第一話:冒険の始まりは最果ての村と相場が決まっているのは何故なのだろうか?
始めましての方もそうでない方もよろしくお願いいたします。
いよいよ始まりました、第三章:百年戦争、地点Fを超えた物語の始まりです。
お楽しみいただけましたら幸いです。
「こちら38469、放射線汚染濃度測定機能の異常を感知、近くに奴が要るもようです。 繰り返します―」
ノイズ雑じりの無線通話、ノイズが出ているのは彼らの技術力が低いからではない、たんに距離が離れ過ぎているからだ。
「了解しました、引き続き調査を続行いたします。」
視界は悪い、何故ならここは巨大な暴嵐の中だから。
島一つの焦土、消失。その膨大な熱量により発生した巨大な暴嵐、万物の礫を孕んだその巨大な暴風の中に留まれる彼らは到達者であり代理者だ。
島一つ、ただ、その島は人間的な感覚で言えば大陸と呼べる規模のものであった。
「太陽のゼリーをだいぶん使ってしまいましたけど、奴を倒せて良かったですね。 ただ、いつまで経ってもこの嵐が消えないのは何故なのでしょうか?」
「それを調べるために、こうして此処にやって来ている。 確認ありがとう、だが、まだ回線は守っている大丈夫だ」
「了解です。 出過ぎたまねをいたしました、すみません。」
いいさ、と手を振り足を進める彼は数人の部下を連れ先陣を切る。
「感度を上げるためとはいえ、外装を脱ぐのはやはり危険なのでは?」
「奴によって装備が壊されたのだ仕方あるまい。 俺は隊長格だから予備は余分にある、すぐに復帰できる俺がセンサーになるのが早い」
「奴はいったい何が目的なのでしょうか?」
「奴は、おそらく代理者だ。 我々の戦力確認にでも来ているのだろう。」
「やはり、そうですよね」
「ただ、あの見た目が気になるな」
「顔のあの紋章に白髪頭、そして木製の棒状武器。魔王と酷似していますね」
「魔王、この世界に凪をもたらす存在… 厄介な」
「そういえば、見た目が短期間で複数回変るとのほうこくがありましたね」
「ああ」
「5766大佐… あの方のデータを消し去った存在」
「サーバーからもデータを消すとは、魔王、倒せて良かったです」
「魂が抜かれる、我々にもそれがある事を教えてくれた5766大佐には感謝と哀悼を示そう、魔王の確実な死をもって」
「はい」
回り廻り繰り返す、終わる事なき運命の螺旋により歪められたその暴嵐の中で一筋の煌めきが辺りを照らす。
<PPP PP PPP PP>
*
煉獄、私達の村はそれにほど近い。
俗に言う『最果ての村』だ。
格好良く言うとだけど…
「こんなド田舎にさぁ、魔王様も来ねぇってよぉ」
「なぁに言ってんだってぇ、来るに決まってるよぉ」
「んけねぇんけねぇ、んなぁわけねぇってよぉ」
嫌だ、戦争の為に創られた統一言語の翻訳システム、その概念があるせいで私は私達が使っている言葉が酷く訛っている事を知った。
『 …え!???? す、すみません。何を言っているのか分からないです… すみません。』
この村に立ち寄った一人の勇者様が言ったこの言葉とあの顔を私は一生忘れないと思う、忘れたいけど。
「皆ぁ、もうこの話さするの止めようっていってたじゃぁんですよぉ」
「ちゃんとした言葉で喋れぇ、なぁに言ってかわっかんねぇよぉ」
言葉として口に出すと、思っていた内容とは違ってくることがある。
恥ずかしい。
論は続き無言も生まれる、次第に無言が増えて行き長老が口を開く。
「ここまでにぃすってよぉ」
重い空気、遂にこの時が来てしまった。
「サピラポワラボッポッツチーネ、こんのぉ村さぁおめぇしかミル文字読めるもんはいねぇ」
長老が私を見つめて言葉を続ける。
「わかってぇくれんなぁ」
大金だ、村中から集めて来たのだろう両の手の平一杯分の硬貨が私の前に寄せられる。
「皆ぁんためさ行ってくれぇ」
この村を出たからといって魔王様が見つかるとはかぎらない、皆もそれは分かっている。
口減らし、
ではない事くらい私でも分かる。
この村唯一の若者、私を生かすため…
この村に明日の朝日は昇らない。
魔法が使えれば女子供でも田畑を耕せる、私のお父さんは出稼ぎに村を出て行って戻ってはこなかった。
当たり前だ、幼かった私には分からなかったが衣服も食料も持たずに街へ出かける事など有り得ない。
出稼ぎ、この村の周辺にお金なんて使える場所は無いのに… 。
目を腫らしながら父の着ていた服の糸を解き私の服を縫ってくれた母の顔を私は忘れることができない、この村には忘れたくない顔がいっぱいある。
「皆ぁ」
訛りが涙でより訛る、恥ずかしいくらいに顔が崩れる。
この村でお金は記念品だ、長老が首にかけていた金貨を硬貨を入れた袋に乗せる。
「ワシの息子さが守ってくれってよぉおぉ、安心すんだよぉ」
出稼ぎ、運良く街に行き着いた者が背負子いっぱいの食料をもって帰って来る事が極稀にあった。
長老の息子もその一人だった、そう、だった。
二十数年、背負子いっぱいの食料を皆の為に持ち帰る為に犠牲にした時間、痩せ細った体そしてその命、皆に世界情勢その情報を持ち帰る為に犠牲にした尊き輝き。
目の前に有る硬貨の輝きは皆の命の輝きなのだ。
『もしもの時の為に』そう言い残されてきた皆の輝きが今日集められたのは、そのもしもの時が来たからだ。
私は村唯一の若者、魔法をまともに使え足腰がいうことを利く者はもう私しか居ない。
神獣白彦様がその身を犠牲にしお守りになられたこの土地を離れるのは心苦しい、皆は神獣の護りしこの地に骨を埋める。
私も残りたかった、でも、皆はそれを許してはくれなかった。
村の皆の為に、私は自分の生の為に生きて旅立つことを決め、荒野に足を踏み入れた。
私は、生きなきゃいけないんだ。
*
左の耳に違和感がある、虫が入ったわけではないがもぞもぞする。
小さな空気風船を入れられているような感覚だ。
耳の違和感を抱え過ごし数週間が経った。
私は変な夢を見た、変な夢だ。
白色とも靄とも言えない空間の中
緩やかな下り傾斜面と平地との境目に居た
下り坂は何故か暗く灰色でそこに踏み入ると周りに複数人もの人の気配がある事を感じた
数メートル、3メートルほどの緩い坂を下ると暗い灰色の空間に左折路がある事に気が付く
いや、左折路以外は白色とも言えない灰色の壁で閉ざされている
いや、地にくの字型の溝が掘られていると言うべきか
左折すると数メートル、3メートルほどの緩やかな下り斜面の坂道が続き暗さをより増す
公共のシアタールーム、その扉を彷彿とさせる重厚だが何処か味の薄さを感じる暗いワインレッドの観音扉
装飾の無いその扉の先には白い光を反射させているだけの巨大スクリーンが存在感薄く主張していた
話し込む、話し合う、人の気配が増える
会食だろうか、状況確認だろうか
シアタールームらしく横並びに三十席ほど縦に十数段、人は前詰めに半数近く座している
私は立って後方に目を向けた
会話は聞こえない、それどころか顔を認識することも叶わない黒塗りにされた人々、人影と言うにはあまりにも靄けている、認識阻害を受けているようだ
だから私は後方に席の最後方、壁に視線を向けた焦点を何処に合わせたら良いのかも分からずに
明らかに空間の歪んだこの場所に響き渡るヴァイオリンの旋律
後方から聞こえている気がしたその旋律に耳を澄ませる
同じ節を繰り返すそのヴァイオリンの音色はテンポを上げても軋む事は無く速度を上げて行った
今まではこのような夢を見ている時に意識があれば恐怖心から現実へ戻ろうと意識の覚醒を図る所だが
何故か、その短き節を繰り返すそのヴァイオリンの旋律を聞いていたくなった
どこまで早くなるのだろう
最初は囁くように次は大きく、女の唸るような悲鳴のような声が左耳をもいできた
左首筋の引き攣りと左二の腕と首の違和感に怠さを感じながらビクンと跳ね起きた
目が覚め気が付くと左耳の違和感は薄れていた
丑三つ時を一刻半過ぎたころ合いの目覚め、そんな頃合いの時間帯
明かりをつけ、つけたまま再び目を閉じる
赤子の一口、女の気配、私は再び眠りについた
短く浅い眠りにしかならなかったがその日の午後までその夢について忘れるには十分な眠りであった
「寝すぎたなー、っすね~」
この世界の夜は長く大小二つの月明かりが長き夜を見つめている。
百年が経ったのでそれには既に慣れている。
たんに寝すぎたのだ、昼寝をしすぎたのだ。
夜もあれだけ寝たのに、な。
「何も無いっすねー」
ただただ荒野をひた走る、相棒はV16の大型エンジン搭載の無限軌道式レンジャーモビル。
動力エネルギーは私自身が補充できるので燃費の悪さは気にならない、冷却さえしていればいい。
マッコウクジラのようなこの見た目には愛着があり毎日手入れを欠かさず行っている。
荒んだ心を癒してくれる相棒の速度を緩める、轢かないようにゆっくりと。
「行き倒れか… 」
荒野の真っ只中、緑の端も見えない薄橙色の荒野に先住民らしき死体が…
「うぅっ… 」
「あ、生きてる。 んー、あー、可愛い顔してるなぁーっすねぇー」
私の好みの顔をしている、なので助けよう。
「あ… み、水… …あんがとぉございますぅ」
「いいっすよ、気にしないでもっとお飲みよっす」
「女神のようなお人だぁ、あんがとぉございますぅ」
「フフフ、っす」
☆
純粋な少女の大きな瞳に潤いが満ち水を恵んだ女神のような存在を反射し映す…
ピエロの王はその名に冠を被りし存在、必要なのは王尺。 玉座は器の具現化たりて名乗るは座したるその証、彼女は…
命の重み、命の輝き
その価値観と感性の違う二人の少女が神々の代理戦争の最中に出会った。
誰かに保証された通貨に価値など無い、何故なら●●に価値など無いから。
お読みいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いいたします。