突然変わる世界
一年生の三学期。以前のように、みんなでワイワイして過ごした。もちろん直人先輩も一緒だ。可憐さんも少しづつ直人先輩と美奈ちゃんが一緒にいることになれたみたい。冬休みはジャイアン先輩と頻繁に遊んだみたい。
可憐さんとジャイアン先輩は、付き合っているカップルのようだ。だけど可憐さんは、博人君に惚れているのにまわりは気付いている。だから私はなるべく博人君に話しかけずに、ケンタと一緒にいるようにした。
一月の終わりから、可憐さんと美奈ちゃんと私は、バレンタインのことでソワソワしていた。
「私、博人さんへチョコあげる。順子は、もちろんケンタにあげるんでしょう?」
ズキッと胸が痛んだ。
「うん、まあ、義理チョコをあげるよ」
「順子、ケンタにしたら。あいつ、順子にゾッコンじゃん。ケンタって、ああでも、なかなか可愛い顔しているよ。ケンタのファンクラブだって、ちゃんとあるよ」
可憐さんが教えてくれる。ケンタにファンクラブがあるなんて、意外だった。
「まあ、博人さんのファンクラブよりは、小さいけどね。本当に、美奈は、ちゃんと直人さんに守られているから、直人さんのファンクラブの女に、いじめられなくてすんだよね」
ファンクラブと言う組織は、凶暴らしい。
その日も、美奈ちゃんを迎えに来た先輩に、「さようなら」を言った。その日は図書館で本を読んで、一人で帰った。
昨晩は本の続きが気になって夜遅くまで読んで朝起きたら頭が痛かった。
寝不足でもっと長く寝ていたいのに、いつも決まった時間に目が覚めて朝食の準備をする。中学一年なのに、本当に主婦化している。
いつものように学校に着いたら言われた。
「直人先輩が、死んだ……」
「えっ!?」
今日も普通の一日だと思った。でも、違った……。教室で、何人かの女の人達が泣いていた。二年の不良先輩達もいた。可憐さんが美奈ちゃんを、抱きしめていた。博人君もジャイアン先輩は教室にいなかった。
葬式は明日あるらしい。ジャイアン先輩は博人君の側にいる。美奈ちゃんは葬式に呼ばれなかったらしい……。ジャイアン先輩に誘われたけど、断ったらしい。美奈ちゃんの気持ちが分からない。
でも、もし美奈ちゃんが行かないと決めたなら、私も行かない。可憐さんも美奈ちゃんと一緒にいること言った。
その日、ずっと泣いて過ごした。放課後、可憐さんと美奈ちゃんの家に行ってただ泣いた。三人ともなにもしゃべらなかった。
直人先輩の葬式の日。学校は普段通りだった。ただ先生が黙祷を直人先輩のためにした。でも、不良行為はよくないと説教したのでムッとした。美奈ちゃんが大泣きしたから先生の説教が終わった。
放課後、それぞれ花屋で花を買う。
私は白い菊。どんな花を買ったらいいか分からなかった。可憐さんは、黄色い菊だった。そして美奈ちゃんは、真っ赤な薔薇を一輪買った。美奈ちゃんが、「真紅の薔薇を一輪下さい」と言った時にハッとした。
直人先輩が死んだ場所に、たくさんの花やぬいぐるみやお菓子が置いてあった。私達の姿を見て、何人かの不良の人達がお辞儀をして場所を譲ってくれた。私達はそこに座ってボーと見ていた。美奈ちゃんと可憐さんは、黙祷をしている。
私は、直人先輩の死を感じられずにいた。昨日ずっと泣いていたけど、これは美奈ちゃんや他の人の心の痛みが伝わってきて泣いていた。本当は全然直人先輩の死を感じられていなかった。心が麻痺していた。
最後に美奈ちゃんが、涙を流しながら、一輪の真紅の薔薇を置いた。制服姿だけど、美奈ちゃんが一枚の絵のように美しかった。真紅の薔薇の花言葉は、「愛しています」
「今度、直人先輩が楽しみにしていた手作りのチョコレート、持ってくるね」
美奈ちゃんが、にっこり笑って言った。
葬式の次の日の晩から七日間、直人先輩の祈祷式をした。真冬の中なのにすごい数の人が集まった。
私には、知らない人ばかり。バイクの音がうるさかった。でもそれ以上にみんなの泣き声がうるさかった。でも誰かが直人先輩の思い出を話す時は違った。みんな、その思い出を忘れないように、真剣に聞いていた。違った一面の先輩を知った。
美奈ちゃんも、微笑みながら聞いていた。家に帰る時に、「本当は、私が直人先輩の思い出を、たくさん話したかったのに……」と言って泣いた。
私達は直人先輩のことをあまり知らない。
美奈ちゃんが、先輩のことをあまり知らないから、すぐに忘れて次にいい人がまた見つかるよと、言った人がいた。その人は、美奈ちゃんのために、そう言ったかもしれないけど無神経すぎる。
私と可憐さんは、本当に付き添いにしか思われていなかった。誰も私達に直人先輩の話をしない。でも私達にとっても、直人先輩は、特別だった。
七日間、夜空は晴れていた。空に、月と星が輝いていた。
でも私の心にぽっかりと穴が空いている。悲しいのは分かっているけど、どうしてこんなに無気力なのか分からない。ケンタが、ずっと「大丈夫?」と心配して、側にいてくれた。私は可憐さんの隣にいた。