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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

……というゲームの話である。

作者: 高橋 凛音

 コーン、コーン、と固いもので木を打ち付ける音が皮の装備を着た白人の男の耳に聞こえた。


 広葉樹林が生い茂る林の中、音を立てる主に足音が聞こえないようにしゃがみ込み、白人の男は藪から藪へ姿を隠しゆっくりと近づいていく。


 音の大きさから考えてそう遠くない距離だということはわかっている。


 だがここで焦ってはいけない、ここで焦ればやられるのはこちらの方だ。と自分を制し少しずつ歩みを進めていった。


 それから少し進んで5メートルほど先、藪の葉の隙間から半裸の黒人が石斧を手に、木を叩いているのが見えた。


 獲物を見つけ一段と心が跳ねるのを感じ、ごくりとつばを飲み込む。そっと手にしていた手作りの石槍を握りなおした。


 腰ほどの長さに細く削り出された木製の持ち手の先に鋭く尖らせた石が括り付けられている簡素な槍。


 それを中段で構え、石斧で木を切っていた黒人の背後から頭にめがけて……。


 ぐしゅりと頭に鋭いものが刺さった音が響き、頭蓋骨が割れた頭から赤いものが噴き出す。


 木を切っていた黒人の男ではなく、槍を持っていた白人の男の頭に木製の矢が刺さっていた。




 音を聞いてやってきていたのは一人ではなかったのだ。


 もう一人藪に隠れて機会を伺っていたのは左手に弓を持ったアジア系の女性。


 矢をつがえて狙い放つという動作には二人を処理するのにどうしても数秒のタイムラグがでてしまう。


 ならば石斧と槍、どちらの方が危険性が高いかを比べ、結果槍を持っていた男を先に処理をした。


 そして標的は黒人の男へと向かう。

 しかし危険を察知しその場から逃れていた黒人の男は既におらず、そこには地肌が露出した木が倒れそうになっていた。


 弓持ちの女は黒人の男を無理に探し出し追おうとはせず、槍持ちの装備品を急いで回収する。


 危険性が高いということはそれだけ倒したときの利益が大きい。


 半裸の男よりも皮装備を着ている分、槍持ちの方が美味しい獲物だった。




 だがそこへズドンと爆音を鳴らし、また一つ弓持ちの死体が作り上げたものがいた。


 手に持つのはパイプやスプレー缶といった明らかに銃の部品としては使われないものを組み合わせ、どうにか火器としての役割を持たせた手作り性あふれるショットガンだった。


 細かな部品など一切使われず安全装置も弾倉もない大雑把なものだが、人を一人殺すには申し分ない威力を持っていた。


 そう、人を一人だけ殺すなら十分だった。


 バン、バンと数発乾いた音が響く。


 慌てて木に隠れ弾を込めるが、使いやすさは威力を上げるために犠牲となっていた。




 発射音を聞きつけやってきたピストル持ちの敵二人組に、引き金を引く直前でやられてしまう。


 もっとも射程の短い手作りのショットガンではこの距離で撃っても大して痛手にはならなかっただろう。


 それに看板や鉄板を薄く延ばし皮に縫い付けられた全身を守る二人組の装備。


 薄いながらも鉄の防御力はそこに倒れ伏している者たちと比べると天と地ほどの差があった。


 それでもこの世界で生きていくにはまだまだ足りない。


 もっと貪欲に生き残るため、そして強くなるために人を殺し敵の遺物を奪う。


 彼らはBandit(武器を持った無法者)だった。


 片方が周りを警戒しもう片方が回収していく。話し合って決めていたわけではなく、自然とこういう形になった。


 ピストルという心強い武器があるため、この使いづらいショットガンは必要ないだろうと捨て置く。


 めぼしいものをあらかた回収し終え、警戒していた方に短く声をかける。


 警戒していたものはそれに応じ、この場から引こうとしたところで、前からやってきた敵と鉢合わせになってしまった。


