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短編

君がいない

作者: 蛍石光

「最近、アイツはどうしてるのかな。」


 高校時代のクラス会ではよくある会話。昔の友人たちとの会話だ。


「アイツ?」


「ほら、いつもお前と一緒だったアイツだよ。」


「さぁな。今日は来てないから知らないけど。どうなんだろう?」


 だから、軽い気持ちで答える。アイツが誰なのかわからないがそのうち思い出すだろう。


「さぁ、って。お前とアイツは親友だったんじゃないのか?」


 俺とアイツが親友?そうだったっけ?確かに仲は良かったような記憶はあるけど。それにしても今話している奴は誰なんだ?俺の記憶にこんな奴がいただろうか。


「そうだな・・・」


 そんなことを悟られないように適当に話を合わせていく。


「そうだなって。なんかお前たちいろいろやってたじゃないかよ。一緒にバカなことをさ。」


 確かにそういう記憶もある。でも、はっきりとは思い出せない。


「ん〜、覚えていないんだけどなぁ。」


 おぼろげな記憶では高校の裏山に授業をサボって出かけたり、確かに俺はアイツとよくつるんでいたように思う。だが、顔も思い出せない。


「そういえば。アイツが卒業式に言ってたな。」


 今まで話をしていた奴とは違う男が声をかけてくる。こいつの名前は・・・なんだったっけ?


「何を言ってたんだよ。」


 俺はビールが入ったジョッキを飲み干す。


「ほら、卒業式の後に何とかって・・・」


「卒業式の後?」


 全く身に覚えがない。何の話だ?


「なんだよ、お前も覚えてないのか?」


「あぁ、全く覚えてないなぁ。」


「まぁ、昔のことだからな。それも仕方がないよな。」


「・・・そうだよな。」


 俺は胸に何かが引っかかるようなものがあったが、だからと言ってそれ以上その内容を気に留めることもなくあまり記憶のない旧友たちとの親交を温めたのだった。


**********************


「あぁ・・・よく寝たな・・・」


 昨日のクラス会は大いに盛り上がり、解散した時にはすでに始発が動き出す時間だった。


「昨日が土曜日で良かったよ・・・まったく。」


 ベッドから起き上がり窓から外を見る。そこには少しだけ記憶と違う地元の景色が広がっていた。


「アイツ、今何してるんだろうな・・・」


 旧友との記憶を手繰り寄せようとするが、今一つ思い出せない。俺はアイツの顔を思い出そうとしたがやはり思い出せなかった。


「なんで思い出せないかな・・・」


 不思議に思いながらもアイツのことが気になった俺は、記憶の中で高校時代のことを思い出す。


「アイツ・・・名前はなんて言ったっけ・・・」


 確かに俺とアイツは一緒に卒業したはずだ。現に昨日のクラス会でも卒業式でのアイツの話が出ていたわけだし。


「クラスが違ったのか?」


 そう独り言をつぶやきながら、さらに頭の中の記憶を手繰り寄せる。


「・・・昨日あった奴らの顔も思い出せないな・・・飲みすぎたか・・・」


 酒のせいなのだろうか。昨日のクラス会であったはずの連中の名前もよく思い出せない。


「全く・・・ひどい話だ・・・」


 ベッドに腰を下ろし大きなあくびをして天井を見る。日曜の昼下がり。まだ少し自由時間は残されている。


「よし。出かけるか。」


 そう一人で呟きシャワールームへ向かう。まだ少し酒が残っているような気がしたが、冷たい水を頭から浴びると幾分調子が戻ってきたような気がする。


**********************


 フラフラと歩いて、つい数時間前までいた繁華街に向かう。しかし、まだ早い時間であるせいか人通りはまばら。この街の名物の風俗街も静かな様子だ。


「やれやれ。昔はもう少し賑わってたような気がするんだけどなぁ。」


 街の様子を眺めながら地下街に向かう。地下街にはCD屋やレストランの他に洋服屋なども軒を連ねている。日曜の夕方少し前という時間もあって、若者が多い。なんとなく、辺りを見渡しながら時間を潰すつもりで歩いていく。


