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間接キッス

 その日から、博人君を避けた。でも、なぜか学校で博人君は直人先輩と一緒にいるようになり、私達は昼休みや放課後、一緒に連むようになった。博人君は、決して私に話しかけない。


 でも、彼が私を見ているのを知っている。いつもその視線が、熱かった。ドキドキと、不思議な気持ちでいた。

 私は直人先輩を好きだから、博人君への、この気持ちが分からない。


 可憐さんは、直人さんに決めたらしい。そして、美奈ちゃんも。二人共、私に「秘密にしてね。私、直人先輩が好きなの。もちろん順子ちゃんは私を応援してくれるよね」と聞いてきた。

 自分の気持ちも伝えることができずに、二人の恋を両方応援できない。引き立て役の女の応援なんてヒロイン級の美女たちに必要ないのに。中学生の女の世界は非道だ。


 直人先輩は、皆の人気者。彼の周りに人が自然と集まって、楽しい。もし直人先輩の彼女になれば、いっきに学校のアイドルになれる。


 二人共、別にアイドルになろうとは思っていないと思うけど、実際にそうなる。


 私達三人は、一年生なのに、全生徒に話しかけられるようになった。


 可憐さんと美奈ちゃんは、「ちゃん」付けで呼ばれるのに、なぜか私は「順子」と呼び捨てだ。全然可愛くない。私はせっせと二人の引き立て役に徹していた。もちろん博人君を、徹底的に無視していた。

 博人君も直人先輩のようにモテるから、周りに自然と女の子達が寄ってくる。だから、私は彼が何か私に話しかけると、周りの女の子達も会話に入るようにした。

 私の「引き立て役」の技術は、かなり上がった。


「順子ちゃんって、気がきいて、滅茶苦茶、優しいよねえ」


 せっせと引き立て役、及び、便利な女をしている私に、直人先輩が言った。


「ありがとうございます」

 自然に笑顔で、お礼を言えた。

(やさしい……)


 私にとって、一番うれしい言葉。どうして直人先輩は、私をどんどん魅了するの? 直人先輩と結ばれることがないと知っていても、彼に惹かれることを止める技術なんて、知らない……。 


「順子ちゃん。今夜、先輩達が会おうって言ったの。行くよね! 私、順子ちゃんと会うって言わないと、ママが外出許してくれないの」


 一年生の二学期。私達は放課後の夜や休日はいつも会うようになっていた。


  美奈ちゃんの両親は、私が一緒の時は外出を許してくれる。可憐さんと二人の時は、許してもらえないらしい。どうやら、引き立て役の女は、保護者受けはいいらしい。



 夕暮れの海岸沿いの公園。波の音と潮風が、気持ちいい。十一月で少し風が冷たいけど、こんな風に男子と会う状況が、青春しているようでよかった。博人君は、塾に行っていて今夜はいなかった。


「可憐さんは?」


「今、剛先輩と、散歩している」


(えっ?)


 意味が分かんない。この時、男性軍の計画に気付いていたら……でも、気付いていても、何も出来なかったと思う。



「あっ、俺、ノド乾いた! 順子、ちょっと付き合え!」

「えっ! な、何よ。ケンタ!」


 ケンタに腕を引っ張られて、引きずられる。


「もう、何なのよ!」


 ケンタに引っ張られた腕が、痛くて腕を撫でる。

「あっ、ご、ゴメン。あっ、やっちゃった! 腕痛かった? もう俺、最低」

 

 ケンタが私の腕に気付いて、頭を何度も下げて謝る。見た目が不良だけど、ケンタはケンタだった。私は小学校の時のケンタを知っている。

「ううん、もういいよ。もう痛くない。大丈夫だよ」


 本当はまだ痛かったけどケンタが泣きそうな顔をしていたからそう言った。


「本当に、ゴメン!」

「うん。それより、喉乾いているんでしょう。早くなにか買って、美奈ちゃんと、直人先輩の所に戻ろうよ」

 自動販売機を見ながら言った。 


「あっ、ああ」


 ケンタがごそごそと、ポケットに手を突っ込んでいる。私も何かケンタ二人きりと言うシチュエーションが嫌で、自動販売機でファンタオレンジを買った。 夜にケンタと二人きりって最悪だ。

「あっ、俺やっぱり喉乾いていない」

(はっ、何、言ってんの?)


 私をわざわざ引っ張って来たのに、喉が乾いていない? ついムカッとした。でも、少しして気付いた。

 ケンタの家は、母親だけの片親で貧乏だった。小学校五年の時もそのことで問題があり、あの頃からケンタがグレた。よく給食費を払えないことや周りか新しい物を見せびらかした時など、数人の生徒たちはケンタにワザと自慢して嫌味を言っていた。子どもは大人より残酷だ。まあ私もまだ中学生で子どもだけど。


「お金、持ってないの?」


 もっと違う言い方があるけど、こう言うことは、短刀直入に聞いた方がいいと思った。

「……あっ、ああ」


 ケンタが、そっぽを見る。


「そっか。じゃあ、コレ、飲んでいいよ」


 飲みかけていたファンタを、渡す。


「いい! 俺、別に喉乾いていない!」

 本当に、ノドか沸いていないのかもしれないけど、一人でソーダを飲むのも嫌だ。


「もう。私、あんまりソーダ飲めないの! オレンジ嫌いなの!?」

「い、嫌。好きだよ」


 私がイラついているのに、気付いたみたい。

「あ、ありがとう」


 ケンタがソーダを受け取る。ケンタの手が大きくて、はっと驚く。この時期の男の子の成長は、あっと言う間に大人になっていくんだ。ケンタはゴクゴク喉を鳴らせながら、ソーダを飲んだ。


「私、もういらないから、全部飲んでいいよ」

 ケンタが飲むのを止めて、私を見た。


「あ、ありがとう。間接キッスだな。な、何か、俺達、こ、こ、恋人みたいだな?」

(はあ?)


 なんで回し飲みしたら、恋人同士になるの? つい口を開けたまま、ケンタを凝視する。

「もう、ダメー。あっはっっはっはー。もう、ダメー。間接キッス? キッスって、もうダメー。あっはっっはっははー」


 この時ソーダを飲んでいなくて、よかった。じゃなかったら、思い切り吹き出していた。

「……みんなの所へ、戻ろう」


 ケンタがぼそっと言って、スタスタ海岸の所へ歩き出す。


「ちょっと、待って! もう笑いすぎで、お腹痛い。もうゆっくり歩いてよ! もう置いていくな!」

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