表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/19

イケメンの弟もイケメン

「あっ、そうそう。俺の弟、連れて来た」


 直人先輩の後ろに、先輩より背の低い男の子がいた。

「こいつ、博人って言うんだ。山村博人。皆と同じ年で、中学一年。クラスは、一年D組だったなあ」

 私達は一年A組だから、D組の人のことをあまり知らない。クラスが二つも離れていたら、ほとんど交流もなかった。

それに中学校に入って、まだ日数が経っていなかったから仕方ない。


「えっ、山村君って、直人さんの弟だったの!?」


 どうやら可憐さんは、全学年のイケメンを、ちゃんと把握しているみたい。


 直人先輩は、どちらかと言うと男性的な格好良さがあるけど、博人君は女性的な綺麗さがある。兄弟と言われると、似ている気がする。背丈も、百六十センチある私より高い。


(えっ、名字が、違うの?)


 人にはいろいろ事情があるので、詮索しないようにしている。


「知らなかった。直人さんと博人さん、兄弟なのに名字が違うんですか?」


 可憐さんが聞いた。もうどうして、そんなに単刀直入に人の事情を聞きたがるのかと、いつも嫌になる。


「可憐ちゃん、失礼だよ」


 美奈ちゃんが、こっそり可憐さんに言う。


「えっ、そうなの?」


 せっかくの美奈ちゃんが気を効かせてくれたのに、分かっていない。


 可憐さんは、将来必ず修羅場を経験すると思う。だから、クラスが離れたらすぐに友達を止めたい、と思っている私も性格悪い。


「ああ、俺達の両親、別れたんだ。俺は、父親で、博人は母の方。同じ年だから仲良くしてくれ」


「ええ、もちろんです!」


 可憐さんが、大きな笑顔をした。


「博人さん、私は、鈴木可憐です。可憐と呼び捨てしてね」

「……」


 博人君は、ムスっとしている。


「博人って、呼んでくれ。ほら、博人も、きちんと挨拶する」


 直人先輩が、博人君に言った。博人君は、嫌々ながら挨拶をする。お兄ちゃんの言うことは、聞くみたい。

「よろしく」


 そっけない挨拶だった。 可憐さんは、博人君と直人先輩と、どっちにするか悩んでるのが分かる。でも、そっけない博人君より、直人さんを選ぶだろう。


 挨拶の後に、バスに乗って動物園へ行った。もちろん可憐さんは、直人先輩の横をキープしている。


 そんな可憐さんにジャイアン先輩は一生懸命に話しかけている。直人先輩はノロノロ歩く美奈ちゃんに、いろいろ気を使っている。ケンタはなぜかみんなに一通り話しかけてハシャいでいた。もちろん私にも。もちろん、私はそっけない返事しかしない。

「なあ、そのバック、重いだろ? 俺、持つよ」


 動物園に着いて、博人君が言った。


「えっ!?」


 持たせていいのか、戸惑う。

「皆の分、作ってくれたんだろ? 普通だったら、兄貴、そう言うこと気付くんだけど、今日は何か変だから、気付かなかったみたいだ。ほら、貸せ」


 博人君が、カバンを奪い取り、スタスタ歩く。遅れたらいけないので、急いで付いて行った。

 

 「すげー、すげー、順子って、料理上手だったんだー」


 ケンタが、目を輝かせて言った。そりゃ冷凍だから、おいしいでしょう。お弁当は、卵焼きで決まるので、卵焼きはガンバった。色が変色しないように塩水につけたうさぎリンゴもある。

 後はおにぎりの素を入れて作った、三角おにぎり。この三つだけ、頑張った。


「あ、ありがとう」

「ほんと、すごいよ。俺のかーちゃんより、すごい。飲み物買ってくる。みんな、なんか飲むか?」

 ジャイアン先輩は、お母さんのことをかーちゃんと呼ぶのかあ……。


「私は、オレンジジュース」


 美奈ちゃん。うん、美奈ちゃんらしくて、可愛い。


「あっ、私はコーヒー。ブラックで」


 可憐さん。


「俺は、コーラ~」


「オイ、ケンタ。お前、自分で買って来い!」


「私は、お茶を持って来たから、いい……」


 本当はみんなの分まで持ってきた。ジュースを買うと言うことを、考えていなかった。


「そ、そうかあ? 順子って、何かオバサンくさくないか?」


 ジャイアン先輩の冗談の一言が、胸を刺した。


「そ、そう? そうなのかな? アッハッハー」


 笑顔で嘘をつくことが、どんどん上手になっていく。


「俺もお茶でいい。順子ちゃん、お茶貰っていい?」

「あっ、はい。もちろんです。直人先輩」


 胸のナイフが取れた。


「俺も、お茶でいい」


 博人君が言った。私の胸の傷が塞いだ。自分でも現金な女だと思う。


「そっか。でも、直人って、いつもお茶飲まないで、コーヒー飲むじゃないか?」


 ジャイアン先輩が不思議そうに直人先輩にたずねた。


「剛。今日はお茶がいいんだよ」


 私は直人先輩の優しさと気付いた。


「私、コップ二つしか、ありません」

 みんなの分をちゃんと用意しているけど、嘘をついた。嘘をつく度に、胸が痛くなる。


「じゃあ、俺と回し飲みしよう」


 八重歯の見えるエクボの笑顔。直人先輩は、一体何回、私を惚れさせるのだろう。


「兄貴、俺と飲めば、いい」


「ちぇー、せっかく、順子ちゃんと、関節キッスのチャンスだったのに」

「もう、直人さん、エッチ」


 多分可憐さんは、直人先輩と博人先輩が、私を中心に会話をしているのが、気にくわなかったのだろう。

 昼食の時も、可憐さんに後で嫌味を言われるのが辛くて、みんなの会話に入らなかった。みんなはワイワイ会話しているけど、私と博人君は、ずっと無言だった。


 私が大人しくしていると、可憐さんの機嫌が良くなった。美奈ちゃんは、私に何度もお弁当を作ってくれて、ありがとうとお礼を言った。みんなが私の料理を喜んでくれたので、その日は楽しかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