「この辺りも・・・変わったなぁ。」


 高校時代まで慣れ親しんだ地元であっても、十年ほど経つと様変わりしているものだ。


『変わったのは街だけなのか?』


 自分に問いかける。街は時間とともに姿を変えていく。これは当然のことだ。俺が子供の頃によく通っていた駄菓子屋もなくなっていたし、母校ですら校舎が変わっていた。これには少々驚いたが仕方のないことだと割り切っている。

 だいたい俺自身も変わった。見た目というよりも考え方が、だ。成長したと考えることもできるが、日々、楽しいことを追い求めはしなくなった。昔に比べて、世の中の色彩がビビットではなくなった。幸い、大学を出て、就職もした。夢を見るよりも現実を見る時間がほとんどだ。現在の海外を飛び回る生活は、ある意味根無し草ではあるが、その分給料もいい。使う時間もないから貯金もかなり溜まっている。でも、その一方で満たされない思いがいつもあった。


「俺も・・・変わったんだよな。」


 子供のころは野球選手やパイロットになりたかった。いわゆるごく普通の男の子だった。いつからだろう。夢を追いかけるのはやめ、現実を追いかけるようになったのは。


「アイツとは・・・夢を話してた・・・」


 ここまで思い出してきているのに、未だアイツの名前は思い出せない。いったいアイツは誰なんだろう。


**********************


 適当にオープンカフェで暇をつぶそうとしていた時だった。


「あれ?久しぶりじゃない。吉田だよね?」


 俺に声をかけてきた奴がいた。


「ん?」


 話しかけられたことで俺はカフェに入るタイミングを逃してしまった。暇をもてあましていた俺にとって、誰だかわからないが声をかけてくれたのはありがたいというか、なんというか。


「あれ?」


 確かに俺の名前は吉田だ。でも、声をかけてきたコイツは一体誰だ?


