身勝手な美人さん
理不尽な世の中を恨みながらクタクタな体と頭を慰めながら教室へ戻った。
「順子! どうだった!?」
「順子ちゃん、大丈夫?」
可憐さんと美奈ちゃんが、ゾンビな私を迎え入れてくれた。
「ちょっと、座っていい」
「う、うん」
「はあ~」
心配する二人に悪いけど、今日はいろいろありすぎて、説明するも面倒だった。でも、今説明しないと、二人から解放されない。
「順子、大丈夫か? 俺、お前を助けに行くのが遅くて、ごめん」
ケンタも私の心配をしてくれるのは嬉しいけれど、私のヒーローがケンタになったら嫌かも。
「えっ、なんで謝るの? ケンタのせいじゃないよ?」
「で、でも……」
いまはこんな風にケンタの相手をするのも、面倒だ。だから簡潔に学年主任の愚痴を聞いて解放されたと伝えた。
「あっ、それだけ?」
「えっ、それだけ?って?」
「ううん、そう。それだけで、よかった」
どうやら可憐さんには、あんまり満足出来る内容じゃなかったらしい。でも、可憐さんが満足する内容とは、一体どんな感じなんだろう。謹慎処分?
「そ、それより五時間目、今度の遠足のバスの席決めだったんだよ!」
「えっ!?」
すっかり忘れていた。どうして、中学生になってまで、席を決めないといかないのだろう。
「そ、それでねえ、何と! 順子、ケンタの隣になったのー。もう、ケンタが勝手に決めてー。もうモテる女は、つらいねえ」
可憐さんが、ニヤニヤしながら言う。
「なんで?」
「……別にいいだろう! 小学校の時も、隣だったんだから、いいだろう!」
ケンタがそう言って、部屋から出て行った。
「……」
私はなんとも言えない思いで、ボーと去ったケンタの後ろ姿を見ていた。
次の日の昼休みから、二年の先輩達がベルの音とともにやって来るようになった。家から持ってきた雑誌と、化粧品のサンプルを使いながらワイワイと化粧をしたりした。先生も二年の不良先輩に思う所があったみたいだけど、なにも言わない。
可憐さんも美奈ちゃんも、一緒にオシャレのことについてワイワイおしゃべりをした。この時、女性の美に対しての執着が怖さを知った。絶対に美容関係の仕事に就かないと決心した。
いつの間にか直人先輩やジャイアン先輩の友人の不良達もおしゃべりに加わっていた。博人君ももちろんいる。二年の先輩達は、直人先輩の前で可愛い態度を取る。
この先輩たちと可憐さんのカメレオン技術を学びたいと思って、観察していたけど、自分には無理と諦める。
「もう直人先輩ったら」
甘ったるい声はよく美奈ちゃんが直人先輩といる時に言う台詞と同じだった。
毎日毎日直人先輩と美奈ちゃんの甘い空間にいると、胸が痛くなった。そして胸が痛かったのは、私だけじゃなかった。
「ねえ、今度の日曜日、直人先輩と水族館へ行くの。どんな服、着たらいいと思う?」
はじめての直人先輩と美奈ちゃんのデートに行くらしい。美奈ちゃんは朝からずっと日曜日の話をしている。
「なんでも、いいじゃない!」
可憐さんが大声を出して、テーブルを叩いて立ち上がる。
「もういいかげんにして! 美奈と直人さんのことを、祝福しても、私は、私は、まだ失恋の傷、いえていないのに! なんで、そんなことを、私に相談するの! もう、嫌! 無神経過ぎる!」
可憐さんの目から、涙がた。
「えっ!?」
美奈ちゃんは可憐さんがなにを言っているのか分からないらしい。
「ま、まさか、可憐ちゃんって、直人先輩のこと、好きなの?」
美奈ちゃんが、ふるえた小さい声で言った。 可憐さんの態度はあからさまだったのに、美奈ちゃんは気づいていなかった。自分の恋に夢中で周りが見えていなかったんだ。
「ッ! そ、そうよ。で、でも、美奈と直人さんを、祝福しているわ。で、でも、もういいでしょう!」
目を抑えて可憐さんが教室から出て行った。本当は可憐さんを追いかけたかったけど、ふるえて泣いている美奈ちゃんの側にいた。
「美奈ちゃん……」
「ど、どうして! どうして!? 順子ちゃんは、知っていたの? ねえ、可憐ちゃんが、直人先輩を好きって、知っていたの?」
美奈ちゃんが、大声で問い詰める。
教室には休み時間なのに生徒達がたくさんいた。みんな興味津々で私たちのことをチラチラ見ていた。