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開始 【山中聡美】 4 

『4』を選んだあなたに相応しい『死』は『刃』です。


『刃』の方法で殺されたい方は【お願いする】ボタンを。

殺されたくない方は【考え直す】ボタンを押してください。


*注意*


このボタンを押した後はもう引き返すことはできません。

殺されるのにお金は必要ありません。無償で殺させて頂きます。


よく考えてからボタンを押してください。


【お願いする】【考え直す】


「刃で殺されるの私?」

ははは、バカみたい何これ。少しはまともなサイトかと思ったのにこれじゃそこら辺にあるサイトと同じじゃない。

私は本気で死ぬ方法を考えてるのに、なめたサイト。

こんなつまらない世の中なんて、生きても生きなくても同じ。

毎日同じことの繰返し。朝起きて学校へ行き、夕方に帰ってきてバイトに行く。夜中に帰ってきてまた眠って学校へ行く。

稼いだバイト代で欲しい服や靴を買って遊びに行く。

働かなくては生きていけないシステムになっているから、人は死ぬまで働かなければならない。そうしないと何もしないままでは普通の人は生きていけないから。

なんのために生きてるのだろう。死ぬまでの時間つぶしにすぎないだろう。望んでもいないのに生まれてしまったからとりあえず生きてる。この世にいてもいなくても、結局みんな最後は「無」に還るんだから。遅かれ早かれだ。


迷わずに【お願いする】ボタンを押した。


画面は一瞬にして真っ黒になり、じじじっという音と共に真っ黒い画面に紫色の文字で【成立】の文字が浮かんできた。




【ヒガイヨテイシャ】


名前:山中聡美(やまなかさとみ)

年齢:16

住所:東京都渋谷区⭕⭕563-3355

電話:LINE対応

職業:高校生

趣味:読書

部活:なし


シニカタ:『刃』


本日より半年以内にシッコウ


取り消し不可


以上



【次へ】


「は?! なにこれなにこれなにこれ。意味分からない。なんで私の情報が上がってんの? これ、上がっちゃダメなやつじゃん」

どうしよう、どうしたらいい? 消えないの? てか、画面動かないし。信じらんない。どうしよう。

画面は真っ黒、そこに紫色の文字で私の情報が上がってる。こんなの間違ってる、おかしい。ウイルスにやられたのかもしれない。とりあえずこれ、なんとかしないとと思っていろいろ試したけど、全く反応しない。

強制シャットダウンしようとボタン押しても消えない。

「ふざけんな、ありえない。画面は固まるし何しても動かないってありえなさすぎる」

どのボタンを押しても無反応なパソコンに焦り、コンセントを引き抜いた。小さい電子音を立てて暗くなった画面には私の顔しか写っていない。

静かになった部屋にはなんの音もしない。壁にかけてある時計の時間を刻む音が時折思いだしたように耳に入ってくる。

何とはなしに10秒数えてコンセントを入れてみた。いつもと変わらない電子音が聞こえ、画面に映像が映し出されたが、そこには真っ黒い画面に紫色の文字。

消えてない。

「ちょっとなんで。消えないのっておかしいでしょ。こんなこと、今までなかった。こんなおかしな動き、したことなかったじゃん」

吐き出す言葉も頭がフリーズしているためか疑問詞、感嘆詞がほぼほぼ占めている。

点滅しているのは【次へ】のみ。その他は全く機能していない。

「押すしかないってことだよね。それしかできないってことだよね」

こんなもん。ふざけてる。どこのどいつだ作ったのは。

考えれば考えるほどイラついてきて、乱暴に【次へ】をクリックした。


『ご利用ありがとうございました。それでは、ヨイシヲ』


画面に叩き出された文字を機械的な音で読み上げられた直後、画面は消えた。

いつも通りのパソコンの画面に戻り、何事もなかったように動き出した。

さっき見たページはどこにもないし、みつけられない。

椅子に座ったまま考えたけど、答え出なくて、ただただ画面を見ているしかなかった。

LINE音がベッドに投げてあるスマホから聞こえ、目を移す。八畳の部屋にはベッドとパソコン机しかない。手を伸ばせば届く範囲だ。

もう一度パソコンに目を移し、手だけを伸ばしてスマホを取り、ロックを解除してLINEに入ると知らない女からLINEが届いていた。

見たことのない女の写真は、テレビで見たことがあるような気がした。可愛い部類に入る私の得意としない分野の女。そういう女はだいたいぶりっ子で困った顔をしていればなんでも思い通りになると勘違いしている。そんな女、見ていていらいらする。

名前は『加穂留』

クリックをしたら既読がついてしまい読んだことがバレてしまう。でも、読んだあとでブロックをしてしまえばいいだけのこと。

こんないたずらするの、誰?