 男は一瞬で相手の装備を見分け、相方に声をかける間もなく即発砲する。


 やる前にやらなければやられるそれが法律のない世界での掟だった。


 敵もすぐに持っていた銃器で応じる。


 装備にそれほどの差はないが二対一という数の差で押し切れる。と、二人組は欲を出した。


 だが思った以上に相手が手ごわく、中々倒しきれない。


 相手は常に木を使い一対一となるような立ち回りで戦い、上手くいかないことに焦りと苛立ちがたまる。


 感情の高ぶりは手元を狂わせ、元々射撃能力の高くない男は余計に当たらない。


 それに弾も潤沢にあるわけではないのだ、少しも無駄にはできなかった。


 何回目かのリロードを挟んだところで木の隙間を縫うようにして敵が引いていく。


 やりきれなかった悔しさとやられなかった安堵を伴って男は大きくため息を吐き出した。


 敵を追いかける気力も出ず、相方に意見と安心と気持ちをぶつけるため横目で見る。


「……っ!」


 だが相方の悲惨な姿に声が漏れでた。


 腕や足、体にも何発か喰らったのか、血をにじませて今にも倒れ伏してしまいそうだった。


 側に駆け寄り持っていた応急セットですぐに手当てを行う。


 銃声を鳴らしてからかなり時間が経っていた。


 本来なら敵がやってくる前に急いでここから離れなければいけないが、一緒にやってきた相方を置いてはいけない。


 今になって幾つもの後悔があふれてくる。


 完全に俺たちの失敗だった。


 いや、これは俺の失敗だ。もっと当てていれば、もっとうまく立ち回れば、もっともっとといくらでも出てくる。


 だが最初の段階で間違えていることには気が付かなかった。


 弱肉強食の世界、この孤島であいつは一人で生きている。それも銃声を聞きつけて、一番に来るような奴だ。


 漁夫の利を狙ってくる奴は多い。俺たちもそうだ。一対一という状況の方が少ない。


 一人ではどうしても多対一となる場合が多く、その状況をどうにかできる何かを持っていなければならない。


「あぁア!クソッ!」


 知らず知らずのうちに弱者だけを倒し勝つ事に馴れてしまっていたのか。


 それとも俺たちも弱者になりうる可能性を忘れていたのか。


 この島の厳しさをそして危機感が薄れていた。


 だがもう弱さはない、次にあったら確実にヤる。




 そう決心を決め相方の快復を待つその男の背中へ……ズドン!


 回収されるず放置されていたショットガン、それを手に持つのは石斧で木を切っていた半裸の黒人。


「you are Bambi……!」


 てめーは所詮小鹿同然よ。とバンディットと掛けた煽り文句を捨て、二人ともにしっかりととどめを刺した。


 死体から重要性の高いものを中心に奪い林から逃れる。


 銃声に集まってあそこはガチ勢と呼ばれる者たちの戦場となるだろう。


 その酷さは先ほどの比ではなく、5対5対5といった大乱戦。


 さらにその死体を狙って一人や二人といった少数が数多く集まる。


 俺もまた一人で生きるものだ。


 卑怯者、臆病者のscavenger(死体を漁る者)。


 だが一番得をするのは決まって引き際をわきまえた俺のような奴ってことを覚えておくんだな。


 フッと鼻で笑った男はパーーーーン!とひときわ高い銃声をどこか遠くでなったのを最期地に伏した。


 スコープ越しに死にざまを覗くのは家に籠もり、安全地帯から死をもたらすSniper(狙撃手)。


 人の死は止まらず、争いは終わらず、平和は訪れない。


 この世界、この放射線に侵された島の名はいつからかこう呼ばれた。

「Rotted Island」(腐りきった島)









あらすじの回答でも質問でも感想でも、全く違う話でも好きに感想欄に書いてもらえたら。

高評価だったら、このゲームを舞台に話を書くのもいいかなって思ってるので。

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