俺の妻は美しい。元魔王の俺が言うから間違いない。
ポレポレ国
このちょっと間の抜けた名前の国が、俺が今住んでいる国だ。
周囲には人間の王国やら帝国やら盗賊たちの砦やらが点在しており、魔族が支配する魔国やエルフが支配する精霊国もある。なおかつ深い山奥には賢龍や邪龍が棲み付いていて、そんな阿鼻叫喚な場所のほぼど真ん中にポレポレ国は存在しているのだ。
はっきり言って、いつ他国から侵略されて消滅してもおかしくない。
そもそも国と言っても、住んでいるのは千人にも満たず、他国からの侵略に備えた防壁すら無く、何かあった時に戦える騎士も数十人しかいない。
若い連中の大半はきらびやかな王国や帝国に出稼ぎに行って帰ってこないし、残された者の半分以上は年寄りばかりだから、まわりの国からは【消滅予定国】とバカにされる始末だ。
それでもこの国が今まで他国から侵略されずに済んで来た理由は、はっきり言って侵略する価値すらないというか、交通の要所でもなく、資源があるわけでもなかったからだ。
しかし、俺はそんなポレポレ国をことのほか気に入っている。
なにせ、俺の美しい妻が生まれた国なのだから……。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
「あなた……」
包まれた毛布の中で妻が俺の耳元でささやく。妻の声は優しいハスキーボイスでその声を聞くだけで俺の全身はゾクゾクするのだ。
決して上等とは言えない軋むベッド。部屋の中は外と変わらないくらい寒い。外気が容赦なく部屋に入ってきている。
そんな冷気の中で、俺は少しでも妻を冷気から守ろうと必死に妻の体を抱きしめる。
「寒くないか?」
俺がそう言うと、妻はいつもこう答える。
「少しも。この世の中で、あなたの腕の中より暖かい場所なんかありません」
妻も冷えた俺の背中を少しでも暖めようと、腕を回して背中をさすってくれている。
「あなた…体が冷え切っています」
妻が俺の体に腕をまわして自分の体を密着させてくれる。
「………暖かいですか?」
そう言って上目遣いで俺を見る妻の顔を見て思う。俺の妻は美しいと。
先に言っておくと、俺は元魔王だった。
俺が魔城を追い出されて1年がたつ。(追い出されたと言っていいのかどうかも微妙だが)
魔城を追い出されたことに対しては今でも何とも思っていない。というかむしろ願ったり叶ったりなのだ。
魔王というものは力が全てだ。その時代の魔界で最も力を持つ者が魔王となる。
この俺も先代の魔王を力で追い落とし、魔王の座を手に入れたのだ。
ま、今考えれば先代の魔王を倒した時も何か違和感はあった。だいたい、歴代魔王の中でも最強と言われた魔 王だったのに、俺に負けたときはなんだか嬉しそうな顔をしていたし……。
魔王になった俺は、最初こそ魔王らしく人間族と闘いを繰り広げ、サキュバスや美しいエルフをはべらかせて魔王の座を堪能していた。
しかし、そんな生活なんて数十年もすれば飽きてしまうものだ。あれだけ手に入れたかった魔王の座も、すっかり色褪せ、放り出したくなっていた。
ーくそ! 先代の野郎、魔王の座から逃げたくなってわざと負けやがったな!
