十三年前
黄色の花咲く金毬公の茂みの陰。小さく小さく丸まった、幼い背中があった。その幼い子どもを隠す枝がさわさわと揺れて、隙間ができる。
「見つけた」
茂みをかき分け顔をのぞかせたのは、金毬公に身を寄せる幼児より、もう三つか四つ年嵩の、それでもやっぱりまだ小さな子どもだった。
「父さんと母さんがさがしてるよ」
行こうと促しても、頑なに顔を上げない。迎えに来た子どもは心配になったのだろう。しゃがみ込んで、問いかけた。
「リーン。どうしたの?」
「かわいそうね、て、ゆうの」
膝を抱えてうずくまる幼い子どもが、ぽつりと言った。
「しんじゃうのよ、かわいそうね、て」
噂話に興じる無神経な大人たちが思っている以上に子どもは賢く、けれど疑うことを知らないほどには幼かった。
「それで、こんなとこにかくれてたんだ?」
安心させたくて、ふわふわの薄い茶色の髪を撫でてみる。すると、涙に濡れた大きな若草色の目がようやく腕の影から現れたから、精一杯の笑顔を作って言った。
「そんなのうそだよ」
「だって……っ」
「な、泣くなよ。だいじょうぶだよ」
慰めたつもりがますます泣かれてしまった子どもは狼狽し、ひたすらにだいじょうぶだよと繰り返した。ほかにどうしたらいいのかわからなかった。
「ねえ、泣かないで」
小さな子どもが、もっと小さな子どもを一生懸命慰める。
けれども涙は止まらない。
どうせ解らぬだろうと高を括って撒き散らされた言葉は、鋭い刃となって幼い子どもを傷つけたのだ。
「しんじゃうんだ。ぼく、しってるよ。しんじゃった子は、いなくなっちゃうんだ。ぼくも、いなくなっちゃうの」
「そんなことないよ。サキアさまがなおしてくださるよ」
「サキアさまでもだめだって、みんな、ゆってるもん……っ、おとなに、なれないのね、て。おおきくなれない、しんじゃうって」
「なれるよ! 大人になれる」
「だ……って…………」
肩を震わせしゃくりあげる様を途方に暮れて見ていた子どもは、はっと顔を輝かせた。
「そうだ! いいこと思いついた!」
これ以上泣かしてなるものかと、それこそ必死に、力を込めて言い聞かせた。
「お兄ちