第五章
グロサムとランが帰って来るまで、3日間を要した。お陰でアミアは、考え過ぎたり気を使ったりして、疲れ切ってしまった。
まだ子どもの身体を、こんな時本当に残念に思う。熱を出してしまうとは。
ルルは看病してくれたが、風邪薬では治りそうにない。熱に浮かされて、何を口走ってしまうか気にしていたら、更に良くならない、悪循環。
だからランの顔を見た時は、ちょっとホッとした。
「あ~、アミア、ごめんね〜。とんだホリデーだったね。」
ホッとしたら、熱も下がった。これでなんとか、王都に帰ることができる。
グロサムとランは、行き道の反省から、アミアに負担がかからない空間移動方法を相談した。一気に飛んだのが良くないなら、短距離を休みながら飛んだらどうか。
「うーん、あの子に魔力を使わした訳じゃないんだろ?なんでだろうな。」
キリルも頭をひねっている。
結論として、帰り道は2日かけることにした。それでもう、明日には出なくてはいけない。
グロサムとランこそ散々なホリデー、アミアは申し訳なかった。
それでも、アミアがもう一度カムリファスの園に行きたいと言うと、了解してくれた。
「じゃ、2時間後に迎えに来るからね。」
会いたい人がいると、グロサムとランはアミアを送って、行ってしまった。
「やあ、ユキノ、明日帰るって?」
タウロタに抱きしめられ、カムリファスには変わらぬ笑顔で迎えられる。
「それで、キリルとはどうなの?」
「どうって、何もしてあげられへん。」
「難しく考えないで、愛してあげればいいのに。」
それができないから、困ってる。ユキノとしての記憶は、キリルの側にいることでどんどん鮮明になって、自分の死に至った経過も思い出していた。
「あんな、カムリファス。うちホントに短絡的で、馬鹿やってん。」
襲撃者は3人、魔王討伐も経験しているので、相手が手練であることはすぐわかった。
サーラを守らねば!
他のことは、考えられなかった。
コダに教わった結界は、そのための魔力を注入された魔法石を使えば、自分とサーラ2人を守れるものだったが、ふと考えてしまった。
『これを身に着けててくれよ。キミに何かあったら、飛んで帰るから。』
キリルに渡されてたのは、彼の魔力が込められた水晶のペンダント。魔力の強い者同士なら通信できるが、生憎、ユキノにはそれほどない。ユキノの危機を察知すると、キリルに伝わるのみの一方通行だった。
自分が攻撃されれば、キリルが帰って来る。サーラが、助かる。
だからとっさに、自分は結界から外れた。
「ホントに馬鹿や。ペンダント放り投げるとか、他にやりようあったのに…………。」
結界ごとサーラを抱きかかえたので、最初の一撃は背中で受けてしまった。ペンダントは胸にある、衝撃が伝わらないのではと不安になって、思わず向き直ってしまい。
次の攻撃は見事に胸に、心臓に突き刺さったのだ。飛び散る血と、砕け散った水晶を見たのが、ユキノの最後の記憶。
「だからうちはもう、短絡的にならん。好きとか側にいたいとか、一時の感情に流されたらあかんねん。」
ユキノにとって幸いなのが、10才にして波乱万丈過ぎたアミアの記憶。軽く4~5回、死にかけている。用心深さや慎重さを学んだ。
「孤児院の窓から、お母ちゃんの形見を川に放り投げられた時は、焦って飛び込んでん。あれも馬鹿やった。森で、ボス級の魔物に遭遇した時と、毒を吐く魔物に襲われた時は、マジでやばかった。しばらく目が見えんくなって…………。」
はあーっ。
カムリファスにこんなため息をつかすのも、ユキノだけだろう。
「ユキノ、キミやっぱり、一人じゃ駄目だろう。」
「えっ?まあ、過去のことやし。今は平和やで。」
「そうは思えないが…………。まあ兎に角、疲れ過ぎてるね。また眠るといい。」
「アミアー。」
グロサムとランは、時間通り来てくれた。ただ、アミアの方は熟睡中。
「あらら…………。」
「よく寝てるな。」
起こしたくなくて、2人はカムリファスと話し出した。
「キミたちが、この子を助けてやるのかい?」
いっそ、真実を話してしまいたかった。でも、カムリファスは人間でないので、一度した約束を反故にできない。
「ああ、そうしたいんだが、どうも上手く行ってない。アミアは人に甘えたり、頼ったりするのが苦手のようだ。」
「そのようだね。何回も死にそうな目に会ったのに、自分で何とかして来たそうだから。」
「カムリファス!何を聞いたの?」
先刻の話しは、黙っててとは言われてない。ユキノではなく、アミアの話しに限って、カムリファスは話してやった。
「…………だからね、この子にはやはり、保護者が必要だよ。」
「毒とかそんな話し、初めて聞いた。学校も把握してないわよ、精密検査をしないと駄目じゃない?」
「そうだな。ラン、俺たちは簡単に、この子を守ることを諦めてはいけない。」
「…………嫌、や…………。」
絶妙なタイミングで、アミアの寝言。グロサムはギョッとした。
「助けて、サーラ、を…………。…………速く、来て…………、キリル…………。」
何?
何の、寝言だ?
「ごめん…………、マドカ…………。」
苦しげに、アミアの目に涙があふれてる。
いや、それより。
「マドカさんのこと?何で?」
アミアに、ユキノのいとこであるマドカとの接点はない。
「あちゃー、おしゃべりな寝言だな。」
グロサムとラン、同時にカムリファスに迫った。
「どういうこと!?」
隠し通すのは無理、カムリファスは観念した。
アミアは、死んだユキノの生まれ変わりである。
結論も根拠も、全て話してやった。ユキノとサーラ襲撃の詳細、自分たちですら知らなかったことが、カムリファスから語られたのだ。
疑いようがなかった。