最後にはそんな悪態を吐きながら、自分の魔王の座を脅かす若い魔族の登場を心待ちにするようにさえなっていた。
ここだけの話、その頃の俺は本当に魔王の座に疲れていたのだ。
好戦的な人間族の相手をするのもすっかり嫌になっていた。というか、あいつら人間は何故あんなに好戦的なのだ? 勝手に人の縄張りに入ってきて、魔物に襲われたと声を荒げて『討伐だ! 討伐だ!』と兵士を送り込んでくる。仕方なく抵抗すれば『平和が乱された! 勇者様! 勇者様!』とこれまた勝手に異世界から関係のない人間を召喚し、勇者に仕立て上げ、俺たちの縄張りに送り込んでくる。送り込まれた勇者にも同情するわ! 全然関係ないのに……。
ま、中には勘違いして『チートだチートだ! 俺強ええ!』と訳の分からない呪文を唱えながら嬉しそうに突っ込んでくる勇者もいないわけではないが、そういう馬鹿は一瞬にして塵にしてやる。ここだけの話だが、最近の勇者というやつは性格も悪いし実力もない。大抵の場合、勇者の後にいる一見頼りなさげな治癒師や魔法使いの方が強かったりするから油断できない。
そして話が分かりそうな異世界の勇者とは一緒に酒を飲み、元の異世界に帰してやった。
「いやあ、助かりましたよ。魔王さんと会えなかったら一生あいつらに勇者だなんだと祭り上げられてブラックな環境で働かされるところでした。ほんとにありがとうございました」
勇者はそう俺に感謝しながら元の世界に帰っていった。
そりゃそうだろう、異世界からの召喚なんて言えば聞こえはいいが、それ、ただの拉致誘拐だからな。
そんなところに若い魔族から戦いを挑まれた。
先代から魔王の座を奪い取ってから、まだ百年も経っていない。
でも、その時の俺は顔がにやにやするのを抑えるのに必死だった。ようやく来たチャンス。はっきり言って俺に闘いを挑む魔族なぞこの先千年待っても現れてはくれないだろう。なにせこの100年ほどの間に邪龍やら堕天使やら人間の帝国やらを滅ぼし、人間族が送り込んできた勇者とやらも50人は返り討ちにしている。
ましてや、俺は肉体的にもまだ若く、魔力の大きさでもその若い魔族に負ける要素は全くなかった
もちろん、まわりの側近たちもそう思っていた。
いきなり若い魔族に倒された俺を見て「えええっ!! うそおお!!!!」と声を上げていたからな。
「ちょ! ちょっとちょっと! いまの、わざとですよね?」
「明らかに自分から当たりにいったでしょ?」
「魔王! うしろうしろ! って注意したじゃないですか!」
「そもそも当たってから倒れるまでタイムラグありすぎでしょ! しかも倒れる所に何も無いのを確認してから倒れましたよね?」
「いや、明らかに俺の負けだ。次の魔王はこの……え、誰だっけ?」
「カスタードだ!」 カスタード? 何、その魔王らしからぬ甘い感じの名前?
「じゃあ、カスタード、今日からお前がこの魔城の主だ。新しい魔王だ。これから魔族のことはお前に任せる。人間族やエルフ族との折衝も頼む」
「ああ、後のことは魔王カスタードに任せろ! 今日から魔界のサキュバスは全員俺のモノだ! この国は全て魔族のモノだ! 人間族は魔族の奴隷だ!」
ちょっと頭がアレな感じだけど、でもまあ、魔王らしいといえば魔王らしいか。
まわりの側近達も、決まったことは仕方ないかという感じで現実を受け入れようとしているみたいだし。
こうして魔城から追い出された俺は、のんびりと各地を旅することができたのだ。
好きなところにテントを張り、魚を釣り、雨の日はテントの中で好きなだけ本を読む。
夜には火を熾し、魚を焼き、燃え上がる炎を見つめる。
もちろん魔力を使えば、一瞬で終わることではあるが、そういう無駄がいいのだ。
そうやって各地を放浪して、俺はこのポレポレ国にたどり着いた。
最初はポレポレ国にある清流に棲むアメゴという魚が釣りたかっただけなので、一ヶ月も滞在すれば十分だと思っていた。
しかし、俺の放浪の旅はポレポレ国で終わりを迎えることになる。
もちろん理由は妻と出会ってしまったからだ!
