家康と秀吉
風邪引きました。
三人は暇な時間を持て余していた。
「忠勝何か買ってきてくれ」と家康が言ったので出かけた。
しばらく二人は外を眺めながらぼーっとしていが急に家康が、
「風呂に入ろう」と言い出した。
「忠勝殿を待ってた方がいいのでは?」
「あぁそうだな、早く帰ってこないかな」
などと言いながら時間を潰す。
日が落ち始めた頃ようやく忠勝は帰ってきた。
「殿、ご飯はこちらで用意します」
「そうだな流石に食べには行けないしな」
そう言うと直政は忠勝と料理をする事にした。
と言っても忠勝が買ってきた物を器に移すだけであった。
食事をしていると不意に家康が、
「今日秀吉がくるなら一人で来るかな?」と聞いてきた。
「一人に見えても一人ではないかと思います」と忠勝は言う。
直政も同意見ではあった。
「万が一に備えた方がいいかも知れない」
二人はご飯を食べるとすぐに帰り支度をし始めた。
そして夜ふけになると秀吉が一人訪ねてきた。
「家康殿、秀吉でございます良かったら話を聞いてもらえんか?」
家康は自ら戸を開けると中に通した。
「夜分遅くにすまぬ」と言いながら向かい合い座る。
「御用とは?」
「実はただただお願いに参った」
「お願いとは金を積んで秀吉殿に頭を下げろということか?」
「えぇそうですが」
「我々は負けてもいない戦で頭は下げない、死んでいった者達に顔向けできん」
「それはよくわかっております、しかし私は天下を取らなくてはならないのです」
「それはなぜだ」
「我が殿信長様の意思を引き継ぎ天下を統一し戦の無い国にしたいのです」
「我が国だけ戦がなくなっても他の国では戦がなくならん、それにいつかは巻き込まれる」
「そうかも知れませんがそこまで責任は持てません」
「ほう言い切るか」
「はい、私はこの国の事だけを考えています、その為に今は皆に我慢をさせています」
「だからこの私にも我慢しろと言うのだな」
「いえ、そこまでは……」
「まぁいい、国のことを考えていることはよくわかった」
「では皆の前で挨拶をしてくだされるか?」
「それは一度国の者と話し合ってから決める、もう夜も遅いお気を付けて」
と笑顔で言う。
秀吉はこれでは帰るしかないと思い頭を下げると立ち上がった。
「今日は話を聞いてくれてありがとうございます」
と言い見送りは結構と言うと帰っていった。
秀吉が買えると隣の部屋で聞いていた直政と忠勝が入ってきた。
「どうしますか?」と直政が聞く。
「彼は本気でこの国の事を思っているのかもしれない」
「そうでしょうか?」
「彼の眼は輝いていたからね、ただ気になったのは彼の手だ」
「手ですか?」
「彼はもしかしたら腕を怪我したのかも知れない、ほとんど動いてはいなかった」
「そうなんですか、少し調べてみます」
「その方がいいかもしれない、とりあえず明日秀吉の元に行き頭を下げようと思う」
「本気ですか?」
「彼が金を渡さなければ戦となるかも知れないが、もしかしたら彼は本気かもしれない、そうしたら手伝いたいと思う」
「分かりました」と直政は言う。
「もし私が間違っていると思ったらすぐに言ってくれて構わない」と家康は笑顔で言った。
次の日一同が集まる中家康は忠勝、直政を連れて秀吉に挨拶に行った。
席に案内されるとすでに秀吉は待っており、上座ではあるが皆と同じ高さに座っていた。
「家康殿、ご足労いただきありがとうございます」と言いながら秀吉は頭を下げると一番上座に座らせた。
「この度は私めに政務をお任せくださりありがとうございます」と頭を下げながら続けた。
なるほどと、家康は思いながらここはひとつ乗ってやろうと思った。
「政務は秀吉殿に任せよう、但しおかしな動きがあればすぐに変える、監査は私と前田 利家殿に頼もうか」
と家康は言う。
利家は頭を下げているがどちらかといえば勝家を尊敬していたので反秀吉派ではあった。
秀吉は両脇を固められ身動きが出来ないと思ったが恒興が負けた事でどうにもならなかった。
ここから挽回するからいいさ、と秀吉は思いつつ頭を下げ続けるが気にくわないので直政を攻撃してやろうと思った。
「ところで家康様、そちらにいらっしゃる方は明智 光秀殿ですか?」
「似ているだろ、彼はとにかく似ているが全くの別人だ井伊 直政と言ってな直虎の甥に当たるんだよ」と笑いながら言う。
秀吉はしまったと思った。
全員の前で別人だと宣言してしまった。
これでは今後攻めることは出来ないと後悔した。
その後一人ずつ挨拶に来た。
天下は織田家の者で家康、秀吉、利家の三人が手伝うと形におさまった。
しかし政務は秀吉が行うので実質は秀吉の天下である。
次は島津だと秀吉は思った。
家康達は挨拶が終わるとさっさと大阪を出ることにした。
「このままここに留まっているとどうなるか分からないからな」
「手厚い歓迎でしたね」
「本当だよ、皆の屋敷に遊びに来いとまで言われてしまった」
皆家康のご機嫌を取ろうと家康に贈り物を渡し、屋敷に歓迎したいと言われたが家康はほとんどを断った。
利家だけは今後の事も話ししたいと言い会うことになったのだが、他の者と話ししても意味がない。
「使者はいなかったな」と家康は呟く。
「彼はまだ若いので中に入れて貰えなかったのですね」
「そうか、彼にも会いたいな」
などと話しつつ忠勝が引っ張る贈り物いっぱいの荷台を二人で押しながら話をしていた。
その頃秀吉は官兵衛を呼び出した。
「ここまでは計画通り、次はどうすればいい?」
「次は島津家ですが石田 三成を行かせて下さい、武力が必要なら大谷 吉継、この二人が強くなって貰わねば困ります」
「わかった、他の者には何と言う?」
「薩摩は遠く暑いのであの二人でいいと言えばいいでしょう、行きたがる奴はいませんよ」
「確かに島津は強いからな」
「大丈夫です、これが今後に役立ちます」と不敵な笑みを浮かべて言った。
秀吉は少し心配だが官兵衛がそこまで言うならと納得した。
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みなさん風邪には気をつけてください!!