表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/19

先輩の呼び出しは定番

 次の日、可憐さんは美奈ちゃんにおめでとうと、笑顔で言った。でも、私は「おめでとう」と言えないでいる。


「ねえ、あんた、ちょっと来てくれない」


 二年の不良お姉様方が、美奈ちゃんの前に来て言った。

   

「わ、わたし……」

 美奈ちゃんが、ふるえている。この先輩達とは、ほとんど交流がない。遠目に、直人先輩達を見ているのは知っていた。


「ちょっと、何の用なの?」


 可憐さんが、美奈ちゃんの手を握って言った。

「ちょうど、いい。あんたにも、話があるから、来い」


 二人も不良お姉様達が、可憐さんと美奈ちゃんの腕を、がっしり掴む。


(やばい!)

 私は二人の横にいた。先生に告げ口をしに行こうと、そっと動く。


「ついでに、あんたも」


 私も腕を、人質に取られた。連行された場所は、体育館のトイレ。あまり人の来ない古い体育館。誰も使いたくない古いトイレが、彼女達の溜まり場だった。

(く、臭いよー)


 どうして、この匂いの中で平気でいられるのか、信じられない。

 なんでこんな所でガムなんか食べれるのかが、分からない。一生懸命、息をなるべくしないようにした。


「榊先輩と、付き合っているの誰?」


 いかにもリーダー先輩が聞く。このリーダー先輩、ぽっちゃりしていて、長い髪を金色に染めている。

 脇目が黒いし顔の化粧も、濃い。青いアイシャドーは、一重のぽっちゃり目には、似合わない。口紅も赤。時代遅れの赤、赤色でも、もっといい色あるでしょう? と、教えたい!   

「……」


 可憐さんも、私も答えない。


「オイ、答えろよー!」


 ビクン。美奈ちゃんが、大きく震える。


「大体、一年のくせに、先輩達に媚っているのが、許せねーんだよ!? 生意気なんだよー。えー、聞いていんのかよー」

「……」


 可憐さんも、私も答えない。

「オイ、答えろよー!」


 ビクンと美奈ちゃんが、大きく震える。


 そんなに怒鳴られても……。一応、聞いていると言うことを示すために、頭をコクンと頷く。


「順子!」


 隣に立っている可憐さんに、腕で突っつかれた。どうやら敵の言うことを、素直に聞いたらいけないらしい。

 

「大体、ブスのくせに、何、男の周りを、うろちょろしているんだよー」

「私達、ブスではありません! 先輩達の方が、断然ブスです!」


 可憐さんが、ブスと言う言葉で切れた。


(終わった……)

 もう美奈ちゃんは、声を殺して泣いている。美奈ちゃんのクリクリしたこげ茶の髪も、泣く度に揺れる。その姿を見ると、抱きしめたくなる。可憐さんは、急に態度がデカくなって、先輩達を見下ろしている……。

 確かに百六十五センチある身長で、真っ黒な艶のある腰まである髪の可憐さんは、そこら辺の女優より綺麗だけど。


「な、な、な、何て、今、何て言った!?」


 先輩がプルプルしている。他の先輩達も、プルプルしている。

「先輩達、耳まで悪いのですか? 顔も悪くて、耳も悪い。ブスは、先輩達のことと、教えてあげたのです」

(もう嫌!)


 この時ほど、可憐さんとなんで友人しているのかと、友人をしている自分を恨んだ。


「このアマがー」


 『このアマ』なんて、言う人がいるんだと思ったけど、先輩が拳を作っているのに気付いたので、隣にいる可憐さんを押す。

 『パッチーン』

拳で『ゴーン』と、殴られるかと思ったら、平手で『パチーン』と叩かれた。それも、頬っぺた。本当に、これこそドラマ。なんで、平手だけ、きっちりと決まるのだろう。

「順子ー!」

「順子ちゃん」


 床にフラリと倒れた。可憐さんと、美奈ちゃんが、倒れた私が立つのを手伝ってくれる。

『がーん。ガーン』


 頬っぺが痛いけど、私はトイレの床に倒れたことが、ショックだった。


(やばい! きったない床に、制服が……。やっぱり、クリーニング出さないといけないよねえ……)


 今夜は、すき焼きにしようと思っていたけど、献立を変更。私のお小遣いは、月々のと、食費の残り。私は、やっぱりババアくさいのかなあと……思ったけど、そんなことないよね。 

「順子、大丈夫?」

 可憐さんは、決してトイレの床に着いた左側の腕を触らない。まあ、右腕を掴んで、起こしてくれたから、いいかな? 


「順子ちゃん……」


 美奈ちゃんは涙を流して、私を助けようとしてくれる。

「美奈ちゃん。大丈夫よ。あっ、そっち側汚いから、触っちゃダメ!」


 右腕を触ろうとした美奈ちゃんを、止める。


「で、でも……」


 こんな時まで、人の心配をしている私の引き立て役の女の根性がすごい。

「すぐに暴力を振るうなんて、先輩達、ひどいです!」

(可憐さん! 何で、そんなことを言うのー!)

「テメー」

(きったー)

「先輩。先輩は、可愛いです!」

「……」

 

 しーん。しーん。ただでさえ、不気味なトイレが、さらに不気味になった。トイレの花子さんがひょっこり出てきそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