その日、ポレポレ国にある清流沿いの河原に張ったテントの中で、惰眠を貪っていた俺の耳に女の叫び声が聞こえた。
「やめなさい! 何をするのです!」
聴覚を最大限に研ぎ澄ませその声を聴くと、どうやら盗賊に襲われているらしい。
「何をじゃねえよ。お前みたいな上等の女相手にやるこたあ決まってんだろ? たっぷりと俺たちの相手をさせてから、奴隷として売り飛ばすんだ。お前なら金貨100枚はくだらねえ」
まわりの国からは無いも同然の扱いを受けているポレポレ国だが、盗賊の輩が出ないわけではない。
そもそも国の治安を守る騎士の数が絶対的に少ないのだ。治安がいいわけがない。
若い人間が少ないので人攫いの連中もそうそうはやっては来ないのだが、騎士が少ないのを幸いに、腕に自信のない人攫いがこうやってたまに現れるらしい。
のんびりと魚釣りを楽しんでいる俺からすれば、赤の他人がどうなろうと関係ないのだが、このポレポレ国の清流があまりに素晴らしかったのと、昨日釣り上げたアメゴが思いの外サイズが良かったので、機嫌の良かった俺は女の叫び声のする方に向かった。
「俺の昼寝の邪魔をするのはお前らか?」
大きな木を背に小さな短剣を持って震えている女を十数人の盗賊が取り囲んでいた。
「なんだお前は?」
「死にてえのか!」
「こいつも女が欲しいんだろ? 仲間になるならおこぼれがあるかもよ」
どいつもこいつも脳ミソが虫並みなのか、それとも相手の実力を察知する能力が全く無いのか、どちらにしても生きていく能力が低すぎる。かといって、こんなところでコイツらを皆殺しにしてしまえば、森が汚れるし、そうなるとあの美しい清流も汚される気がする。それに女性の前であまりに酷い惨状を見せたくはない。
「名前は?」 震える女に向かって俺は言った。
「ティマと言います」
小さな声で名前を告げる女に俺は一瞬で心を奪われた。
ー美しい……。
こんな美しい女性を見るのは生まれて初めてだ。魔王という職業柄、数多くのサキュバスやエルフや王国の姫を見てきたが、こんな美しい女性は見たことがない。そんな女性を暴力で蹂躙しようとしやがるとは。
俺の頭に血が上り、手が震えるのが分かる。
「コイツら好きにしていいかな? 皆殺しにするのは決まっているが、あなたの目の前でやるのは気がひけるが」
「大丈夫です。血を見るのは慣れていますから」
さらっと怖い事言ったこのひと。
「ならば」
盗賊たちに向き直った俺は、即座に森から魔獣たちを呼び寄せた。
元魔王とはいえ、魔獣を召喚するなど造作もない。
「こんな美しい女性を怖がらせた罪は重い。お前らには全員、魔獣の餌になってもらう」
俺はそう言うと即座に盗賊たちのまわりに結界を張る。そのことに気づいた連中は何とか結界から逃げようとするが、元魔王の俺が作った結界だ。人間どころか魔族でさえ逃げ出すのは無理だろう。それどころか今の魔王ですら無理だと思う
作った結界の中で、逃げ場を失った盗賊たちは魔獣に襲われ喰われ始めた。腕を喰われ、足を喰われ、内臓を貪り喰われる。魔獣が人間を喰う時は、最後まで頭や心臓を喰わない。人間の叫び声も魔獣にとっては美味しいデザートのようなものだ。
叫び声を聞きながら魔獣たちは盗賊たちを旨そうに貪り喰う。森の中に盗賊たちの叫び声が響き続け、そして、最後の声が聞こえなくなった時、そこには人間がいた痕跡などひとつも残ってはいなかった。
「ひどいものを見せてすまなかったな。魔獣たちなら、森を汚さずに始末してくれると思ってな」
「とんでもありません。助けていただいて感謝しかありません。というか、助かったのでしょうか私?」
「どういうことだ?」
「こんなことを言うと怒られるかもしれませんが、あなた様はものすごい力があるとお見受けしますし、私を攫って好きにしたければいくらでもできそうですから。あなた様の奴隷になれと言われればそうするしかないような……」
ああ、今度は俺に何かされると思っているのか。あんなことがあったのだからそう考えるのも仕方あるまい。
「あ、いや、もちろん、こんな美しい女性を好きにしたいという気持ちは男なら誰でも持つ。そういう意味では俺もあいつ等も変わらんかもしれん。しかし、俺は、そういう事を無理やりするのが好きではないのだ……俺に好意を持たない美女とする接吻よりも……俺に好意を抱いてくれる普通の女性との接吻の方が100倍は甘美な味がすることを知っているからな」
それは、魔王時代の俺の体験から間違いないことだと断言できる。
魔王の座にいた時は、あらゆる女が俺の元に献上された。
中には俺に好意を持っていない女ももちろんいた。
村を守るため。国を守るため。そして家族を守るため。そのために自分の身体を犠牲にして魔王に守護を求めてきた女たちだ。
いずれ劣らぬ美女揃いではあったが、本心から魔王に抱かれたいと思っている女はほとんどいなかった。
中には魔王に抱かれることを心から望んでいる女もいることはいたが、それも魔王の力に抱かれたいだけであって、俺個人の魅力に抱かれたいわけではなかった。
「だから、お前は何も心配しなくてもよいのだ。このまま家に帰るがよい」
俺の返答を聞いた美しい女は、少しだけびっくりしたような顔をして、そして、ゆっくりと答えた。