「・・・」


 とりあえず声をかけてきた奴の顔を見る。帽子をかぶっているが随分と中性的な顔つきだ。


「えーっと、吉田だよね?ほら、高校で一緒だった宮部だよ。」


 宮部・・・俺の記憶にある名前じゃない。一体誰だ?誰かと勘違いしているのか?しかし、俺のことを吉田だと知っているし・・・


「・・・申し訳ないんだが・・・覚えてないな。」


 素直にこう答えるしかない。なんといっても記憶にない人間との会話はできないのだから。


「そ、そうなの?まぁ、久しぶりにあったんだから仕方ないよね。昨日のクラス会にも行けなかったから。」


 昨日のクラス会のことを知ってるということは、元クラスメートなのか。それにしても・・・ここまで覚えていないということはあるんだろうか。


「そうか。俺とあんたは同じクラスだったのか?」


「そうだよ。全然覚えていないの?」


「記憶にない。申し訳ないんだが。」


 しかし、コイツは臆することなくどんどん話しかけてくるな。


「なぁ、吉田は昨日のクラス会に行ったの?」


「あぁ、たまたま時間があったからな。」


「忙しいんだね。」


「まぁな。」


「そっかぁ。吉田は昔から忙しそうにしてたもんねぇ。いつも何かやってたもんね。勉強もそうだけど、遊びにも手を抜かない奴だったもんね。」


 確かにコイツ、なんて言う名前だっけ?・・・そうそう宮部だ。確かにコイツの言う通りだが・・・自分の昔のことを話されるのは気分が良いものではない。


「悪いんだけど・・・あんまり昔の話をされてもな・・・」


 宮部に対しての嫌悪感を悟られないように返事を返す。


「あぁ、ごめんね。けど・・・」


「けど?」


「いや、いいよ。また会えた時にでも話せれば・・・」


「また?」


「うん、また。」


 宮部に『また』と言われても困る。もう一度会えるのかどうかなんてわからない。だいたい、俺は明日にはここを離れなければならないのだから。


「いや・・・俺には『また』と言うほど時間はないけどな・・・」


「うん?そうなの?そっかぁ。うん、まぁ、仕方ないかぁ。」


 コイツは何を一人で納得しているんだろう。


「なんだよ・・・」


「いや、別に。普通に考えたら仕事とかあるもんなぁって思ってね。」


 それはそうだ。このご時世にあって仕事をしないで生きていける人間なんて一握りだろう。地球上の全人類で一割の人間が九割の財産を持っているなんて誰かが言っていた話を思い出す。残念ながらと言うか、当然と言うか俺はその一割には該当していないわけだから、まさしく働かざるもの食うべからず的な状態になるわけだ。


「そりゃそうだ。ここにいられるのも明日が限界といったところだよ。」


「そう。じゃ、これから少し時間あるかな?」


「これから?」


 時間はある。とはいえ、どうしてコイツはこんなにも俺に纏わりついてくるのだろう。


「そう、これから。だって、今はホテルに泊まってるんでしょう?」


「どうしてそれを?」


 驚きを隠しきれず宮部の顔を見る。宮部はにこやかに笑いながらこう言った。


「だって、君が大学に進学するのと同時に引っ越したじゃない。」


 どうして知っている?

 いや、知っているやつはもちろんいるだろう。隠していたわけでもないわけだから、誰かが知っていて宮部にも話した。そう考えたら至極当然のことなのだけれど、だとしても・・・


「まぁ・・・そうなんだけど・・・」


「だよね。うん。知ってるよ。吉田のことは知ってるよ。」


 宮部は笑みを絶やさずに俺の顔を見て話し続ける。


「だって、君とは親友だったじゃない。覚えてないっていうのはちょっと寂しいけどね。」


 親友?俺の親友?宮部が?いや・・・そうなのか?俺には全く記憶がない。確かに、高校時代のことは覚えていないこともあるけど、それにしても親友のことを忘れてしまうものだろうか。


「えっと・・・」


 俺は宮部の顔を見ながら一つだけ聞いて見る。


「なにかな?」


 宮部は相変わらずの笑顔でこちらを見ている。


「俺は全然覚えていないんだ。その・・・お前のことを・・・」


「うんうん。なんだかそうみたいだよね。でも・・・」


「でも?」


「いやいや、なんでもない。そっかぁ、覚えてないんだね。」


 そう言いながらも宮部の表情には落胆の色は見えない。むしろ覚えていないのが当たり前とでも言いたげな表情にも見える。


「いや、宮部のことだけじゃなく、高校時代のことはあんまり覚えていないんだ。」


 昨日のクラス会でも感じていたこと。


『俺には高校時代の記憶がほとんどない。』


 どうしてなのかはわからない。最近のことはしっかりと覚えているのに。


「うん、そっか。でもそれは仕方ないかもしれないね。」


「仕方ない?」


「そうさ。昔のことは忘れちゃうもんだよ。」


 そんなものだろうか。確かに忘れてしまうことはあるだろうけど、ここまで綺麗さっぱり記憶にないということがあるのだろうか。


「そういうものかな。」


「そういうものだよ。で、どう?今日これから。」


 宮部の誘いを断る理由もない。どうせ今日一日は暇なんだ。俺のことをよく知ってるだろう宮部と話せば、俺の疑問も少しは解消できるかもしれない。


「そうだな。時間もあるし付き合うよ。」


 そう言って俺と宮部はカフェを後にした。




 その後、俺たちは母校を訪ねていた。とは言っても日曜日。卒業生とはいえどもおいそれと敷地内に入ることはできない。後輩と思われる生徒たちが何人かいるようだが、俺たちにはまるで興味がないようで見向きもされない。


「懐かしいねぇ。」


 宮部が俺に話しかけてくる。


「あぁ・・・」


 そう返事をしたものの、どうにも懐かしさという感情が湧いてこない。


「思い出せない?」


 宮部が俺の顔を覗き込んでくるようにしながら話しかけてくる。


「俺、おかしいのかな。母校を見ても何も感じないわ。」


 俺は自嘲気味に宮部に言葉を返す。


「まぁ、仕方がないかもね。この学校は校舎を建て替えてるからね。」


 校舎を建て替えた?それじゃ、記憶になくても仕方がない・・・のか?


