは死にかかっているよ。」


「は、はあ!?」


キリルは今37才。癌でも心臓病でもない。最近は、危険な仕事もしていない。何故に、そこまで言い切るのか。


「うーん、説明し難いんだけど…………。キリルの心情と魔力のなせる業というか。」


「カムリファス、訳わかんない。」


ランだって、大好きな兄のことだ。何とかしたい。


「つまりね、キリルの心情は、ユキノを失ってからもう生きていくという気持ちが、薄いということだよ。家族がいるから、全くないわけじゃないがね。」


「………………………。」


「キリルは、わざわざ他の世界からユキノをさらって来たんだ。普通以上に、ユキノに死なれたことに責任を感じてるし、守れなかった自分をある意味呪っている。それであの凄い魔力で、無意識に自分を攻撃し続けてるんだ。キリルの身体が徐々に蝕まれて来て、悲鳴を上げ始めた。心臓が止まれば、もう死ぬしかない。」


大粒の涙が、ポタリと落ちた。


ランが、グロサムが、当然アミアが泣いていた。


「そんなことって…………。」


ランは、何も気づかなかった。兄のことなのに!


「おっと、ラン、自分を責める必要はない。大丈夫だよ、まだ間に合うからね。…………アミア、キミだけがキリルを救える。彼を愛して、助けてやって欲しいんだ…………。」






カムリファスからの伝言で、もう退院していいと、グロサムとランが言ってきた。キリルはそもそも必要を感じてなかったので、早速支度して帰ることにした。


「カムリファスが、直接、ちゃんと説明するからって言ってた。会計して荷物持って帰るから、行ってあげて。」


「何なら、俺が送ってやろうか?」


「いや、別に。普通に飛べるけど。」


じゃあ行って来いと、グロサムに背中を押された。ランも、うんうんと頷く。


(一体、何なんだ。)


まあ、いい。カムリファスやタウロタに会うのは久しぶりだ。天気もよく、気持ちいい日だ。歩いて行くのも悪くない。


キリルは、のんびり歩き出した。






「アミア、お前は、どうしたい?」


グロサムの問いかけに、アミアはすごく大人っぽい顔をした。もう、気持ちは決まっている。


「今度は、私からプロポーズしても良いかな…………?」


ああそれなら、親の出番はない。


「よし、じゃあ格好よく決めてやれ。断られる筈ない、100%成功だ。」


「アミア、あなたすごく綺麗よ。今、最高にね。…………必ず、幸せになれるから。」


カムリファスはニコニコ。タウロタも笑っていた。


「2人で、キリルを呼んで来ておくれ。アミアと待っている。ここなら僕の能力で、ユキノのイメージも少し見せてあげれる。」






カムリファスにとって計算外だったのは、キリルがゆっくり歩いて来たこと。アミアは緊張して、心配したタウロタが抱きしめたので、ふかふかの毛皮で眠ってしまった。


「キリル、遅かったね。まあ、いい。キミの特効薬が準備できたから、来てもらったんだ。」


「…………?いや、そもそも俺、病気か?」


「うん、病名は『愛情欠乏症』かな。特効薬は、この子だよ。」


言われて気づいた。タウロタにもたれて眠る、アミアがいる。


「アミア?」


「そう。ほらアミア、起きて。」


アミアが目を覚ますと、目の前に当惑したキリルの顔。


「…………えっ、あ、私!」


(やっちゃった!何で寝てたの!?格好悪い!)


思わず飛び起きた。焦って、何も言えない。


『しゃーないな、うちに任しとき。すっかりアミアと融合しとったけど、カムリファスの能力やろか、何か、話せるわ。』


それはアミアの内の人。そうだね、貴女が適任だね。


「キリル、今までいろいろ、ごめんな。うちがこんなんやったから、すっかり待たしてもうた…………。」


「…………?」


「これでも、すっごい悩んだんやで。うちがおることが、キリルのためになるんかって。でも、あんたも死ぬ程悩んでたんやね。」


「アミア?キミは、一体?…………!?」


穏やかに、微笑みながら話すユキノのイメージが、キリルに届いた。懐かしい、ただひとりの愛する妻。狂おしい程に求め続けた、しかし二度と会えないと、絶望するしかなかった人。


「ユキノ、ユキノ!?キミなのか!?」


「うん、うちな、キリルに会いたいと願う力すごかってん。だから生まれ変わった。アミアやけど、ユキノやねん。それでも良かったら…………またお嫁さんにしてください。」


返事は、抱擁になった。キリルの腕の中で、ユキノはとろけそうに幸せだ。


「本当は、もうほとんど、ユキノはアミアに融合してる。もう、多分、うちは出てこーへん。でも、アミアも同じやから。ユキノが消えるんと違うからね…………んっ。」


キリルの口づけが、ことばを飲み込んだ。でも、もう、大丈夫。ユキノの思いが伝わって、キリルの呪いが消え去った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