「命の恩人の方に、何のお返しもしないまま帰るわけにはいきません。あなた様はどちらにお住まいですか?」
「俺か。俺は旅の途中なのだ。旅といっても帰る家もないから家無しの放浪者だな。この国には美しい清流があると聞き、その清流で釣りがしたくてやって来た。この先に小さなテントを張って過ごしている」
「失礼ですが、お名前をお聞きしても?」
「ああ、名乗っていなかったな。それは失礼をした。俺はデニスウィックと言う」
俺が名乗ると、ティマは少し身構えてこう言った。
「デニスウィック……たしか先代の魔王の名前がそうだったような……」
こんな辺鄙なところまでも俺の名前は知れ渡っているのか。そんなに悪どい事をした記憶はないんだが。
しかし、俺が元魔王だと分かれば騒ぎになるかもしれん。ゆっくりと釣りを楽しみたいのに騒ぎになるのは勘弁だ。
「ああ、確かに元魔王の名前もデニスウィックとか言ったな。俺はその元魔王とやらとは何の関係もない。ただの放浪者だよ」
「そうですか……でも先ほどの力を見ればデニスウィック様は相当な魔力を持つ方だとお見受けします。もしよろしければ、私の家においでくださいませんか? お礼といっても私の料理とお風呂くらいしかないのですが……」
そう言ってティマは頰を赤らめた。
これだけ美しい女に誘われて、断ることのできる男などいないだろう。ましてや、旅の途中で風呂に入れるなど滅多にないことだ。旅のほとんどをテントで過ごす俺にとっては、風呂は最高の贅沢なのだ。
「いいのか? 見ず知らずの男を家に入れて。家族がびっくりするだろう」
「家族はおりません。私ひとりですよ。去年まで母と2人で暮らしていたのですが、その母も亡くなりましたし……」
「そうなのか。それでは、お言葉に甘えて、邪魔するとするか」
ティマに連れられて2人で森の中を歩いていく。ティマの歩く後ろ姿を見て改めて思う。
美しすぎる。
身体の線がうっすらと分かる服からは驚くほど大きい胸のラインが見える。
そして、華奢な肩から腰にかけてのラインと、そして大きめのお尻が俺の感情を揺さぶる。
――ティマを襲った盗賊たちの気持ちも分からんではない。ティマの後ろ姿は男を狂わせる。
こうして俺とティマは出会い、夫婦となり、毎日愛しあっているのだ。
俺は家のまわりに畑を作り、川で魚を獲り、のんびりとスローライフとやらを満喫した。決して流行りにのったわけではない。前々からこういう暮らしに憧れていたのだ。
そんなスローライフを満喫していた俺のところに、あの新しい魔王がやってきた。
「頼みがある」
「いま、薪を割るのに忙しい」
「そんなもん! 魔力を使えばいいだろうが!」
「分かってないなお前は。薪割りは体を三回温めてくれる。賢者ニコルの言葉だ。魔力を使えばいいというものじゃないぞ」
「そもそもこの家には薪ストーブが無いだろ! そんなことより、頼む! サキュバスをなんとかしてくれ!」
ああ、やっぱり。
そんなことだろうと思った。魔王の仕事のひとつとして、サキュバスの相手をするというものがある。基本的にサキュバスは人間の夢の中に忍び込み、精を人間から搾り取って己の糧にしている。特に女を知らない若い人間の精力はものすごく、サキュバス達の絶好の相手となっていた。
しかし、人間の好みも少しずつ変わっているようで、最近の若い人間の中には『貧乳こそ正義!』だの『微乳こそ至高!』とか言ってナイスバディのサキュバスには目もくれず、少女の絵が描かれた枕に抱きついてサキュバスを無視する奴らが増えているそうだ。
サキュバス達もなんとか振り向いてもらおうと努力はしたのだが、『分かってませんね』『わたくしは童貞を捨てられないんじゃない。捨てないだけなんです』『嫁なら間に合ってます』『その程度の淫夢でこのわたしを堕とそうなんて舐められたものですね』などと馬鹿にされ、泣きながら魔城に帰ってくるサキュバスのなんと多いことか。そんなサキュバス達の相手をするのも底知れぬ魔力を持つ魔王の仕事のうちなのだが、1日平均3人のサキュバスを相手にするのは相当の魔力と体力を必要とする。
「な、頼む、サキュバス全部とは言わない。せめて半分だけでも受け持ってもらえないか?」
「お前、この国のサキュバスは全部俺のモノだ! って喜んでたじゃねえか」
「そ、それについては謝る! この通りだ。あんたがサキュバスの相手をしてたのは役得だと思ってたんだ。羨ましいって。でも、間違ってた。役得どころか、辛すぎるだろこれ!」
若い魔王は両手をついて頭を下げる。おいおい、魔王の土下座なんて初めて見たぞ。
まあ、普通の魔族がサキュバスの相手をすれば身体中の魔力を搾り取られ、下手すると何年も復活できないなんてザラにある話だ。この若い魔王の魔力だと土下座する気持ちも分からんではない。俺が魔王の座を降りたかった理由のひとつにサキュバスの相手をするのがしんどかったというのもあるからなあ。もっとも俺の場合は肉体的なものよりも時間が欲しかったという理由の方が大きいけど。
「ああ、分かった分かった。ただ、俺の一存では決められない。今の俺には妻がいるからな。妻の許可が出れば考えてやる」
「ほんとですかあ! ありがとうございます! ありがとうございます魔王さま!」
いやいや、魔王はお前だろ?