クラスメイト? いや、そんなはずない。クラスでは私はいつも一人だし友達も多くない。それに、私に自殺願望があることなんて、誰も知らない。


『サトミサマコンニチハ。ハジメマシテ、カホル(加穂留) です。イキナリノメールデ ビックリシテ イルン ジャナイデショウカ。オアイシテ ハナシタイ コトガアリマス。ざ・ パーク デ 12ジニ アシタ オマチシテイマス。キテクレタラ トテモ うレシいデず。そーそー、テブラデ どーゾ』



「キモい。てかこの文、読みにくい。何この平仮名とカタカナ交じりの文。全く意味が分からない」

こいつ、キモい。ブロックリストに追加してベッドに投げて、パソコンに向かい合った。まずはあのサイトを探すのが先だ。

しばらくするとまたLINEのメッセージの着信音。

開いてみると、先ほどブロックしたはずの『加穂留』からだ。

読む前にブロックリストを確認すると、そこに加穂留はいない。ちゃんと入れたはずなのに、いつのまにかリストから外されていた。

立て続けにLINEが入り、画像添付つきのメッセージが届いた。

見たくないけど、気になってしまう。好奇心には勝てず、タップしてしまった。


『タビタビのメール、ゴメンナサイ。シャシンをオクルノをワスレテマシタ。ソレデハ』


写真を見たとたん、頭のてっぺんからつま先へ電流が流れたように痺れた。

加穂留の後ろに写っているのはうちの玄関のドア。オートロックのマンションなので入ることは難しいはずだ。管理人だって常駐しているんだから、見たことのない住人には声をかけるはず。

しかし、写真は間違いなくうちの前だ。

なんで? もしかして!

急いで部屋を出て廊下を走り玄関のドアを開けて外に出た。エレベーターホールの方を見ると、黒髪の女がエレベーターに入っていく後ろ姿が見えた。

「加穂留!」

裸足で走った。エレベーターホールまではそんなに距離はない。走れば間に合うかもしれない。だが、むなしいことにエレベーターホールに着いた時には既に階下へ移動していて捕まえることはできなかった。

有無を言わさず非常階段を駆け降りた。うちは4階なので走れば今度はなんとか間に合うはずだ。

ロビーで加穂留を捕まえて問い詰めてやる。

階段を飛ばし飛ばししながら走り、ロビー階の非常ドアを勢いよくあけてエレベーターホールに走る。しかし、そこには誰一人いなかった。

エレベーターは1階で扉が開かれ、確実に誰かが乗っていたことだけは確かだ。

走ってきたから息が上がっているし、裸足で走ったから足が痛い。

「あいつ、一体なんなの。うちの前にずっと居たってこと?」

しんと静まり返ったロビーは冷たい風が流れていた。

靴もはいていないので外に出ることはできず、しばらく突っ立ったままで何も考えられなかった。



♦



「サトミサマですね」

日曜日、指定された通りの時間に遊園地に出向いた私は背後からかけられた声に振り向いた。

「て、誰?」

そこには背の高くて顔の整ったイケメンが一人、私を見下ろしてニコニコしていた。

「初めましてですね。いきなり声をかけてしまってすみません。加穂留の代理で来ました」

「加穂留の代理?」

「はい、加保留はちょっと予定が入ってしまいまして、代わりに僕が」

「そうなんですか」

「キクカワです」

「...はあ」

「行きましょうか」

「はい」

加穂留に問い詰めてやろうと思ってただけに、こんなイケメンが来てしまうとさすがにできなくなってしまう。

この人もまた自殺希望者なのかな。

じゃないかぎり私との接点ってないよね。てことはあのサイトを見てここに来たひとの一人なのかもしれない。

なんでこんな人が死にたいと思うんだろう。なんの理由もなさそうなのに。今だって特別死にたい理由が見当たらない雰囲気だし。

「今日も暑いですね、どうですか、まずはそこでショーでも見ませんか?」

「いいですねそれ、私暑いの苦手なので。歩くのもあまり好きじゃないので。涼しいところでお芝居とか見るの、賛成」

「よかった」

子供みたいな笑顔に一瞬クラッときた。この人と一緒に逝けるなら、今すぐ死んでも悔いはない。

手を繋いで、寄り添って、最期を迎えたいな。


『加穂留』


頭の中に入ってきたのは加穂留の写真の顔。

この人とどういう関係なんだろう。付き合ってるとか? いやいやないない、だってここ自殺サイトだよ。そんなのありえない。もしかして、けっこうたくさんの人がいて、集団になるのかな。

だとしたら、先にこのサイトに入ってた人が新入者を案内しに来たと考えてもおかしくないよね。

「サトミサマ、手を繋いでもいいですか?」

はにかむ笑顔で手を差し伸ばされたら、思わず掴んでしまう。

「もちろん」

「よかった」

ひんやりしているキクカワの手は気持ち良かった。

私たちは手を繋いだまま、目的の場所、『新戒の刃』というショーをやっているところまで歩いた。

まだこの時の私にはにやにやしながら後ろから着けてくる人影がいたことになんて気づきもしなかった。



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