「そうなのか?」


「とは言っても、一部分だから。本校舎とかはそのままなんだけどね。」


 宮部は笑顔で俺に話しかける。


「・・・」


 やはり思い出せない。俺は本当にこの高校に通っていたのだろうか。


「・・・じゃ、裏山にでも行ってみようか。そこなら変わってないから何か思い出せるかもしれないね。」


 そう行って宮部は俺の返事を聞かずにズンズン先へと進んでいく。


「お、おい、待ってくれよ。」


 俺は宮部の後を送れずについていくのが精一杯だった。




「ここは・・・」


 少し覚えがある。確かにこの裏山には来た記憶がある。記憶はあるんだが・・・思い出がない。


「知ってはいるみたいだね。」


 宮部が俺の考えてることを見透かしたように問いかけてくる。


「あぁ。この場所のことは知ってる。けど、それだけみたいだ。」


 それは一体どうしてしまったのだろう。高校時代の記憶がないといってもまさかここまでとは。自分の記憶に自信がなくなってくる。


「う〜ん。やっぱり仕方ないんだよね。」


 宮部が小さな声で呟く。


「仕方がない?」


「いやいや、気にしないでいいよ。吉田は色々見ながら思い出してくれればいいんだから。」


 色々見て思い出す?思い出すと言ったのか?つまり俺は忘れてしまっているのか?高校時代の友達のことも、何もかも。


「なぁ、宮部。俺にはほとんど高校の時の記憶がないみたいなんだ。だから、見ても思い出せないかもしれない。」


 高校の時の記憶。確かに俺は高校の裏山で修行をサボったりしていた。漠然とした記憶はある。大学入試を受けた記憶もある。そして、就職して・・・


「っ・・・」


 頭に何か衝撃が走る。


「吉田?大丈夫?」


 宮部が心配そうにこちらを見ている。


「あぁ・・・すまない。ただ、ちょっと頭が痛くなってさ。」


「うん、そっか。でも、それは・・・」


 なんだ?宮部の急に表情が曇る。


「どうした?宮部。」


「吉田。ちょっとあっちに行ってみようか。」


 そう行って宮部は俺の手を取り裏山の中を進んでく。


「おい、なんだよ。一体どこに連れて行こうっていうんだよ。」


 俺の問いかけに対して宮部は答えようとしない。

「なぁ、どこに行くっていうんだよ。」


「・・・もう少しだから。」


 宮部はそれだけ言って、また無言になる。


**********************


 ほんの二、三分歩いた山の中。少しだけ開けた場所がある。


「ここは?」


 俺は宮部の顔を見て問いかける。


「ここはね、思い出の場所だよ。」


「思い出の場所?」


「そう。君と僕の。」


「俺たちの・・・思い出の場所?」


 宮部の言っていることがわからない。だいたい。山の中のこんな辺鄙な場所に思い出なんてあるものだろうか。そんなことを考えながら辺りを見回すと、そこには小さな石碑のようなものがある。


「なんだ?これ?」


 そう俺は呟き、石碑に近寄って行く。宮部は俺のことを後ろからただじっと眺めている。


「は?」


 石碑にはこう書かれていた。


『この地での災害により、尊き人命が失われたことをここに記す。』


「災害?」


「思い出せない?」


 いつのまにか宮部が俺のそばに立っている。


「・・・災害・・・」


 思い出せない・・・いや、思い出したくない。なんだろう、この感覚は。


「そう、あれはもう十年前のこと。」


 そう言って宮部が語り出す。


「君と僕はここにいた。いつものようにね。でも、その時に・・・」


 そう言って宮部は崖の上に目線を移す。俺もそれにつられるかのように崖の上に目をやる。そこは切り立った崖。少し脆そうに見え、いつ崩れてもおかしくないように見える。


「・・・崖が崩れたんだよ。」


「・・・」


「そして、君と僕はそれに巻き込まれた。」


「は?」


「覚えてないのも当然だよ。君はその後、ずっと意識が戻っていないんだから。」


「はぁ?」


 我ながらなんという情けない声を出したんだろう。それにしても悪い冗談だ。意識が戻っていない?何を言っているんだ。俺は今、ここにいるじゃないか。こいつは一体何を言ってるんだ?


