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5・妖装で試合し候

 静の妖装を調整し終えて数日。彼女はひたすらその動きに体を慣らそうと動き回っていた。


 妖装というのは不思議なもので、西洋のプレートアーマー、通称フルプレートという金属鎧のように全身をくまなく覆う必要はない。


 通常は自身の妖力によって物質を強化している状態らしく、布程度ならともかく、それが革や縄であれば相応の強度や硬度を纏わせることが可能になる。

 その妖力による強化を破るには、妖力を纏わせた武器が必要になるというお約束なのだが、これがまた、分厚い木や革製のモノでも、縄程度の鎖帷子状のモノでもほぼ同等なのだという。


 では、どう貫いて来るかと言うと、妖力の差という事らしい。


 そして、最も妖力が高いのは、予想通り装術師(そうじ)なのだと云う。


「装術師が居った時分には、妖装を纏った者が時間と共に妖力を開花させた云われてはる。ただ、誰でもいう訳やなかったらしい。叡山に今も装術師が居るいう噂が有るけんど、叡山の悪僧が他の妖装持ちより強いか言うたら、そうでもない。そもそもの妖力開花自体が秘伝やさかい、ホンマの事は分からしまんのや」



 弥太郎さんも物知りとは言え、流石に確信的な事までは知らないらしい。


 それから数日、静は一人で刀や槍を振り回していたのだが、どうやら慣れる事が出来たらしい。


「おい、弁慶!もう一回勝負しろ」


 そう言って挑んでくるので相手をした。


 確かに先日よりも動きに無駄がなく洗練されてはいるのだが、僕が脅威に思うほどではない。


 僕も何もせず静を眺めていた訳ではない。妖装の手直しもやっていたし、自身の修練も忘れてはいない。


 静の繰り出す長刀を受け流し、突きを入れるがサッと躱していく。そして、流された長刀を流れるように僕に振りぬいてくる。


 良い動きだと思う。


「くっそ、避けんな」


 静がそんな文句を言うが、わざわざ当たってやる義理もない。


 先日とは違ってそれ以後も冷静に打ち込んでくるが、すべて見切る事が出来る程度のモノだった。


 その時、弥太郎さんの話がふと頭をよぎる。「もし、静の打撃を受けたらどうなるだろう?」


 そう思ってダメージの少ない角度で当たってみることにした。


 ドン


 派手な音がしたのだが、僕の体への衝撃は大したことはない。妖装自体にもダメージは見られなかった。


「どうだ!恐れ入ったか」


 静はそれに喜んでいるので良しとしようか。


 が、やられっぱなしというのも面白くないのでちょっと静に棒を当ててみた。


 何と言うか、見事に吹っ飛んだじゃないか。


「おい、大丈夫か?」


 吹っ飛んだ静に駆け寄って声を掛けてみたが、どうやら何ともないらしい。


「いきなり何するんじゃ!」


 ああ、事が事だけに怒るのも無理はない。


「すまない。妖装だから手加減していなかった」


 本当は加減しているのだが、それは言わない方が良いだろう。


「なんで同じ妖装でこうも違うんだ!」


 同じ妖装でも差があることに不満があるらしい。


「僕は妖装の力ではなく、自らの妖力を流している。静は妖装にある力だけで動かしている。そこに違いがあるんだと思う」


「俺も妖力があればもっと強くなれるって事だな!」


 前向きなのは良い事だ。どうやれば開花するのか僕も知らないので何も返す言葉が無いのだが、頷いておくのが最善だと判断して頷いた。


 当然だが、静はそれからも毎日のように妖装を纏っている。


 半月もしたころだろうか、急に、その俊敏性や力が増した気がした。さらに数日すると跳躍力が劇的に上がってきた。


「静、試しに作った妖装の板がある。これを長刀で割ってみてはくれないか?」


 実は前にも同じことをやっている。妖装と妖力の関係を知りたかったので、静と僕が同じように妖装に使う板を長刀で叩いてみた。


 いうまでもないが、僕は軽く板を割り、静かには割れなかった。


「フン、前と同じと思うなよ?」


 静も自分が妖力を得た自覚はあるらしい。


「おりゃ!」


 妖装を纏ってならば、長刀だけでなく、刀でも割る事が出来た。


「じゃあ、脱いでやってみようか」


 僕がそう言うと、静は妖装を脱ぎ、得意げに笑う。


「俺も妖力持ちだ。妖装無しでも行けるだろうよ」


 そう言って刀で板を斬りつけた。


「んがぁ!」


 どうやら手に響いたらしい。


「どうやら僕の妖力にははるかに及ばないって事らしいな」


 延びた鼻はさっさとへし折った方が良い。下手をしたらまた僕に挑みかねないんだから。


「今に見てろよ!」


 しびれた手をブラブラさせながらそんな事を言ってくる。


 黙ってりゃあ美人なのに、なんでこんなに残念なんだろうな、コイツ。


 弥太郎さんも静が妖力を開花させたことに驚いていた。


「あんさんはホンマの装術師らしいわ。詳しい事は分からんけど、これまで何をやっても開花せん静殿が妖力を持ったんはその証や」


 と言って笑ったが、目が笑っていない。


「さすがにそろそろエエやろう。静殿もあんさんも奥州行く言い出さんさかい、言わしてもらうけど、それだけの力があれば二人で行けおますやろ」


 うん、そう言えば奥州行くって話があったよね。


「今となっては追い出すようなことはせんけど、もう少ししたら奥州行く便が有るよって、その護衛として行ってくれまへんえ?」


 弥三郎さんの店は奥州から金を持ち込んで京で捌き、西国の商品を奥州へ売りさばいているらしい。

 ちょうど奥州へ行く荷があるんだという。


 確かに、煮え切らずにずっと此処に居座る訳にも行かないだろう。いつかは奥州へ。


 史実の義経も奥州へ行ったのだから、ここに留まっても何も始まらない。


「本当にアレで信じるんだろうな?」


 静がそう聞くが、弥太郎さんもそこは確信がないらしい。


「もし違うかっても、装術師と妖装使いなら向こうも歓迎してくれますやろ」


 どこか投げ槍にそう言ってくる。まあ、結局はそうなるんだろうけど。   

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