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「おはようございますリタ先生」


「おはよう、ロイド先生…ところで」


「はい、今日は亜歴1657年の第2周期、17日目です」


「そうか、すまないな」


「いえいえ、おやすい御用です」


「あぁ、そうだ少し頼みがあるのだが聞いてくれないか?」


「私にですか?」


「うちのクラスのアメリアという生徒に錬金魔法を教授してやってくれないか?」


「それは構いませんが、私なんかで宜しいのですか?」


「何を言っている、君はその手の専門だろう?」


「それは、そうですが…」


「では頼んだぞ」


放課後、アメリアは早速職員室へと足を運んだ。


「失礼します」


「あぁ、君がアメリア君だね?リタ先生から話は聞いているよ」


「はい、その…」


「ははは、そんなに警戒しなくても大丈夫だよ、確かに僕は貴族の出だけど、君を差別したりはしないよ」


「はい」


「ここじゃなんだから、場所を変えようか」


2人は職員室を出ると実習室のある方へと向かった。


「それにね、僕は嬉しいんだ」


「何がですか?」


「君が錬金術を使うからだよ、その錬金術ってあんまり派手じゃないし人気のある分野じゃないんだよね、だから君みたいな子が僕の講義を聞いてくれるのは非常に嬉しいんだ」


「そうですか、ありがとうございます」


「うんうん、それにあのリタ先生の頼みだからね、聞かない訳にはいかないさ」


ロイドは笑顔でそう答えた。


「ところで、なんでリタ先生は僕に頼んだんだろうか」


「自分は専門外だと仰ってましたが」


「リタ先生がそう言ったのかい?」


「?、はい」


「ふむ、そうか」


ロイドはなにか引っかかるような言い方をしたが自分の中で解決したらしい。再び笑顔で話しかけてくる。


「じゃあその期待に応えられるよう、これから特訓しよう」


「はい、よろしくお願いします」




リタは自室で急な睡魔に襲われた。その睡魔は突然やって来る。そして決まって夢を見る、その夢はまるで私に思い出させるかのように過去の出来事を鮮明に映し出した。


「無事に…産まれましたよ…」


声が聞こえる、何故だかよく聞き取れないが…これは随分昔の記憶だ。


「それにしても…双子でこうも…違うとは…」


双子、そうかこれは私が産まれた時の記憶か。私には双子の妹がいた。名前はクレア、赤子のはずの私はハッキリと産まれ出た時の事を覚えている。


「お誕生日おめでとう!」


「ありがとうママ!」


これは…そう5歳の誕生日を祝ったんだ。クレアはとても嬉しそうにケーキを眺めている。その姿を私はじっと見つめていた。私には何がそんなに嬉しいのか理解できなかった。



私は産まれた時から空っぽだった。嬉しさも悲しさも怒りも何も感じなかった。そしてそれを異常だとは思わなかった。


「ほら、お姉ちゃんも一緒にロウソクの火を消しましょ!」


私は言われるがままロウソクの火を消した。妹は私とは全く正反対でよく笑い、よく泣く子だった。私にはそれが不思議でたまらなかった。


「双子なのにどうしてこうも違うのかしら」


それが母親の口癖だった。白い髪に紅い目、笑うことも泣くこともしない私を周りは次第に不気味がっていった。


「あの子もしかして、悪魔の子なんじゃないかしら…」


「何かに取りつかれてるのよ…」


周りの大人からはそんな言葉が聞こえてきたが、私は特に何も感じなかった。しかし、妹は何故か必死に私を庇おうとするのだ。


「違うもん!お姉ちゃんは人間だよ!産まれた時から一緒だったんだよ!」


分からない、私には何も分からない。ちょうどその頃だ、私が()()()()()()()()()。私の世界には光のエネルギーのような物が溢れていた。それは、草木や空気中にもあり様々な色や形をしていて、動物や人は特にその光に溢れていた。ある日私は妹にそれが何なのか聞いてみた。


「光?私から出てるの?」


どうやら妹には見えていないらしい。


10歳になる頃にはその光を自由に操ることが出来るようになっていた。空気中の光を手のひらに集めると、妹にも見えるらしく。


「お姉ちゃん凄い!」


などと大はしゃぎしている。その頃になると、私はそれがなんの光なのか理解し始めた。隣の家のおばさんが死んだ時だ。おばさんの体を覆っていた光が徐々に消えてその光は空へと飛んで行ったのだ。妹はわんわん泣いていたが、私にはそれがどういう意味を持つのか理解した。


人はこの世界から産まれ、そして死ぬとこの世界の一部として光となってまた帰っていくのだ。私の目に見えているもの、それはこの世界の理に他ならなかった。


何故私にこんなものを見せるのだ、私が忘れたいと思っているからか?まるで誰かがそうはさせまいと私に警告しているかのようだ。


罪滅ぼしのつもりか?


