ヒロインはヒーローに救われ、モブは
「えっ、順子ちゃん。どうしたの?」
今まで泣いていた美奈ちゃんも、涙が引っ込んだくらい驚いている。
「えっ、先輩って、元は、かなりいい顔していますよ?」
私の母親が化粧品を売っているから、小さい時からメイクの本を漁っている。
化粧でこんな風に変わるのかあと、感動していろいろ見ていたから、目の前の先輩が可愛くなる要素は、たくさんある。
「えっ!?」
この先輩がキョトンとする顔は、さっき怒っていた顔より何十倍もいい。
「先輩は、その髪とメイクを変えたら、断然可愛くなる顔をしているよ」
先輩の目が、一回り大きくなって、頬を赤らめた。
「私のお母さん、メイクの仕事しているの。デパートで化粧品を売っているだけど、だから、試供品とかでよければ、一緒に化粧の練習をしますか?」
なんででこんな余計なことを、いつも言ちゃうのだろう……。引き立て役の女は、お節介女だった。
「順子ちゃん。じゃあ、明日のお昼休み、教室に行くね」
顔を赤くしながら先輩が言った。
(えっ、順子ちゃん? 何で私の教室来るの? 何か、ヤバくない?)
「先輩、私の教室じゃないくて……」
「美奈!」
「可憐!」
トイレのドアが、バンって開いて驚く。すごく心臓に悪い。
「テメーら、一体何しているんだ!?」
直人先輩のドスの効いた声を、初めて聞いた。不良の一面、をはじめて知って怖い。
「オラオラオラ~」
ジャイアン先輩が、棒切れを持っていて、マジビビる。それよりせっかく二年生先輩達と、仲良しになっているのに……邪魔された。ヒーローの登場は結構迷惑なタイミングだった。
「直人先輩!」
もちろんヒロインの美奈ちゃんは、可愛く先輩の胸に飛びつく。直人先輩も、「大丈夫か?」と美奈ちゃんの顔をじっくり見た。こんなロマンチックなシーンは、背の高い直人先輩と可愛い美奈ちゃんだから許されるに違いない。
「可憐、大丈夫か?」
ジャイアン先輩が、可憐さんの肩に手を置いて心配そうな顔をしている。可憐さんはジャイアン先輩の棒切れに、ビビってふるえていると思うんだけど、ジャイアン先輩は可憐さんが女先輩たちの呼び出しで怖がっていると勘違いしている。
(けっ! 私のヒーローはどこよ!)
「ヤベー、先コーだー。逃げろ!」
外から直人先輩の友人の声がした。先輩達の反射神経がすごかった。ダーと逃げて行った。まさか私のヒーローが先生だったらマジ泣きする。
「順子、行くよ」
可憐さんが、腕を引っ張る。
(痛い!)
さっき床に倒れた時に足を打って、走ることが出来なかった。
「ちょっと足痛い。可憐さん、先に行って。すぐに追いつくから」
「そっ、早く来るのよ」
美奈ちゃんも私のことが気になったみたいだけど、直人先輩と手を握って、トイレから出て行った。まるで映画のワンシーン。可憐さんも、ジャイアン先輩に引っ張られて出て行った。それなのに私は……
「オイ、そこの一年、何をしているんだ!」
体育服を着た三年の先生に引っ張られて、職員室へ連行された。すでに五時間目が始まっていて、職員室はガランとしている。唯一、一年の先生で残っていた学年主任の前に連行された。
体躯の先生の説明は、私が二年の不良に目をつけられてリンチをされていた……だそだ……。
「なんで、そんな人達と付き合うんだ。君は、もっと真面目な生徒だと思っていたよ」
学年主任は、いきなり面倒な仕事を押し付けられて、露骨にうんざり顔をした。私の学園生活が終った。
ブチブチと、説教が始まった。先生は座っていて、私は立っている状態。先生の髪が剥げているのが気になり、つい頭しか見えなくなった。
「は、はい」「そうですね」
と、いつもの癖で頷いていた。
「そうだろう? まあ、その椅子に座れ」
いつの間にか、他の先生の椅子を持って来て、座ることになった。
「せっかく授業がないのに、これだから、学年主任と言う仕事は、面倒なんだよなあ」
結局先生の愚痴を、一時間も聞くことになった。学年主任と言う地位は、教頭と先生達の間で、大変な地位と愚痴っていた。この時に絶対先生にならないと決めた。先生の愚痴がやっと終わった後に丁度五時限の終了のベルがなった。
「まあ、君はいい生徒のようなので、今後はこんなことがないようにしないさい」
と言う言葉をもらって、解放された。何も罰がなかったけど、精神的に参った。