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過去

 美奈ちゃんと可憐さんとは、あまり話をする機会がなかった。バスで、二人は、同じ席に座る。どうやら可憐さんと美奈ちゃんは、和解したみたい。そんな二人を見て、嬉しくなった。私も仲良くしたい。

 でも、私は直人先輩の話を聞きたくない。そんな風に思っていたから、どうしても美奈ちゃんと会話出来なかった。 


 窓から外を見ていた。学校を出発して、三十分経った時に、ケンタが言った。

「こうして、順子とバスに乗るの、二年ぶりだな」

 隣にいるケンタを見る。ケンタは、私を見ていた。

「俺、あの時、順子に救われたんだ」

「……」


「順子が、『宮田君、盗んでないって言っているから、盗んでないよ。もっと探してみよう』と言った。でも、結局、順子まで『泥棒の味方。お前も泥棒だー』って言われて。俺、滅茶苦茶頭にきて、あいつらを殴ろうと思ったら、順子、俺の腕を握って止めた」


 小学校五年の時のあの日を思い出した。

「俺は、あいつらより、順子に意識が行って、結局殴らなかった」

「うん」


「あの日から、俺とお前は、夫婦ってイジメられて。みんなに人気者の順子は、いつの間にか無視されるようになって……」


 本当に幼い小学生は、ある意味大人より残酷。誰もいじめられる人と一緒にいたくない……。


「俺、そんな順子を見ていると、辛かった。順子、いじめられていても、周りに優しくするし。一人の俺と、一緒にいてくれるし……」


 そうだった。あの頃から私はケンタと呼び捨てするようになった。ケンタも、順子と呼ぶようになった。


「まあ、私も一人だったから。ケンタを私の下僕にしてあげたの。だから恩を感じないでね」


明るい声で軽く返事をする。


「下僕でもいいんだ。俺は、順子を独り占め出来て、毎日が楽しかった。学校へ行くのが、楽しかった」


「そうなんだ……。でも、アレは二学期の終わりだったから……。結局、一学期間だけだったから……」

「ああ。六年生で、別々になって。でも、中学校で、またこうして一緒に、前と同じになって、うれしい」


 ケンタがニコッと笑った。彼の笑顔が可愛いかった。この笑顔を見ていると、五年生の時のケンタを思い出す。この二年で、ケンタも大人の顔になった。ケンタがモテる理由が分かった気がする。


「そうなんだ……」


 もっと気の効いた言い方があるのに、何と言っていいか分からない。


「っ! ああ、順子は、笑っている方がいい」

「もうケンタって、案外、女たらしなんだと知ったよ」


 ケンタが褒めすぎで、頬が熱くなった。


「俺は、女たらしじゃない! 俺は順子だけだ。俺が好きな人は、順子だけだ」


「ごめん。私は直人先輩のことが好きだからケンタの気持ちに答えられない」


 私はいくじない嫌な女。でも、一度可憐さんに自分の気持ちを言ってから、もう隠すことが出来なくなっていた。

「そっか。でも、俺は、順子が好き。どんなことがあっても、順子が好き。順子が誰を好きだろうと、俺は順子が好き」


 こんなに何度も「順子が好き」と言われたことがない。両親にさえ、言われたことのない言葉を、ケンタは何度も言う。そして、その言葉は、本当に私への愛情を含んでいる。移り過ぎる景色が、涙で滲む。病気上がりなのに、また頭が熱くなる。

人からの愛情は、嬉しい。でも、その気持ちを返すことが出来ずに、悲しくなる。


 目的地に着いて、可憐さんと美奈ちゃんと合流した。ケンタも私達と行動した。美奈ちゃんが、何度も私に謝った。

 私は自分の気持ちを美奈ちゃんに話した。美奈ちゃんと直人先輩が付き合うことに素直におめでとうと言えた。でもしばらく直人先輩の話は聞きたくないと伝えた。そして美奈ちゃんは、私の気持ちを分かってくれた。


 その日から、もう二度と直人先輩は私達の教室に来なくなった。それと反対に、博人君がケンタに会いにくるようになった。ケンタは「来るな」とジャレながら追い出す。可憐さんは、博人君が来ると喜んだ。ジャイアン先輩もたまに来た。

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