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ショートショートの小宇宙

ある病

作者: 駿平堂

 とある病が地球に流行し始めた。その感染力はすさまじいもので、瞬く間に全世界が恐怖のどん底に落とされた。

 

 しかし、罹患してもそれほど重篤の症状が出たり、致死率が高かったりするわけではなかった。せいぜい二、三日熱とのどの痛みが続くくらいなもので、それだけ見ればいわゆる風邪と大差はなかった。

 

 この病の恐ろしいところは、罹患することで見た目が大きく変化してしまう点にあった。発症して一日経つと全身の毛が抜ける。二日経つと全身の皮膚が大きくたるみ、元の顔がわからなくなってしまう。そして三日経つと皮膚の色が緑色に変化する。そしてこの変化は、症状が治まっても後遺症として残り続けるのだった。


 この病が広がるにつれ、クラスメイトや会社の同僚が一週間ほど休んだかと思えば、全身を布で覆った姿で現れる、なんていうことが相次いだ。


 また罹患した後、醜くなった自分の姿が社会の目に曝されることに耐えられなくなり、引きこもりとなる人も少なくなかった。

 

 政府はこの事態を重く見て、不要不急の外出を禁止する措置を取ったが、それでも感染は収まる気配を見せなかった。

 

 期待されたのはワクチンや特効薬の開発であったが、現代の医学の力ではこの病を予防することも、症状を抑えることも全くできなかった。

 

 誰もが、次は自分の番ではないかという恐怖を感じながらの生活を余儀なくされた。

 

 そしてこの病気が蔓延するのに伴って二次的に生じたのが、感染した人に対する差別だった。


 差別はその見た目を理由に横行したが、根底には病の流行によって大きく変化した社会での中で暮らすことによって溜まったストレスやフラストレーションのはけ口を求める心理があった。


 ネット上での誹謗・中傷から始まり、エスカレートしていくと暴力事件が頻発するようにまでなった。学校や職場では居場所を失う人が続出し、引きこもりとなる人の数もどんどん増えていった。

 

 発熱等の症状が治まればその人から感染が広がることはないことは明らかになっていたが、罹患した人への差別は収まる様子を見せず、無視できない問題として捉えられるようになった。


 テレビ番組では、コメンテーターが今こそ人類全体の協力が必要であると主張したり、勇気ある著名人が感染した後の姿で出演して差別をしないよう訴えたりもしたが、それも焼け石に水であった。

 

 差別をなくすためには人々の意識を根本から変える必要があったが、病への恐怖が人を狂わせている今の状況において、それは不可能に近かった。

 

 しかし、解決不能と思われたこの問題も、時が経つにつれて状況が変化してきた。罹患した人の数が増え、もはや罹患していない人の方がマイノリティになっていったのである。


 当初は自分たちが多数派で当たり前の存在であることを疑わず、平気な顔で差別を行っていた人たちも、だんだんと街中に罹患した人が増えていくにつれて肩身の狭さを感じ始め、大人しくなっていった。


 反対に、感染した人たちは自分たちが多数であると認識できると徐々に自信を取り戻していき、これまで通りの生活を送る人が増えていった。


 いつの間にか、肌が緑色で、全身の毛はなく、皮膚がたるんでいることが普通の人類の特徴となった。


 さて、そのような社会になったものの、差別自体がなくなることはなかった。ほら、そこにも。肌が緑色ではなく、そこかしこに毛が生えているやつがいる。


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