告白......だけどねえ
直人先輩との出会いは中学に入学してすぐだった。
私の生まれは、一月二日だ。テレビのニュースの話題を逃した赤ちゃん。運命だって言われればそれまでだけど……なんで!? なんで私の人生は、華やかな表舞台に決して出ることがない二番目なの?
顔もお世辞で「綺麗ね」とは言われたことがあるが、必ず私より綺麗な美人が数人クラスにはいる。中の上で上の下。それになんの因果か私は最上の美人に好かれて友だちポジションにいつの間にかいることが多い。
本当は新しいクラス替えの度に、なるべく普通の子か地味な子たちと友だちになろうと、スリスリ近づいてみるんだけど……そんな子たちは私の入る余地を作らない壁を万里の長城のように高く長く築いている。ぼっちは辛いから結局美人さんたちとつるむことになる。
意外かもしれないけれど美人さんたちは性格がいい。と言っても女同士でいる限りだ。男が絡むと本性が出る。性格ブスと性格美人。性格のいい美人さんは、眩しく女神だ。男どもが性格美人で顔美人の女神さんに惚れるのもしかたない。私も男どもと同じで、彼女の虜の一員になってしまっている。だから、私は女神の下僕その一のように彼女の「引き立て役」に徹する。
私は学校でも家でも立派な引き立て女だった。三女の中の次女。はっきり言って、いらない存在だ。優秀な綺麗な姉と可愛い三女に挟まれた残念な次女。二番目は、男と期待していた両親にごめんなさいと無意識で謝罪しながら生きてきた。
妹は三番目で最後の子どもだから甘えるのが上手だ。綺麗な姉に、可愛い妹。
(で、私はどんな子になったらいいの?)
きっとアイドルの三人組の二番手なんだと思う。一番売れているアイドルをサポートしつつ「私は売れていない」と可愛く涙して、守って上げたいお嫁さんにしたいNO.1の三番目のアイドルを「そんなことないよ」と慰める立ち位置。マジで酬われない存在。アイドル二番手なのに問題が起きた時は、真っ先に一番恨まれるポジション……。
そんな私に春が来た!
「下田順子さん、大切な話があります。放課後、校舎の裏で待っています」
(キター。告白だー)
と、その日、一人でニヤニヤした。
呼び出しのことを美人さんの友だちには、もちろん言わなかった。女の友情なんて脆い。脆いと知っているけれど、憧れるよね……いつかシワくちゃなおばあちゃんになった時に、女の友情を味わうから……まだ結婚するまでいらない。
もう放課後が待ち遠しかった。待合場所にいた男子生徒は……全然タイプじゃない……。
でもこの放課後の裏庭での告白! って言うシチュエーションが萌だ!
「あのー、そのー」
(じれったい! オイ、男だろ!? しっかりするんだ! スパーっと。ここは、すぱっとお願い)
もちろん私は顔を下に向けて、お淑やかにモジモジしているけどね。
告白、告白、シチュエーションに酔っている。この時点で、相手の顔をしっかりと見ていなかったー。と、下からチラリと見上げる。これぞ上目使い、必殺技! でも、背の高い男限定だけど。
小学生の時は、なぜか男の子より背が高かった……なんで男は中学生にならないと、成長しないの? チビだと、告白盛り上がらない。中学生は二キビが……人のことを言えないけど……なんか萌ないなあ。高校になると急にゴツくなって可愛さなくなる男が多い……イケメン以外の男性論……。
と、彼が勇気を出して告白をする間、考えて
「○○さんは、誰か好きな人いますか?」
「……知るか……自分で聞けば?」
(キレた! ブチ切れだーー!!)
いいよね。こんなにグレた言い方してもいいよね。私のドキドキ返せ。詐欺だ。この、この校舎の裏で悔しい。
この日を境に何度同じことが起きて、放課後の裏庭で告白なんて漫画の世界だけのことと悟った。
「キャハッハッハー」
「可哀想よ」
校舎の影で笑うのは、大概性格の悪い美人さんの可憐。慰めるのは、性格美人さんの三奈ちゃん。えっ、一体何人の美人さんの引き立て役しているの? って? 知らない。私はオールマイティーの引き立て役を生まれた日からしているから。
その年によって違うけれど、ダブルパンチはきつい。十二歳のピカピカの中学一年生だった私は二人の美人さんたちのサポートをすることになった。ピカピカの初々しいはずの一年生が、バーゲンで買い物を生きがいにするおばさんのようにヤツレテいたと思う。
「順子って、すぐに顔に出るよねえ」
中学一年の時に、性格最悪美人の「可憐」さんに言われた。「鈴木可憐」名前まで、すげー。背中と名前に、薔薇の花を背負っている。
「そこが、順子のいいところよ」
性格滅茶苦茶よしの、可愛い美人さんの「美奈」ちゃんが言った。「内田美奈」名前で、顔が決まるのでは? と、小さい時に真剣に悩んでしまったよ。
なんで綺麗な子の名前は、「~子」が付いていないの? 私は名前からダメだったんだ……。
「順子」世界中の順子さんに決して恨みなんてないけど……きっと私の順子は……次女だからなの? 順番は二番目? やっぱり名前から二番目だった。引き立て役の女は、決して可愛い名前でも、可憐なキランキランとした名前でもなかった。
二人の笑い声を背中に決意した。
「いい女は、感情を顔に出さない」
ボソッと自分に活を入れる。
(よし頑張るぞ! 目指せ可愛い美奈ちゃん、妥当、可憐さん。中学一年のモットー。引き立て役を卒業するぞ!)
家では無理だけど、学校ではなんとかなるかも……ううん、なんとかならせるぞ!
そう決意したらさっきの傷ついた告白を過去にできた。