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3・弁慶は我にありと申し候

「臭いぞお前」


 妖装を解いた僕に対して静はそう言った。仕方がないか、ここ最近、体を拭く事すらできていないもんな。


「そんな臭いのと話が出来るか!妖装付けてろ。脱ぐならちょっとついて来い」


 そう言うなり、どこかへ行こうとする。


「何やってんだ?来いよ」


 これではどちらが勝って、どうなったのか分からないが、まあ、来いというのだから付いて行くしかないだろう。



 ついた先は誰かの屋敷らしい。


「帰れば白拍子をやれとうるさいから、今はここで世話になってる。武芸も習った」


 そう言ってズカズカ屋敷の敷地を歩くんだが、大丈夫なのか?


「ここは?」


 静は振り返ってどこでも良いだろと言いたげな顔を向ける。とりあえずそれに従う。



 僕は妖装を脱ぎ、屋敷の下人と思われる人物に案内されて久しぶりに体を綺麗にする事が出来た。


「何やってんだ!」


 帰ってみると静が僕の妖装を纏って型の動きをやっていた。


「見れば分かるだろう。妖装ってのは誰にでも扱えるもんだったんだな」


 んな訳あるか。妖装というのは妖術を扱える者が自身に合わせて作るもので、他人が纏っても動かせるものではない・・・と聞かされているんだ。が、目の前で動かしているのは確かなんだよな。


「本来の妖装は術を扱う当人にしか扱えないはずだ。お前は一体何をしたんだ?」


 自然と考えられるのは、妖術の何かを盗まれた可能性だ。まあ、機械の鍵じゃあるまいに、そんなものがあるとは思えないが、もしかすると波長か何かを合わせることで他人の妖装が操れるんだろうか?


「ハァ?それはこっちのセリフだ。妖装が他人に扱えない事くらいは俺も知っている。背格好が似ているからちょっとつけてみたら扱えて驚いてるんだ」


 いや、なにその逆ギレ、おかしくない?


「おやおや、静殿がお連れさんを率いて帰りはるなんて珍しいやないですか」


 この人がここの家主か何かだろうか? 


「弥太郎、コレは連れではないぞ」


 そう反論しているが、家主はどうも平然としている。


「お連れでないなら、誰でおますやろ?」


「牛若というらしい弁慶だな」


 家主は反応に困っているらしいが、それは僕も同じだ。コイツが何言ってるのは良く分からん。


「ちょっとした縁で連れて来られた流の者です」


 一応訂正しておこうと口を開いた。


「あんさん、牛若言うんか?それ、もしやとは思うけど、鞍馬の稚児やないやろか?ここらにも話が回って来とるで?」


 そう厳しい目を僕に向けてくる。


「武蔵坊弁慶という僧兵崩れにすぎません。牛若とは我が幼名。似た者が他にも居たのでしょうか」


 シレっとそう答えておいたが


「お前が牛若で、その武蔵坊とかいう坊主を探し回っとるんやないか、ウソを言うな、牛若」


 このバカ、せっかくのゴマカシに何を言い出すんだ。


「そうでっか、自分探しの最中おますんやな。なら、詮索はせんときましょ」


 何だか物分かりが良すぎる家主にちょっと不安を覚えてしまう。


「詮索せん代わりと言ってはなんやけど、この静殿を奥州に届けてくれはりませんやろか。いや、ただ働きや言いません、向こうに弟が居ります、届けてくれはったらそこでお代も出せます。なんなら、そのまま貰うてやっても構いませんやろ」


 何言ってんだ、この家主は。


「弥太郎、まさか、コイツに俺を奥州に運ばせる気か?」


 静がくせぇ~と言いながら妖装を脱ぐ。だったら着なければ良いと思うんだが。


「そろそろ、お爺様に顔見世しても良うないですか?」


 どうにも無理がありそうな関西風京都弁でそういう家主。


「俺のジイは鎮守府将軍。そんなホラを信じろというのか?冗談だろう」


 静は家主の言を鼻で笑う。が、家主は怒るでなく、呆れるでなく見つめたままだった。


「この少女が奥州の者という証はあるんですか?」


 僕の知る話に静御前が奥州の係累などというモノは無かった筈だ。いや、歴史にも物語にもないだろう。ここが魔法世界のファンタジー日本なら、或いは、なのだが。


「そうですな。何の証も無しに連れて行け、は無いですやろな。と言うても、こんなモンしかありませんが。これで信じるかどうかは、私にも分かりません」


 そう言って、何かの書付と形見なのか、帯の様なものを見せられた。僕にはそれをもって静が奥州の者であることはまるで理解の範疇外だ。


「そんな何処にでもあるモンで俺が奥州王の落とし種の娘とは、流石に無理だろう」


 静も信じてはいないらしい。


「どちらにしても、この兄さんは東へ行きはるんや、武蔵辺りまで同道しても罰は当たらんやろうて」


「俺がこいつに襲われたらどうする気だ」


 間髪入れずに、そう言う静。


「それなら、それで貰うてもらえば良うないですか?静殿みたいなじゃじゃ馬、京に居っても嫁に行けんよって」


「あぁ?」


 家主、意外と強いな。静が睨んでもまるで動じていない。


「私より、この牛若弁慶はんに勝たないかんのちゃいますやろか」


 そんな捨て台詞を残して家主は去っていった。


「おい、牛若弁慶、俺にもコレを作れ。その上でお前は俺に負けろ」


 なんちゅう無茶を言うんだコイツは。静かに着物でも着ていれば綺麗なんだろうが、コレでは色々差支えがありそうだ。


 つか、牛若弁慶って何や二人して・・・・・・


「聞こえなかったか?お前は自身の妖術で他人の妖装を作れる装術師(そうじ)だろう。隠すな」


 そう言って睨んできた。


「僕の妖装が扱えるから、僕が君に妖装を作れると、それは分からないと思うが?それとも、装術を装って体を触っても良いのかな?」


 キレて断って来ると踏んで、そう言ってみたのだが、なぜかニヤッと笑いやがる。


「女顔でも女に興味があるんだな。触りたければ触れ、弄れ、好きにすれば良いだろう。俺が勝つまではお前のモノだ」


 これ、ツンデレなん?天然なん?バカなの?あぁ、脳筋か。


「分かったよ。材料を集めてくれるなら作ろう」


「うっしゃぁ!!」


 これで名前が静とは、どうやっても想像がつかない。 



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