土下座していた魔王を連れて俺は洗濯物を干していた妻のところにいった。
「ティマ」
「はい、あなた♥」
いやいや、今日も俺の妻は美しい。
華奢な肩から流れるようなくびれたライン。そこから大きめのお尻へのラインがまたそそる。
妻は大きめのお尻に少しコンプレックスがあるようだが、そこが良い! そこが良いんだよ!
俺も若い頃は『太ももと太ももの間のスキマにこそ男のロマンがつまっている』などとわけの分からんことを言ったもんだが、今から行って若い俺をぶん殴ってやりたい。
華奢な上半身とむっちりとした下半身の組み合わせこそ至高!
実際、ベッドの中で妻のお尻や太ももを触っていると、時間を忘れて窓の外が明るくなるなんてことが珍しくない。それに妻の肌がこれこそ本当にすべすべだからな。というか俺は何を言ってるんだ?
「コイツがお前に話があるそうだ」
「え! 俺が言うんですか?」
「当たり前だろ! 俺から言えるわけないだろ!」
ティマがキョトンとした顔をしている。その顔がまた可愛い。この可愛さの破壊力の前では、俺の魔力など無いも同然だ。
「あ、あの、ティマさん……」
「はい?」
若い魔王は自分が今置かれている状況をポツリポツリと話し始めた。
――サキュバス達が人間の精を得ることができず困っていること。
――本来なら無尽蔵の魔力を持つ魔王がサキュバスの相手をしてやるのが務めだが、自分にはそこまでの魔力が無いこと。
「むー」
妻の顔がふくれている。その拗ねてる顔がまた可愛い。でも品がある。この品の良さは人間の王族の姫でも敵わない。
「旦那様であるデニスウィック様は魔王を引退されました」
「は、はい」
「本来であれば、今の旦那様のすべては妻であるわたくしのものです」
「は、はい。おっしゃるとおりでございます」
おいおい魔王。お前、威厳とか忘れてきたのか。それにしても妻に所有権を宣言されるのがこんなに幸せとは。 もっと、もっと俺を束縛して!
「しかし、サキュバスさん達の置かれている立場もよく分かります。わたしの友達にも何人かサキュバスがいますから」
「あ、そうなんですか……」
「よく愚痴を聞きますよ。なんでも先代に比べて今の魔王は……その……弱いとか……」
「え、ええええ!! 俺そんなこと言われてんですか?」
「あ、あの、意味はよく分からないですけど……」
いやいや妻よ。分かってるだろ?
「それに……わたしも成長しましたから! 旦那様のお相手はわたしひとりで十分に務まっているのです!」
それは妻の言うとおりだ。最初の頃は夜も朝も求める俺の要求に体力がついていかなかった妻だったが、今では俺の要求どころか、おかわりを求めてくることだってある。
「でも……さきほども言ったように、サキュバスにはわたしのお友達もいますから……」
「それじゃあ」
「仕方ありません……」
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
「ほんとは、あなたに断って欲しかったんですよ? わたしのところに来る前に」
そうですよね。それについては本当にごめんなさい。申し訳ない。
「でも、あなたが優しいのはわたしが一番分かってますから。困っているサキュバスさん達を見捨てられませんものね」
「ほんとにいいのか? 」
「でも、ひとつだけ約束してください。サキュバスを抱いた後は、必ずその倍の回数わたしを抱いてくださると」
「それはもちろん……えっ? それだと今までよりも増えてない?」
その問いには答えずにっこりと笑って俺の太ももに手をのせるティマ。
そのあまりの可愛さに、俺は体を鍛えることを決意するのだった。