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12・義仲討ちて候

 静の声に反応して振り向く妖装の二人組。


「如何にも、征夷大将軍、源が義仲である!」


 勘は当たっていた。


 まあ、向こうもなぜ呼び止められたか気が付いたのは当然だ。こちらもこれでもかと妖装だからな。


「ウヌらの妖装、見かけぬ仕様よな」


 どうやら僕たちの妖装が叡山や源平武将の使うものと違う事を一瞬で見抜いたらしい。


「当たり前だ。これは奥州の秘術だからな」


 まあ、そう言ってくれる方が僕にはうれしい。ここで弁慶作だとか義経作とか言われても困るんだよな。


「面白い!受けてたつ」


 義仲が喜々としてそう宣言しるがもう一人がそれを阻んで前に出る。


「なりません!某がお受けいたす!」


「四郎!邪魔立てするな」


 いや、ここにきて何やってんだ。所詮こいつらも狂戦士(バカ)なんだな。


「どっちでも良いぞ。奥州の力を知りたい奴から掛かって来いやぁ」


 それを見て煽りだすバカが一名。


「ならば参る!」


 押し合いを制したのは義仲だった。引いたと見せて四郎と呼ばれた相方を躓かせてしまった。


 静の大振りな長刀を避けて自らも槍を振るう義仲。


 様子見とばかりに大振りで隙を作っている静。すかさず突きを入れる義仲だが、大振りと見せてたいして力を入れていないので静の長刀が軌道を変えて槍をいなす。


「やるではないか」


 極上の笑みを浮かべる義仲。


「なんだ、そんなもんか?」


 つまらなさそうな静。


「ふん!」


 それを聞いた義仲が一段と速度を増した槍捌きで静を攻め立てるが全てをいなして涼しい顔をしている静。


「なるほど、木曾殿も様子見だったか」


 静も僕との稽古の時のように長刀を振るいだした。


「あ・・・・」


 僕はそれを眺めていて見えてしまった。あのバカ、わざと妖装を狙うことなく槍の穂先ばかりに長刀を当てている。何がやりたいかは明白だ。


「いつもいつも俺はこうやって負けてるんだ。たまには俺も勝ちたいからな!」


 まあ、確かに、静は僕に勝てない。体力や技量の問題ではなく妖装の問題だから逆立ちしても無理だろう。

 確かに、僕は静の妖装を手を抜くことなく作り上げているが、作り手だからこそ、作る際に静の癖や妖装自体の癖を把握できる。同等の力量ならばこの僅かな癖をどれだけ把握できているかで勝敗が決まる訳だが、この点、僕は他の誰よりもアドバンテージがある訳だ。だから仕方がない。


「何だと・・・・・・」


 何が起きたかを理解した義仲が呆然としている。


 静の奴、真打であろう槍先を叩き折りやがった。けいこで使う木じゃないんだ、妖力補強した真打を折るにはよほどの力量差か妖装の差が無ければいけない。この場合、妖装の差がありすぎたって事になる訳だ。


「奥州の妖装の力、分かっただろ?」


 どこか満足げな静。


「胴を薙げば防げぬと言いたいか。ふん!甘いな!!」


 義仲はそう言うと穂先の無くなった槍を静に投げつけて駆け出して行った。


「おい、忠信、弓」


 静はそう言って弓を催促した。スッと忠信付きの家臣が静に弓矢を渡した。


「なめた真似しやがって。義経作の妖装がどれ程の力量か体で知るが良い」


 小さくそう言い放つ静。顔が怖いぞお前。


 聞き慣れたパンという甲高い音と共に矢が飛んでいく。妖装は21世紀の短距離走の世界記録なんか普通に出せる速さで駆けるんだが、銃弾並みの速度を得た矢に勝つことはできない。


 僕の妖装に合わせた妖弓はバリスタも真っ青の速度を誇る。射程も鉄矢を使えば小銃程度はある。


「ふっ、素直に頸を置いて行けばこんな哀れな最期では無かったろうにな」


 だから、顔が怖んだよ静。


「木曾義仲、源が九郎、義経が射止めたぞ!!」


 甲斐の軍勢に向かってそう叫ぶ。ワラワラとその遺体に駆け寄る甲斐の兵たち。


「シカと確認した。木曾殿で間違いござらん!!!!」


 妖装が居たから相応の地位の武将なんだろう。その妖装が確認したらしく、周りの兵が歓声を上げている。


「えいえいえい!!」


 それを見届けると静は興味を失ったらしく、三郎の所に戻ると言い出した。まあ、自軍を放り出してきたんだから原隊復帰は当然なんだがな。


 宇治川の戦場には三郎たちは居なかった。すでに主力を連れて院と帝の幽閉先へ向かったらしい。


「義経!院を助けるのは我である!!」


 きらびやかな外観をした妖装で疾走してきた人物がそう言って静に駆け寄って行く。


「では、任せた。範頼殿」


 お前、本当に戦うこと以外どうでも良いんだな。普通、そこで功を奪われたら怒るもんだろ?


「かたじけない!」


 喧嘩っ早いと噂に聞いた範頼の売った喧嘩を静は買わずに放り投げやがったんだよな。コレ。土肥とかいうオッサンが呆れた顔で静を流し見てから範頼を追いかけていった。

 僕でも思うよ。普通は怒るだろと。


「院や帝がナンボのもんだ。んな事よりも弁慶の作った妖装が強すぎて面白くないぞ!」


 なんで僕に突っかかるんだ?意味が分からん。


「こんなバケモンじゃなく、もっと真っ当な妖装なら俺の辛勝程度の楽しい死合だったんだぞ。分かるか?」


 だから狂戦士(バカ)の考えは分からん。すると、義仲が逃げたのも面白くなかったからとでもいうのか?


「ったりめぇだろうが。こんなバケモン相手にするにゃあ、叡山の装術師でも拉致って新しいの作らせるしかないって考えるだろ」


 いや、するとアレか?義仲は叡山突撃したかったと?


「知るか!」


 やっぱりわからん。



 そして、三郎に救出され、総大将として現れた範頼に感動した院がその場で平氏追討を範頼に命じ、何とかという官位を口約束していた。


「おいおい、あのバカ、鎌倉と同じ官位にすんなり頷いたぞ。後が怖いぞ」


 まあ、それは僕もそう思うし、確か史実じゃ義経がそんな事があってアレに追放されたんじゃなかったか?

 まあ、範頼だって他の源血統だって時期のずれはあるがアレによって同じ様に潰されたはずだけどな。 


 まあ、何だ、範頼も浮かれているんだろう。


「皆の者、院よりの宣だ。福原に舞い戻ったという平氏を討に向かうぞ!!」

 

 おい、速攻かよ。流石に休みが要るんじゃね?


「おお~!」


 なんか、コイツラ全くダメな気がする。

 

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