「君と僕が崖崩れに巻き込まれたのは卒業間近の二月半ば。季節外れの大雨が続いていた時の頃だよ。入試もひと段落した君と僕は、久しぶりに裏山に行こうかってことになったんだ。ちょうど、雨も降っていなかったしね。」


「何を言ってるんだよ・・・そんな・・・そんな記憶はない・・・」


 俺は崩れ落ちてしまいそうになるのをギリギリのところで持ちこたえた。


「君はね・・・その時から意識と身体が分かれてしまっているんだ。」


「そんなことは・・・俺は信じないっ。」


 何を言っているんだよ。俺は昨日、高校時代のクラス会に参加していたじゃないか。そして、きちんと会話をしてきたじゃないか。おかしい。宮部の言っていることはおかしい。こいつの頭はおかしいんだ。話を聞いちゃいけない。


「よく思い出してみてよ。昨日、君は本当にクラス会に参加していたの?誰か君に話しかけてきた?」


 宮部は動揺することもなく、俺の目をしっかりとみて語りかけてくる。


「言われるまでもないだろう?俺は昨日・・・友人たちと話しをして・・・」


「うん、そう思っているんだよね。それは仕方ないことなんだよ。そう、思い込んでいるんだ。」


「ふざけるなっ。」


 そう大声を出して宮部を怒鳴りつける。そして、昨日のことを冷静に思い出す。思い出すだけで鮮明に映像として記憶が蘇ってくる。



 そう、気がついたら俺はクラス会の会場にいた。

 懐かしい面々がそこにいる。いや、懐かしいのか?誰だ?こいつら。誰一人として知っている顔がいない?いや、知らないというよりも、俺の記憶の中の顔より随分と大人びて見える。


「最近、アイツはどうしてるのかな。」


「アイツ?」


「ほら、いつもお前と一緒だったアイツだよ。」


「さぁな。今日は来てないから知らないけど。どうなんだろう?」


 そう、俺はこんな会話をしたはずだ。確かに覚えている。


「それは本当に君の記憶なの?」


 記憶の映像の中に宮部の声が響く。


「当然だろう?俺はあの場に居たんだ。その俺に話しかけてくるやつがいるのなんて当然のことだろう?」


 俺は必死になって宮部のいうことに逆らおうとする。


「うん、でもね。よく思い出してみて・・・アイツって誰のことを言ってるのかなぁ。」


 アイツ・・・確かに。誰のことだった?宮部に言われてさらに深く思い出そうとする。


「さぁ、って。お前とアイツは親友だったんじゃないのか?」


「そうだっけ?」


「そうだって。なんかお前たちいろいろやってたじゃないかよ。一緒にバカなことをさ。」


「ん〜、覚えていないんだけどなぁ。」


「そういえば。アイツが卒業前に言ってたな。」


 卒業前?俺の記憶では卒業式で・・・だったはず。


「何を言ってたんだよ。」


「ほら、卒業式の後に何とかって・・・」


「卒業式の後?」


「なんだよ、お前も覚えてないのか?」


「あぁ、全く覚えてないなぁ。」


「まぁ、昔のことだからな。それも仕方がないよな。」


「・・・そうだよな。」


「吉田・・・一緒に卒業式に出たかっただろうな・・・宮部も・・・」


 なんだ・・・なんだよ。この光景は。俺の記憶とは違う光景。それに吉田っていうのは俺のことだ。目の前にいる俺に向かってどうしてこんな話をしているんだ?それに・・・宮部?