どこからとも無くそんな声が頭の中に浮かぶ。


「私は大罪人だ、こんな事で罪が消えるとは思っていない」


貴様のせいで多くの命が死んだ。この悪魔め貴様はこの世に居てはならない、直ぐに死ぬべきだ。


「死ねたらどんなに楽なことか‥」





「‥タ‥リタ」


「誰だ私を呼ぶのは」


「リタって言ったよね」


「君は?」


「僕は、ジョン、ジョン・パーカー」


「そうか、よろしくジョン」


目の前には私と握手をする同い年くらいのいかにも好青年といった少年がいた。


「それにしても、この学園の映えある第一回生に選ばれるなんてね、ここにいる14人皆が卒業できるよう願うよ」


「そうですね」


「君は、その‥変わった姿をしているけど何処からきたの?」


「すみません、目障りでしたら隠しますが‥」


「いいえ!その、とても美し‥可愛らしいと思いますよ」


ジョンは恥ずかしそうにそう言った。


「ありがとう」


笑顔でそう言うとジョンは、頬を赤らめて下を向く。ここは、学校で私はここの生徒として入学した。世界中からより優れたエリートだけが入学できるという話だったが、私にとっては容易いことだった。ジョンは、私に好意を持っていたらしくよく話しかけてきてくれた。不思議と私も悪い気はしなかった。


ジョンは才能に恵まれていた。学校で出される課題も次々とクリアし、気がつけば卒業の日も近づいてきていた。


「リタ、この後記念撮影があるってさ」


「うん、分かった」


「ねぇ、リタは卒業したらどうするの?」


「私は特に何も考えていないわ」


「そっか、君程の才能があるなら何にでもなれると思うよ。それこそこの国の魔法聖騎士団とかね」


「‥」


「リタ、どうかした?」


「ううん、何でもないよジョンはどうするの?」


「僕の姉さんは魔法の技術を奪い合う国との争いで死んだんだ。だから困ってる人や弱い人たち、そういった人達の力になりたいんだ。誰もが僕達のように魔法を使えるわけじゃない、だから僕がそんな人たちの代わりになれたら、そう思うよ」


「それは、素晴らしいことね」


「ところで、リタはこの学園での生活は楽しかった?」


「どうして?」


「君はいつも笑顔で皆を楽しませていたけど、僕には‥なんでだろう、あまり楽しそうに見えなかったから」


「‥なかなか鋭いじゃないか‥」


「え?なにか言ったかい?」


「ううん、あ、そうだ良かったら今夜空いてないかな?伝えたい事があるんだけど」


「僕にかい?あまり遅くならなかったら大丈夫だよ」


「良かった、じゃあ今夜裏山に来てね約束よ」


私はジョンの手を取ると指切りをする。


ジョンはその夜、リタとの約束の場所へと向かった。街灯もなく真っ暗な山の中は虫の声と生暖かい風がふいている。頂上に付くと人影を見つけた。


「リタ、お待た‥せ」


リタはこちらに背を向け月を見上げていた。


「来てくれたのね」


「うん、伝えたい事って何?」


「‥」


「リタ?」


リタはこちらを振り向かず、ずっと月を見上げている。


「ジョンはさ、魔法って何だと思う?」


「すごい力だと思うよ、魔法が無ければ人はここまで進歩できなかったと思う」


「この力は人の進化と共に多くの命を奪ってきた」


「確かに戦争なんかにも利用されてきたけど‥でも、この力のおかげで救われた人もいる」


「魔法が無ければそもそも傷つく人はいなかった。君のお姉さんも死ぬことは無かったかもしれないそうは思わない?」


「それは‥、なぜそんな事を言うんだい?」


「その魔法とやらを広めた大罪人が目の前にいるとしたら、君はどうする?」


「え?」


風が止んだ。虫の声も聞こえなくなり、辺りはしんっと静まり返った。


「リタ、君は一体何を言っているんだ」


リタは、ゆっくりとこちらを振り向いた。いつも笑顔で明るい彼女の姿はそこには無く、人形のような無機質で冷たい視線がこちらに向けられている。ジョンはその姿に鳥肌が立った。


リタが一歩こちらに歩み寄る。その瞬間、ジョンは得体のしれない恐怖に陥った。逃げなければ、すぐにここから離れなくてはいけない気がする。そう思い一歩後ずさりした。


「動くな」


リタのその声とともに体の自由を奪われた。指一本動かせない。動けないジョンに一歩、また一歩とリタは歩み寄る。


「君は一体‥」


「これが本当の私、空っぽで何もない。笑うという仕草も()()のもので私のものでは無い」

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