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一目惚れは絶対にある!


 笑う二人を無視して教室に戻る。


「これ、君のじゃない?」

「えっ!?」

 

 歩いていたら声をかけられたから後ろを振り向く。


(カッコいい……。)

 一目惚れなんて、漫画や小説の世界のことと思っていた。にこっと微笑んだ時に見えた八重歯が可愛かった。


(可愛い~。)


 見惚れた! 恋に落ちた! もうこんなカッコいい出会いなんて、ステキ。本当はトイレの前だったけど。


 これが直人先輩とはじめの出会いだった。


「あっ、ありがとうございます」


 素敵な彼が、ハンカチを差し出した。ハンカチを落として拾ってもらって恋に落ちる、なんて、それこそ漫画だよとツッコミをされてもいい。トイレから出る時に、きちんとポケットに入れていなかったみたい。 


「あっはっは、いいよ」


 ハンカチを受け取って、四十五度で頭を急いで下げら彼が笑った。笑ったら頬に、ちょこっとエクボが出来た。


 先輩の第一印象は笑ったら可愛い人だ。黒髪が少し肩くらいまである。この学校で染めてない人なんて、珍しかった。細い体なのに、背が高いから存在感がある。服の下は細マッチョかも、と脳内妄想筋が激しく働いた。


「ねえねえ、君って、あの一年の美人たちと一緒にいる子だよね?」


 背の高い彼に見とれていたら、横から声がした。


(げっ、不良!)


 茶髪が似合っていない不良がいた。彼も背が高いく、顔はごっつい。もう大人の顔で体も大人の先輩がいた。


 多分、ごっつい先輩はイケメン分野に入る顔だと思う。カッコいいけど、私のタイプじゃないからパス! 外野! 決定。


「せんぱーい。どうしましたか~? あれー、下田だー。下田順子。なんか、先輩に失礼なことした?」 


(がーん、一生懸命入学してから、避けて避けていた、同じクラスの不良だー。)


 エクボの可愛いドキドキ先輩をアホ顔で見ていたら、同じクラスの奴が勝手に会話に入って来た。


 思えば小学校の時五年の時から、こいつとは同じクラスだった、中学も同じ地域だから一緒だったが、なんでクラスまで一緒になったんだろう。こいつは小学校の時からグレていたから、中学校でもちろん不良デビューした。 

「えっ、ケンタのダチ?」

(決して違います!)


 エクボ先輩が聞かれて私は頭を横にブイブイ振った。頭がクラクラしたけど、ここは断然否定しなければ。ケンタは、縦にブンブン振っていた。

 

「もちろんです。小学校からずっと同じクラスです。順子がどうしましたか?」

(いつ呼び捨てになったんだよー。私はお前に名前を呼ぶ権利与えてないぞー) 


「順子ちゃんて言うんだー」


 イケメンエクボ先輩が言った。 


(はい、順子です。もうバンバン名前を呼んで下さい!)


「俺は、榊直人。よろしくね」

「さ、さ、さ、さかき先輩!」


 緊張しすぎて、どもったうえに叫んでしまった。恥ずかしい!

「あっ、はははっ、なおとでいいよ」


 にこっと微笑んだ時に八重歯が見えた。真っ白い歯。恋に二度も落ちました!

 

「順子って、あの美人達のダチだろう?」

(オイ、テメーには名前を呼ぶ権利あげてないぞー。)


 ごっつい先輩が言った。目で訴えたいけど、イケメン先輩いるからおしとやかかに、決してゴッツイ先輩に反論しなかった。


「俺は、山田剛。三年B組。直人と腐れ縁」


 ジャイアン……。私も直人先輩と、腐れ縁になりたい……。  


「そうっす! あの美人の鈴木可憐さんと内田美奈ちゃんの友人。まあ、取り巻き1かな?」

(取り巻き1?)


 ケンタの言った言葉を理解するのに時間がかかった。しばらく脳が停止中。 


(くっそー、ケンタ! こいつ殴っていい? 今ならトイレから出てきたホヤホヤの靴があるよ!?)


 拳を作る。ハンカチ握っていて、よかった。じゃないと、汗でビチョビチョになるところだよ。私は周りから美人さんたちの周りにバタバタ飛んでいるハエと同じ取り巻きと思われていたの!

 泣きたくなった。


「取り巻き? ケンタ、順子ちゃん、可愛いよ。うーん、大きくなったら、メッチャクッチャ綺麗になる顔だよ」

(直人先輩……)


 なんか生まれて始めて、こんな優しい台詞を面と言われた。はじめは直人先輩の顔に惚れたけど、今は彼の全てに恋に落ちた。


「っ!」


 お礼を言うべきだけど、思考停止してポカーンと口を開けたまま直人先輩に見惚れていた。  


「そ、そんなの知っています……」

「あっ、ケンタ! お前、順子のことが好きなのか!?」

(はっ、ジャイアン先輩! 一体、なにをふざけたこと言っているの!?)


 いくら私が直人先輩をうっとりと見つめていて話についていけないからと、勝手に盛り上がらないで欲しい。


「ち、ち、ち、違いますよー。先輩」


 ケンタが私を好きなんて、絶対にありえない! 否定しようとしたら、ジャイアン先輩が先に言葉を発した。


「そうなんだ。安心しろ、俺達、ケンタの順子を取らないから、安心しろよ! なあ、直人?」

「あっ、ああ……」


 私の初恋が、終わった……。どこか不安そうな顔で先輩が私を見て言った。


 傷ついた初恋の心を慰めるかのように、ジャイアン先輩を殺そうと殺人ビームで睨む。


 このジャイアン先輩、誰か殺してください!  


 恨みのターゲットは、ジャイアン先輩とケンタ。女の年は関係ない。女の恨みは、怖いぞ! 

 頭ではそんな風に考えていたけど。本当は、心に刺さったナイフがヒタヒタと血を流している。


 その時は、その痛みに気付いていなかった。このナイフの傷をきちんと処理していれば……。ちゃんと直人先輩に、私の気持ちを伝えていれば……。今になって後悔する。

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