緑と青の世界
長い夢を見ていたそれもとてもいい夢を
だがそんないい夢も水月のように記憶の水面の中で揺られ揺られ、そしていずれ忘れてしまう
つまり俺が言いたいことはいい夢を見ていたが内容を忘れてしまった……だ!
「なんなんだここは?俺は家のベットで寝ていたはずだぞ」
そう言いつつ周りを見渡す
視界は良好、空は快晴、見渡す限りの大草原
「うーんもしかするとこれは……」
観察しながら腕を組みしばらく考えることにした
「もしかしてこれは異世界転生とか言う奴ですか!!」
俺は空に向けて声を弾き飛ばすが、いずれスカイブルーの晴れ渡った大空に消えていった
「いかんいかん、こんなことをしている場合じゃないな」
いつもとは違う非日常に高揚感を感じ少し熱くなってしまったようだ
「俺が読んだことのある小説どうりなら……」
俺は視界に出てくるはずのステータスを確認しようと指を指揮者のように縦横無尽に振る
「あっれ?このパターンではないのか」
しばらく粘ったがそれらしきものは現れなかった
「そもそも俺は今人間の姿をしているのか?」
慌てて身体中を弄り確認する、もちろんそんなことはなくしっかり人間している
「ならとんでもない魔力やバカみたいなチートを持っているか……とか?」
手に意識を集中する……が、特に代わりのない、いつもの俺の手だ
いわゆる転生特権はこの世界には存在しないようだ
「はぁ、せっかく珍しい夢を見てるのにこんなことになるとはな」
もちろん、これが現実だなんてこれっぽっちも思っていない、だが夢の中だけでも手から炎とか出してみたかった
空を見上げ深いため息をこぼす
「……こんな景色見れただけでも儲けもんかな」
目をつぶり自然に神経を向ける、心地よい風が俺の体を吹きぬけていく、この風は恵風と呼ぶのがしっくりくるかもしれない
今度は目を開け景色を堪能する、視界いっぱいに広がる緑と青
この趣を言葉で表現するとなるとしばらく頭を抱えないといけなくなるだろう
「ん?」
先ほどは気付かなかったが遠くに街のようなものがうっすらと見えている
「いってみるか」
特に当てもなく、夢から覚める気もしなかったので街を目指すことにした
「うおおぉぉぉ!!」
俺は森の奥を全力で滑走していた、後ろからはいわゆる“スライム“と呼ぶであろう存在が俺を追い回している。数は少なくとも10体は超えている……てかどんどん増えている!!
そんな俺には関係ないことだが周りは鮮やかな色彩の植物が
あれは若草色、あれは萌黄色、あれは琥珀色そして後ろの方には白藍色
「くそ! このまま逃げていてもいずれジリ貧だ!!」
俺は足にブレーキをかけ急停止その勢いのままスライム共の方を向く
「いくら無能力でもスライムなんかに負けっかよ!!」
俺めがけて飛んで来たスライムに渾身の右ストレート、喧嘩なんか一度もしたことはないが多少威力はあるはずだ
グニャァア
拳からは嫌な感触、例えるなら蜘蛛の腹を潰すような感覚
だが、確実にスライムの体内にめりこんだ!
「…………」
「…………」
お互いにしばらくの沈黙
--やったか?
俺は恐る恐る拳のスライムに目をやる…………スライムと目があった
「ぺぺェェ!!」
「ですよねぇ!!」
スライムに物理攻撃が効くはずも無く再びスライムとの鬼ごっこが始まった
地獄の鬼ごっこは思いもよらず、あっけなく、終わるを迎えることとなる
「なっ!」
俺が転けたからだ小石や小枝も無くなにもないところで転けてしまったのだ
「ぐっ! まずい!!」
慌てて後ろを振り返る……が振り返る前にスライムの体当たりを喰らってしまう
衝撃はそこまで無いが体にまとわりつかれ気持ちが悪い
「クッ! 離れやがれ!!」
必死に体を動かすもスライムは体から離れることはなく、それどころか後続のスライムが1匹2匹とどんどん俺の体にまとわり付いてくる
「攻撃で怪我することはないようだな」
束の間の安心とりあえずは助かったようだ……そろそろ夢から覚めてもいい頃かな?
さっきから全然いいことが起こっていないこれなら現実世界の方が全然マシだ
そんなことを考えている間もスライムたちはどんどん俺に体当たりをしてくる
「待て……なんか妙だな……もしかしたら俺はまだピンチ……なのか?」
ここで恐ろしい事実に気が付いてしまった、こいつら俺を溺れさせようとしている
「うわ!!やめろ!!」
慌ててスライムを振り払おうとするも時すでに遅しスライムはあっという間に首元まで到達している
ここからスライムのとる行動は2つだ
俺を包み込み窒息死させる
俺の口に侵入し窒息死させる
「どちらもお断りに決まってんだろ!!」
足掻く、のたうち舞う、暴れまくる
そんなわずかな抵抗も虚しくスライムは俺を包み込んだ
「ちくしょう……スライムにも勝てなかったか、でもこれで夢からは覚めんだろ」
多少悔しい気もするがここでこの夢は終わり、目が覚めてまた俺の日常が始まる――はずだった
「おかしいおかしい!!こんなに苦しいのに目が覚めない!いやそもそもこの苦しみがリアルすぎる」
――もしかしてこれは現実なのか?
そう思う瞬間にはもう意識を手放してしまう一歩手前である
「あれ……俺……死……」
ここで意識を失うことは死を意味する俺の人生も異世界生活もここで終わってしまうのか
パァンと何かが破裂する音が聞こえた、一気に体に酸素がめぐりめくる
「おい、大丈夫か?」
男の声が聞こえてくる、あぁ最後くらいは女の子の声が聞きたかった
「息はあるようだな、少しここで休んでいろ」
最後に聞こえたのは男の声、俺はまた長い眠りについてしまうのであった
疲れたけど楽しい