開始 【南愛子】 1
『1』を選んだあなたに相応しい『死』は『破』です。
『破』の方法で殺されたい方は【お願いする】ボタンを。
殺されたくない方は【考え直す】ボタンを押してください。
*注意*
このボタンを押した後はもう引き返すことはできません。
殺されるのにお金は必要ありません。無償で殺させて頂きます。
よく考えてからボタンを押してください。
【お願いする】【考え直す】
来た。これだ。これ、本物だ。
これで死ねる。死ねる。死ねる。死ねる。死ねる。死ねる。
どこの誰が作ったのかなんて分からないけど、これできっとあたし逝ける。
『破』の意味なんか分からなくてもいい。
自由になれるならそれでいい。
召して天上の楽園に戻れるなら、なんでもいい。なんだっていい。
【お願いする】
画面は一瞬にして真っ黒になり、じじじっという音と共に真っ黒い画面に紫色の文字で【成立】の文字が浮かんできた。
【ヒガイヨテイシャ】
名前:南愛子
年齢:16
住所:東京都港区⭕⭕⭕4-3-2580-147
電話:LINE対応
職業:高校生
趣味:死後の世界の研究
部活:オカルト研究会
シニカタ:『破』
本日より半年以内にシッコウ
取り消し不可
以上
【次へ】
「完璧だ。ここだ。あたしが探し求めていたサイトはここだ。長年追い求めていたサイトがようやく手に入った」
死後の世界の本を読み漁り、死ぬ瞬間に感じること、苦しみはどのくらい続くのかっていうのが書かれた本だって読み漁った。
画面に叩き出されている自分の情報に満足しているあたしは半笑いで画面をいとおしく触った。
【次へ】
この先の世界はどうなってるんだろう。
今までずっと考えてきていたことがようやくこの手に落ちる。
一秒向こうのあの世界に行ける。
早く、1分1秒でも早くアノ世界に逝きたい。今すぐにでもいい。早くこのサイトの管理者にコンタクトしたい。
『ご利用ありがとうございました。それでは、ヨイシヲ』
画面に叩き出された文字を機械的な音で読み上げられた直後、画面は消えた。
さあ、これからどうなる? 今までの経験上、こうなると絶対に誰かがコンタクトしてくる。さあ、誰がコンタクトしてくる?
『破』のシニカタって、どんなものなの?
試したい。早くこの身で感じたい。どんな苦痛、苦しみが待っているの。
右手にマウス。画面は消え去り、検索をかけても出てこない。履歴にすら残っていない。ということは、このサイトが本物であることの証明だ。
左手にスマホを持ち、いつコンタクトされても即座に取れるようにして待った。
ものの5分もしないうちにスマホの着信。
「はい」
「アイコサマ」
「サイトの方ですね」
「ハイ。加穂留です。コンバンハ」
「挨拶はいい。いつ? いつなの? これ、いつなの」
「......ご希望とあればすぐにでも」
話し声が変わった。トーンが低くなって冷たくなった。
いい。
この不気味さがゾクゾクする。
「いつでも準備はできてる。これからどうしたらいい? むしろ今すぐ会いたい」
「それは私が遠慮させていただきます。準備もしなければならないので。今日の今日は無理です。明日の日曜日、朝9時に玄関先でお待ちしております」
「うちの?」
「黒い霊柩車が参りますから、それに乗ってください」
「霊柩車」
悪くない。
生きているうちに霊柩車に乗れるなんて、こんな嬉しいことってない。
「分かった」
「ソレデハ」
無造作に電話は切れた。
即座に着信履歴を見たが、やはりそこにも着信があった形跡は残っていなかった。確実に話はしたのに、なんの跡も残らない。
跳ねまわる心臓を鷲掴みにしたい気持ちを抑え、本棚に入っている死ぬときに感じることという本に手をかけた。