天使
「ようやく終わった……」
俺は家の外でそうため息を零した。
通夜はもう終わり、他の皆も徐々に家の外に出てきた。
だが、俺にとって本当の難題はここからだった。
「今日泊めてくれる人探さないとな……」
そう、俺は一泊二日でここに来ているため、ここで泊まる必要があった。
だが、泊まるといっても余音さんが言った通り何もない場所なので、誰かの家に泊めてもらう必要があった。
「まあ、仲が悪い家で生まれた俺なんて誰も泊めてくれないよな……」
本音をポロリと口にした俺は野宿でもしようと歩き出した時、俺を呼ぶ声が聞こえた。
「大地君! 今日私の家でも泊まってく?」
聞き覚えがあるその声が聞こえて俺は瞬時に振り向くと、声を掛けてくれた人物はやはり余音さんだった。
「よ、余音さん……!」
「この家は駄目らしいけど、他の家なら泊まっても良いって皆言ってくれたのよ!」
「そ、そうなんですか!? や、やったー!」
俺はついつい嬉しくなってそう声を荒げてしまった。
だが、一つの疑問が浮かんだことでテンションは一気に下がることになる。
「この家が駄目って……それはやはり、俺が仲が悪い家から来た流れ者だからですか?」
「ち、違うよ! 駄目って言うのはまた明日ここで本当の葬儀をやらないといけないから、その準備とかで泊めるのは無理ってことだから安心して!」
「そ、そうですか………そ、そうですよね! 確かに準備とかで忙しいから人を泊める余裕なんてないですよね!」
半ば自分に言い聞かせるように言って俺は納得した。
「そうなの……だから大地君が良かったら私の家に泊めてもらうことになっているんだけど……」
余音さんは顔に影を落として言った。
「な、何か悪いことでも?」
「ええ……そう悪いことじゃあ無いんだけど……私の家って結構ここからだと距離があって、病院があるよね?」
「ああ~はい、確かにありました」
「そこをちょっと行った所だから結構遠いのよ、明日もここに来ないといけないからその辺がちょっと……」
ああ~仲が悪いのにこんなに流れ者の俺に優しくしてくれるなんてこの人は天使だ……だから、その天使の言うことを聞かないわけにはいかない!
「いえいえ、全然大丈夫ですよそのくらい! むしろ良い運動になります!」
俺がそう言うと、余音は笑みを浮かべて「ありがとう!」と言った。
まさに天使だ……。
だが、そんな幸福なときもすぐに終わることになる。
「あっそういえば私、今日準備のために呼ばれてるんだった!」
「えっ!? じゃ、じゃあどうするんですか?」
「う~ん仕方ないけど、私が家の場所を教えるから、大地君、悪いけど一人で私の家に行って待っててくれないかな?」
そんな、余音さんと一緒に帰れないなんて……いや、まだ手はある!
余談ですが、この話の年は1961年になります。




