第1話「荒れた世界」
暫く時間が経った後、目が覚めると、
とある草原のような場所に連れてこられていることに気づいた。
「ここが・・・異世界・・・?
思ったよりも、普通なんだな。」
おや?
よく見たら、着ている服や持ち物なども変わっていることに気付いた。
「はは、カッコいい服だな!
これだったらモテモテ間違いなし・・・」
そう思っているのも束の間、俺はとんでもない事に気が付いた。
「待てよ・・・俺はこれからどうすればいいんだ!?」
サバイバル経験など有る筈も無いので、
この状況から生き残るなんて通常であれば不可能に近いことなど、
いくら馬鹿な俺にも容易に分かっていた。
「おいおいマジかよ・・・
まずはどうにかして助けて貰わないと・・・」
と、その時だった。
若い女性が、いかにもガラの悪そうな2人の男に囲まれているのを見つけた。
「これって・・・まさか! チンピラを成敗しないと!
あの女性を救って、ハーレム生活を満喫するぞ!!」
さっきのことなど忘れ、俺はチンピラ共に立ちはだかる。
「おい、可哀想だろ?
止めてやれよ。」
すると2人のうち1人が言った。
「ア? んだよてめぇ!? やんのか!?」
俺は咄嗟に、そこら辺に落ちていた木の棒を2人に向け、こう言う。
「お前らにはな、これで十分なんだよ。
1人ずつかかってこい。」
そして、向かって来るチンピラ共に向かって木の棒を振り回す。
その瞬間、急に意識が無くなった。
自分でも、何をしているか分からない。
ただ、多くの血が飛んでいることは感覚で感じ取れる。
やれやれ、あんだけ啖呵切っておいてこの程度か。
暫くすると、同じ場所で再び目が覚めた。
そして直ぐに、近くに女性が居ることに気付いた。
「お礼なら必要ない。」
そう言うと、突然その女性は首を傾げる。
ふと自分の身体を見てみると、何と包帯を巻かれているではないか。
「何だこの包帯?
チンピラ共は、俺が・・・」
「じっとしておいて。
傷口が開いたら大変ですから。」
俺は状況が理解できず、思わず質問した。
「今の状況は? どうなってる?」
「いえ、賢者様が地面に頭からめり込んでいたものですから。
助けるに決まっているでしょう?」
「賢者・・・・?」
俺は咄嗟に、記憶喪失のフリをすることに決めた。
ていうか、負けてたのかよ!!!
いくら何でも恥ずかしすぎて嫌になってくる。
「・・・すまない。
どうにも、思い出せないのだ。
以前の記憶が。」
「記憶喪失・・・
丁度効く薬があります。
煎じてお飲みください。」
ヤバい。
この女、逃げ道を段々消してくる。
記憶喪失に効く薬なんてあるとは、絶対予想できなかった。
だが、ここで引き下がるわけにはいかない。
ここはあえて強者のフリをすることにした。
「すまないが、それよりも今は最寄りの街へ行きたい。
安全な場所で寝たいのでな。
洞穴で寝るのはジメジメしたりゴロツキに襲われてたまらん。」
自分でも、つくづく思う。
何故、このトーク力を勉強に生かせなかったのだろうか。
そしてその後、女はこう言った。
「このエリアは危険です。
いち早く保全区域へ向かわないと・・・」
「保全区域?」
「おや? 初等学校で習う筈なのですが・・・
って、記憶喪失でしたか。
今、この世界は荒れていまして。
『F・s・m(フェレリウス帝国)』によって、非常に強固に守られている
数少ない空間があるんです。」
「待ってくれ・・・次から次へと知らん単語が・・・」
「まあ、そういうものだと思ってもらって結構です。」
数時間後...
しばらく歩いていると、巨大な城壁が見えてきた。
「見えました。 あれが南外壁の門、正門です。」
圧巻だ。誰が見ても恐怖心どころか信仰心か何かすら湧いてきそうな
厳かな雰囲気の門だった。
扉の前には軽く数100人を超える兵が居て、厳重に見張りを続けているようだ。
「待ってくれ。」
俺は思わずこう言う。
「どうしましたか?」
「本当に、こんな門を通ってもいいのか?
俺は、もしかしたら敵国のスパイかもしれないというのに・・・」
「敵国なんて存在しませんが。」
やべ。
「貴方、本当に記憶喪失ですか?
・・・まあ良いでしょう。
いずれ分かることです。」
女の作り笑いが、
一層恐怖心を煽る・・・。
瞬間、背後から気配を感じた。
「っ!!!!」
しかし、耳をつんざく剣戟の音と共に、女はいつの間に俺の目の前に来ていた。
そして女はその襲撃者に応戦する。
衝撃的だったのは、
襲撃者は短い刃物を持っていたが、
女は見た目によらない巨大な偃月刀をいつの間に手にしていたことだ。
襲撃者はやがて逃げていった。
「殺さないのか?」
「はぁ? んなことする訳無いでしょ?
っと、失礼いたしました。
私は、人は絶対に殺さない主義なのです。
そう言う貴方は人を殺めたことがあるのですか?」
馬鹿なことを聞いたな・・・
ここは適当に・・・
「いや、そんな大層な武器を手にしているものだからね。」
女はというと、
「とにかく、あの門から先は安全ですから、早く向かいましょう。
私は、任務に戻りますからね。」
って、こんな女性を逃がしてたまるかと、俺はいつの間に女に名前を聞いていた。
「そうだ。 少しの間だけだが一緒に居た記念として、君の名前が知りたい。」
いかにもそれっぽい口調で言うと、女はあっさりと、
「『カミール=セトラ』です。 貴方は?」
ここは別に本名でいいだろう。
「小野 健治だ。 ではまたな。 カミール。」
「早速呼び捨てとは、感心しませんよ。
にしても、オノ=ケンジですか。 賢者にしては変わった名前ですね。 それでは。」
そして、俺達は別れを告げ、門を通過したのだった。