[映写のシャム猫]
➖ 駄作とはどんな名作にも
勝る系譜である ➖
暗転した視界から瞼を開けると
目の前には 扉が存在し 壁に【2】という数字が記されていた。
僕は ヒンヤリと冷たい取っ手を掴み
重い扉を開いた。
中に入ると黒色の絨毯生地に 淡く照らす
ダウンライトが 行く手を導く 少し細まって
傾斜する床を歩いて行くと右に開けたスペースが
存在していた。
「……映画館……」
「ご名答。当館に御来店ありがとうございます」
僕は 少し驚き 背後に目をやった。
そして 僕の視界に 映ったのはーー
透き通る青い瞳。
白銀に光る白い毛。
顔と足には 鮮やかな黒い毛並みを携えて
漆黒のハットを被り ステッキの飾りがついた
首輪をして 悠然と僕を見上げていた。
「ネコ?」
「はい。私は 当館の見届け人を担当する
しがないシャム猫ですニャ」
僕は 猫が喋ったことに驚きつつも 現実味のない感覚に 浮遊感のある体。
それらを 踏まえて これは明晰夢
なのだとそう思った。
「 ミスター、好きな所に座るといいニャ」
シャム猫は そう言い 僕の前を優雅に歩いて行く。
少し年季の入った劇場にキャラメルホップコーンの香りが 微かにした。
席は 一列目から数えて 十席しかなく
こじんまりとした内観だった。
僕は 夢の中で する事もないので
シャム猫の言うことを 聞くことにした。
スクリーンから 一番見やすい五番列目の真ん中に座った。 するとシャム猫が 寄ってくる。
「 隣よろしいかニャ」と尋ねてきた。
僕は それを了承し椅子を下げる。
と同時に 大きいブザーが鳴り 開幕を告げる。
この映画館は 一昔前の劇場らしい。
行ったことも無い場所が 出てくるとは
まさに夢だな……と考えていると
スクリーンに 三秒前と表示され
「始まるニャ」とシャム猫が 論した。
すると館内の照明は落ち 闇へと包まれる。