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卒業を見送るしか出来ない

「そ、それはどういう意味ですか?」


生徒達は、リタの発した言葉をいまいち理解出来ずにいたが、シーザーがそう切り出す。


「そのままの意味だ」


「ふざけないでください、貴方は教師だ私達を卒業させる義務がある」


「私は教師以前に魔術師だ、貴様らを見ただけでだいたい分かった。貴様らでは約立たずで戦場に出ても直ぐに犬死するだけだ。悪いことは言わない、今のうちに退学届けでも出すんだな」


「待ってください」


慌てる生徒が多い中、1人冷静な生徒がそう切り出す。


「何かね?グレンド・ロナック君」


「他の9人が凡骨なのは分かります。しかし、僕は違う、僕は代々魔術師の家系で我がグレンド家は200年の歴史があります。この学科の入学もトップで通過しました。僕ならば必ず高名な魔術師になってみせましょう」


「誰が凡骨だ、殺されたいのか」


「やれるものならやってみなよ、クックック」


「上等だ!!」


「黙れ」


リタが再び杖を振るうと今度は全員の声が封じられる。


「そう騒ぐな、何、卒業はさせるつもりは無いが、最低限の事はやるさ、次の階級に上がりたければ自分で努力するのだな、私からは以上だ、この後は自習とする。各自好きにして良い、それではまた明日」


リタはひらひらと手を振ると、ゆっくりと教室を出ていった。生徒達は、声も出ないまま、それを見送ることしか出来なかった。


「くそっ、何なんだあいつは!」


「なんかやばくない?これじゃあたし達全員、進級出来ないよ」


「こんなことしてタダで済むと思うなよ、パパに言いつけて教師を辞めさせてやる。そして、僕の前で土下座させてやる」


「ふん、これだから凡才共は、いいじゃないか、実力こそが全て、僕は1人でも進級させてもらうよ」


「私もう今日は帰ろー」


「私も、なんか萎えちゃった」


生徒達は、愚痴をこぼしながら次々と教室を後にした。


やれやれ、今年の新入生はうるさくてかなわないな。


「また、派手にやりましたねリタ先生」


「バーラックか」


バーラック・ハミルトン、第四階級のクラスを受け持つ魔術師だ。彼の専門は攻撃魔法全般、数々の武勲とその才能が認められ第四階級を受け持っている。


「新入生相手に少し厳しすぎやしませんか?」


「厳しいも何も、私は本当に彼らを卒業させるつもりは無い、まぁ進級を邪魔しようという訳ではない、進級する奴は勝手にするだろうさ」


「あまり、自分勝手をされますと校長に呼び出しをくらいますよ」


「校長が怖くて教師をやっていられるか、それに私は別に教師をやりたい訳ではない、どうしてもと言うから嫌々請け負ってやっているのだ」


「ははは、まぁでも生半可な気持ちでは何方にせよ卒業出来ませんからな」


「ふん、用事がないなら失礼するぞ」


「あ、もうすぐ卒業式です。今回も参加されないのですか?」


この学校では入学と卒業が同じ日に行われる。今年は2人卒業するそうだ。


「全くもって残念だ、卒業しても国に配属され、駒にされるだけだと言うのに」


「私は名誉ある事だと思いますけどね」


「貴様とは意見が合わないようだ。私は式には出ない失礼する」


リタはそう言うと長い廊下を自分の部屋の方へと歩いていった。


「ふん、校長のお気に入りだからといい気になりおって」


部屋に戻ると杖を放り投げベットに横になる。私は一体何をやっているのだ、いくら頼まれたからとはいえ、性にあわないにも程がある。国のためか…くだらない。


目を閉じた。






「…せい……あり…せい」


なにか聞こえる。この声は確か…。


「ありがとうございます。リタ先生!」


「私は何もしていないよ、ハーミット君の努力の賜物だ」


そう、彼はハーミットかつての私の教え子だ。


「いえ、リタ先生がいなければここまでの魔法の上達はありませんでした。あの時僕が魔術師になるか悩んでいた時、先生が助言してくれなかったら、ここまで頑張れませんでした。これでやっと念願だった魔法聖騎士団に入れます!」


「そうか、それが君の夢だったな」


「はい、立派な魔術師になっていつか恩返しにきます」


「それは楽しみだ、君の成長をこれからも見届けさせてもらうよ」


彼は優秀で、私の教えることを次々と習得していった。この年は卒業試験が特に厳しい時期だったが、彼はそれを乗り越えて見事魔術師の最高峰とも呼べる魔法聖騎士団に入隊が決まったのだ。そして、私もそれを祝福していた。しかし…。


「どうした。私を呼び出すとは珍しいな、ん?これは…」


???「……」


手渡されたのは白い紙だった。そこにはこう書かれてあった。


アベルカムル国との激しい戦闘の最中、ハーミット一等兵死亡。


私のせいだ、中途半端に魔法を教えるから、彼を魔術師になるよう勧めなければ良かった。私が彼を殺したのだ。彼には才能があった、その才能をどこまで伸ばせるか知りたかった。その好奇心が彼を殺したのだ。


目が覚めると頬が濡れている。泣いていたのか?悲しい夢を見ていた気がする。起き上がると窓の外を覗き込む、外には2人卒業生だろうか、記念撮影をしているようだ。


「私には、ただ見送るしか出来ないのか…」

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