第0話「謎の聖女」
現在時刻:午前2時半。
「チクショウ! 分かんねぇ!!」
そう言って絶望する俺の名前は『小野 健治』。
どこにでもいる普通の男子高校生・・・ではない。
何故なら、俺は非常に馬鹿だからだ。
本来であれば、高校に入学できたことすらも奇跡に等しいが、
何とか合格し、今に至る。
学校では持ち前のトーク力をフル活用し、勉強熱心な優等生を演じている。
・・・だが、入学して早5ヶ月、俺はいま窮地に立たされている。
夏休みの課題が終わらない。 冗談半分ではなく、本当に終わらない。
残り2日で夏休みが終わるのだが、現在残っている課題は10個中8個。
どれも終わらせるのにかなりの時間を要する。 一番初めに終わらせた読書感想文でさえ、
書き終えるのに3日掛かった。
今まで遊んでばかり居た自分への罰だと思い全力で取り組んでいるが、全く進まない。
さて、どうするか。
こんな、誰がどう見ても詰んでいるであろうこの状況から、脱出できる方法が何一つ思いつかない。
頭を悩ませていると、傍にあったスマホから通知音がした。
見てみると、何と俺が好きなゲームの新作が発売していることが分かった。
「少しだけなら・・・問題ないよな。」
俺は万札を財布から取り出し、深夜にも関わらず家を後にしたのだった。
深夜だったこともあり、難なく買えた俺は家の扉を開け、呑気にも
「フンフンフンたっだいま~」
と、言った。
ま、帰ってくる言葉なんて無いがな。
そう、思っていたのだが・・・
「おかえりなさい。」
!!!!!!
心臓が止まるというのは、まさにこの事だろう。
なにせ、深夜に知らない女が突然目の前に現れたのだから。
「うわああああああああああ!!!」
「やはり、驚かせてしまいましたか。」
「だっ誰だよお前!!!??」
俺が家から再び出ようとしたその時、その女は突然真剣そうな声でこう言った。
「貴方に、して欲しいことがあります。」
「は?」
「・・・助けてくれませんか?」
意味が解らない。
何を言っているんだ? 流石の俺でも理解不能だ。
「詳しいことは私からは言えません。
しかし、どうしても貴方じゃないと出来ないんです。」
「いや、理由も分からないのに協力できるか!」
だが、この女・・・よく見ると物凄く美人で、スタイルもいい。
何者なんだ・・・!?
俺はその姿に魅了され、女の話を聞くことに決めた。
「お前は、誰だ?」
そう聞いた瞬間、女は突然光る宝石のようなものを懐から取り出した。
「私は、聖女エミリオ。
異世界の住人・・・と言えば伝わりますかね。」
「異世界の・・・住人だと!?
本当にそんな人間が居たのか!?
いや、そもそも・・・」
と、驚いている暇もなく、聖女エミリオは続ける。
「私が住む世界は、滅亡の危機に瀕しています。
しかし解決するには、『別の世界の住人』の力を使う必要があるのです。しかし聖女たる者、
いかなる状況においても他人に迷惑はかけられません。
そこで、貴方の存在に気づきましてね。貴方なら、きっと私達の世界を救って下さると、
そう確信したのです。」
話が難しすぎて何一つ理解できないが、俺はこう言った。
「俺が、その世界とやらを守って見せよう」
聖女エミリオは一瞬驚いた表情をしたが、すぐに真顔に戻り手に持っている光る宝石を
こちらに手渡してこう言った。
「これを握ってください。
そして、強く念じるのです。 『世界を救う』と。」
言われた通りに、宝石を握り、『世界を救う』と念じた。
そしたら突然、辺りが真っ白に光りだし、謎の空間へと飛ばされた。
何も見えないし、何も聞こえないが、居心地は悪くなかったのでそのまま待ってみよう。
どうせ元に戻っても今までの生活を続けるだけだし、本当に異世界に飛ばされたら
新しい生活が待っている。
そう思うと、不思議と段々ワクワクしてきた。
「・・・・。」
「行きましたか。 あの男は・・・」
「フフフ・・・まさかあの程度の揺さぶりで応じるとは、相当な愚か者ね。
どう見たって怪しい私の話を真に受けるなんて。」
「さあ、精々こき使わせてもらいましょう。
私の栄光を取り戻すために・・・」