「思い出した?」


 宮部がしゃがみこんでしまった俺の肩に手をかけて優しく話しかける。


「宮部・・・お前は・・・誰なんだ?」


 俺は宮部の顔を見て質問をぶつける。


「僕は・・・私は・・君の彼女だった。」


 そう言って宮部は寂しそうな表情を浮かべる。


「俺の・・・彼女?」


「うん。まだ思い出してくれないの?吉田くん。」


 そう言うと今まで笑顔だった宮部が顔をくしゃくしゃに崩し、涙を浮かべてこちらを見る。そして、突然浮かんでくる名前。


「宮部・・・理沙・・・」


 不思議な感覚。

 思い出される記憶。


「うん・・・そうだよ、貴史くんっ。」


 宮部はそう言って抱きついてくる。


「あ・・・」


 俺は混乱の中に喜びと恐怖を感じていた。そうだ・・・あの日、確かに俺と一緒に裏山に来ていた。数日前までに降った大雨の影響もあって地盤が緩んでいたんだろう。突然の地鳴りとともに空から何かが落ちて来たんだ。それが、土砂だっていうことに気がついた時にはもう遅かった。


「ごめんね、貴史くん。私・・・ずっと、ずっと謝りたかったの。」


「なんでだよ。お前が謝ることなんてないじゃないか。」


「だって・・・あの時、私が裏山に行こうなんて言わなければ、貴史くんが巻き込まれることはなかったのに。」


「何言ってるんだよ。そんなことは関係ないだろう?」


「ううん、それに・・・私のこと庇ってくれて、ありがとう。私、嬉しかった。」


 そう言って宮部・・・いや、理沙は笑った。


「それにしても・・・俺たちはどうなってるんだ?」


 今更ながらに自分の置かれた状況を確認しようと理沙に聞く。


「あの日・・・崖崩れに巻き込まれたあの時・・・」


 そう言って理沙は目を伏せる。俺は無言で先を促す。


「私たちは二人とも救助されるまでに数日掛かったの。それで・・・二人とも重傷で・・・」


 それはそうだろう。無傷なわけがない。


「それで?」


「うん・・・私は・・・助からなかった。せっかく貴史くんが庇ってくれたのに・・・ごめんね。私は救助されてから二日後に死んだの。」


 死んだ?理沙が?じゃ・・・今ここにいる理沙は・・・


「理沙・・・お前・・・」


「うん。私、死んじゃったんだ。それで、ずっと貴史くんを見守って来たんだ。」


 俺を見守る?


「俺は・・・」


「貴史くんは・・・十年間意識が戻らなかったの。でも・・・」


「でも?」


「でも・・・今、目覚めたなら・・・」


 生き返ることができる・・・ということなのだろうか。


「そうか・・・」


「うん。」


 生き返る・・・そもそも、生き返ると言っても何の実感もない。何というか死んでいたという記憶もないし、いや、死んではいないのか。ただ、生きているとは言えない状態だったというだけで。


「理沙は?どうなるんだ?」


「私は・・・」


 理沙は少しだけ目を伏せ、そして俺の方を見て笑った。


「私は、これからも貴史くんを見守っていくよ。」


 それはつまり・・・理沙は・・・


「そうか・・・」


 今までのことを思い出して見る。どうやら、俺は長い夢を見ていたようだ。おそらく、つい最近まで夢を見ていたのだろう。そして、今・・・


「貴史くん・・・大好きだよ・・・」


 そう言って理沙が俺に抱きついてくる。


「あぁ・・・俺もだよ。理沙。」

最後まで読んでくださってありがとうございます。


初めての短編です。


ちょっとの謎と、切ない話を織り交ぜてみました。


短い話なので、複雑な話はありませんが。


よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 作品読みました。 クラス会で思い出せないなんてよくありそうな話、と思って読んでいたのですが、だんだん怪しげな雰囲気が漂ってきて、真相が明らかになると「そういうことだったのか!」という驚きと…
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