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さあ、分かったら無駄なあがきは――

 気が付いた時には走り出していた。ヴァン君の必死の形相を見て咄嗟に身を隠したけど、今起こっていることを目の当たりにしてじっとしていられるほど私の心は薄情じゃない。地面を蹴って木々の合間を縫うように走る。隠れていた場所からアドルフたちのところまで、そう距離などなかった。

 まずは、まずはあいつらを止めないと!

「ちょーっとまったああああああ!」

 声が裏返るほどに絶叫する。その場の全員の目線をアドルフたちから引き剥がし、彼らに私を認識させるために。

 アドルフを捕らえようとするあまり私のことまでは把握できていなかったのだろう。相手の表情には驚愕の色が浮かべて固まった。

 ――やらせるもんか。

 重心を低くして、地面にそっと拳をつく。

 私に生きろと言ってくれた彼らを、こんなところでやらせはしない。

 全身に力を漲らせて、私は私の根源を解き放った。

 瞬間、

「なんだと」

 蛇のような男が瞠目の声を漏らした。

 人のように肌を晒していた私の四肢に、尻尾と同じく艶やかな毛並みが出現する。五指に生え揃った爪を鋭さを増し、線の細い体が次々と筋肉の鎧を纏っていく。孤高の狩人。野生を剥き出しにしたこの姿こそ、誇り高きガランティスの本性。

 ――絶対にやらせない。今度は私が助ける番なんだ。

「ほう、リカントロープですか。随分と珍しいお友達を連れていらっしゃる」

「冗談、群れなきゃ何にもできないあいつらなんかと同じにしないでよね!」

 ギッと蛇男を睨みつける。

「ふん、まあ今更獣人一匹出てきたところで関係ありません。我々の有利は揺るがない」

 私の睨みを涼しげに無視して、蛇男は手にした銃を構えた。それを合図に他の取り巻きも引き金に指をかける。

「ちょ、どういうつもり!」

 しかし、その標的は私ではなくて。

「動けない人間を人質に選ぶのは当然の選択だろう」

 狙いすまされた銃口は、ことごとくヴァン君に向いていた。

「さあ、分かったら無駄なあがきは――」

 しかし、ヴァン君を狙う男の瞳が私を一瞥したとき、そこにあったのはせいぜい私が蹴り上げた大地の欠片くらいだ。

「あんまりガランティスを舐めないでよね」

 人の目で追えるほど私たちの瞬発力はぬるくない。

 瞬時に距離を詰めた私は、微塵のためらいもなくヴァン君を蹴り飛ばした。

 鋭い弾道を描いて軽快に吹っ飛んでいく彼から一瞬抗議の視線を受け取った気がしたけど気にしない。

 蛇男を真っ向から睨み付けて、私は怒りを露わにした。


 ――さーて、こういう時人間はなんて言うんだったっけ?


 えっと、確か、確か……、

「それ以上やると……」

 ああ、そうだ。思い出した。

「それ以上やると! お前のアナルに突っ込むぞ!」

 戦場に一陣の風が吹いた。


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