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第三章:百年戦争  作者: 赤花野 ピエ露
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第十一話:魔王は強く悲しみに。


 平等も平均もくそくらえ、味気の無い世界に何の価値も無い。

 刺激が欲しい。

 繰り返しの中で死ぬ事も出来ない日常を送るのは苦痛だ。


「お前もそう思うだろう」


 俺に届くかもしれない存在に声を掛ける。


『死ね 屑が』


 嬉しいね、さっさと俺を殺してほしい。この世界では俺は新しい神として祀られてはいるが俺は以前と変わりない。


「また、降りて遊んでみるか」


 止めておこうかな、今回は魔王を肥えさせることにしたのだから。悩ましいが。


「魂を喰らえ。その為の戦争なのでござるよ」


『屑が』






   *






 鉄の陸鯨は大地を駆ける。

 眩しき光を糧にして。


「目的地到着まで三分を切ったわ」

「先行隊が壁になってくれているおかげで楽だったわね」

「そうっすね」


 三匹の鉄の陸鯨は三人の美女をその背に乗せ進む、美しく艶やかな白髪を波に流れるあぶくの様にたなびかせ進む。

 目的地は、


「見えて来たわね」

「あれが」

「魔王城っすね」


 魔王城。城と言うより巨大な墓地、そんな雰囲気の城、その城門が見えて来た。


 先行隊の屍も。


「魔物が居ないっすね」魔王城なのに。

「誰に殺されたのかしら?」鯨を止めて戸惑いの視線を走らせる。

 魔王自らが迎え撃ったのだろうか?

 あれだけ魔物達に街や国を襲わせておいて自分の城に踏み込んだ者をわざわざ?

 随分とお優しく勤勉なことだ。


「ご挨拶といきますかっすよ」


 墓場のような門と城。しかし、その中身は花園であった。こんなにも美しい花々を見るのは初めてのことだった。

 困惑しつつ私は歩みを進めて、そして心臓と脳にさらなる負担をかけてしまう。





 んっぅ…






 油断していた、初めてだ。魔物の王だからどんな醜い奴なのだろうかと楽しみにしていたのに… ずるいっすよ。

「イケメンね」日輪おねえちゃんが男に誉め言葉を言うなんて信じられない、いつも夏希お姉ちゃんにべったりなのに。

 だが、信じられないことは立て続けに起こった。

 私はその光景にモヤモヤした。

 何故だろう… ?


「「     」」


 夏希お姉ちゃんと魔王は無言で抱き合い口付けを交わしていた、私はそれをただ黙って見ていた。

 そうしなければいけない気がしたから。私はそうした。

 魔王の傍に居たい。でも、悲しませる事はしたくない。そう思った。そうしなければならないと。

 まるでそう決められているかのように私はその場から動けなかった。


 モヤモヤした っすよ、嫌だったっすよ。


 ただ、でも、それ以上に魔王を悲しませたくはなかった。

 私は好き勝手に、半ば自暴自棄に生きてきた。今はただ後悔しかない。


 好きな人ができるとは思わなかった。


 私達三姉妹はみな似ている。私のほうが若い、お姉ちゃんよりも若い… それしかない。

 でも… 私は何で… 後悔しかない。人生をやり直したい気持ちで押しつぶされそうになりながら私はただ黙って魔王と夏希お姉ちゃんの抱き合う姿を見ていた。


 私は、なんて愚かなのだろう… 






   *






 私たち三姉妹が人類を裏切り魔王についたことを知った政府は私たちを殺そうとしてくる。当たり前かもしれない。


「三人で魔王を誘惑したか!人類の恥さらしめ!」


 違う。魔王は夏希お姉ちゃんとしか愛し合ってくれない。


「人の魂を売ったクズが!」


 私は、魔王に会って初めて恋をした、初めて相手のことを真に思いやることを知った。


「心の醜い怪物め!」


 人間のほうがよっぽど醜い。魔王のほうが格好がいい。


「死ね!裏切り者!」






 「五月蠅い」







 もう、興味はない。魔王が振り向いてくれないのなら。魔王が振り向いてくれないのなら私にはお前らを殺すことにも価値はない。

 どうすれば、どうすれば魔王はこっちを見てくれるのだろうか?


 夏希お姉ちゃんを殺せば振り向いてくれるのだろうか?


 分からない…






 何でこんな事をしてしまったのだろうか?


「夏希はお前のことを妹として愛し心配していたのに… お前はいったい何をやっているんだ… 」


 分からない。

 ただ、そうしなければいけないと思った。


「琥猫ちゃん… 何でお姉ちゃんを… 」


 皆を苦しめている原因のように感じた。だから…


「【 金剛魔弾 】 出ていけ… お前もだ… 」


 ああ、嗚呼ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ…


 なんで私はあんなことを…


 死にたい、やり直したい。

 苦しい…





     『 拙者がその願いを叶えてあげるでござるよ 』




 おとぎ話や神話に出てきそうな神々しく勇ましい六本足の白馬を幻視した。聞こえた幻聴はどことなく間抜けで、でも、安心感と重みのある声だった。

 だから、幻なのに、幻に返事をしてしまった。あの人に嫌われるから、ここ最近はそんなことはしてこなかったのに。

 嫌われた今となってはもう遅い、死んでしまった、殺されてしまった今となってはもう遅い。


 天国はおとぎ話のように花畑であった…


 …違う、私は天国に行けるような人間ではない。

 ここは地獄だ、現実と言う名の地獄だ。


「死んでない」


 殺さないように加減をされた?

 違う。死地の感覚くらい兵士ならば分かる… 彼は私を殺そうとして技を放った。

 私はあの馬に蘇らされたのだろう。


「その通りでござるよ」


「!?」


 さっきのあの馬がいる。でかい。

「魔王様は今、愚者の王に操られているのでござるよ。おぬしも操られていたからあのようなことをしてしまったのでござるよ」

「え?」どういうことなのだろう???


「これから、おぬしにこの世界の真実を話すでござるよ。おぬしが元々居た世界での出来事から」


 そして、私は知った。


 日輪お姉ちゃんの正体を、魔王と私が交わした愛の誓いを。私と夏希お姉ちゃんは元々一つだった事を、私は夏希お姉ちゃんなんだ!私は夏希お姉ちゃんとして生まれていたんだ!!!だからこんなにもそっくりなんだ!!!!!彼に教えてあげなくちゃ…


 私はここだよって。


 フフフ、アハハハハハハハッ!


 日輪お姉ちゃん… 、 日輪を殺さなくちゃ。

 私は魔王を愛しているのだから… 。

お読みいただきありがとうございます。

次話もよろしくお願いいたします。

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