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夕焼けの涙

 みんなと駅で別れた後、空っぽの重箱のように、気分が軽くなったいた。


「おい! 順子、待てよ」


「えっ!?」


 驚いて後ろを振り向く。声が直人先輩だけど、先輩は「順子ちゃん」と呼ぶ。


「博人君?」


 博人くんはポケットに両手を入れて、そっぽを見る。


「ん? どうしたの?」

「ああ……」


 ポケットから手を出して、髪の毛を何度か触る。短い真っ黒な髪。前髪がもっと短かったら博人君の綺麗な顔が、きちんと見えていいと思った。


「えとさあ、順子は、何で便利な女しているんだよ!?」


(便利な女?)


 思考が止まった。きっといま私は泣きそうな顔をしているに違いない。


「便利な、おんな?」


 声が震える。


「ああ。何で、みんなに気を使っているんだよ?」


 引き立て役の女は、便利な女だったんだ……。


「わ、私、別に、便利な女じゃないよ。気のせいだよ」


 いつものように、作り笑いをした。


「嘘つくなよ! 俺には、分かるんだ! 俺の母親も、順子と同じだった。だから、俺、すぐに分かった。兄貴は、父さんにそっくりだから、気付かないけど。俺には、分かるんだ」


 心臓がドクンドクンと激しく動く。


「違うよ。気のせいだよ。それに、そんな風に言うの、ひどいよ。わ、私は、便利な女じゃない! そ、それに、あなたに、順子って、呼び捨てにされる理由もない。もう、ほっといて!」


 はじめて、生まれてはじめて、そんなことを言う人に会って、動揺していた。いつもだったら、もっと上手く話を交わせたのに。私はまだ未熟な中学生だった。


「別に責めてなんていないんだ。ただどうして、自分を一番に考えないんだと思って……。見ていて、こっちまで、辛くなるんだよ」


「私を見ていて、辛くなるんだったら、見なければいいでしょう。あなたには、関係ないことでしょう!」


 私は卑怯だけど、博人君が何か言う前に、走り去った。


 引き立て役の女で、いることが楽だった。誰かに必要されていると思えるから。


じゃないと、二番手の私なんて、誰かに必要されなくなったら、本当に孤独になる。だから、家でも家事をせっせとする。

 

 その日の夕暮れの光が、悲しかった。私は、私のことに気付いた博人君を恨んで、文句を心の中で何度か言った。


 でも、しばらくして頬に涙がこぼれた時に、博人君にお礼を言っていた。こんな私に気付いてくれた。

 でも、私は博人君に、会うのが怖い。また惨めな女と見られたくない。私の居場所を、奪われたくない。 


『ピーチクパーチク』

 私の携帯の音がなった。電話の相手は博人君からだった。もちろん電話に出なかった。出れなかった。携帯を見つめながら、電話の音がなり終わるまで待つ。


『ピーチクパーチク』

今度は、テキスト。開けたくなかったけど、ドキドキしながら開く。


『ごめん。別に順子を傷つけるために、あんなことを言ったんじゃないんだ。本当に、ごめん……』


 一度止まった涙が、またこぼれる。分かっている。博人君が、私を傷つけるために、あんなことを言ったんじゃないと。でも、今後どんな風に、彼と過ごせばいいのか分からない。


『カシャ』

 いま見ている夕焼けの写真を送る。博人君に送る言葉が、分からなかった。でも、彼の謝罪を受け取ったと、伝えたかった。

 オレンジ色で、温かい夕日だった。


『ごめん。博人君のせいじゃないって、知っているけど……。今の私には、博人君とどう接していいか分からない……』

心の中で、メッセージを送る。博人君には、絶対に届かないメッセージ。未熟な中学一年生の私……。


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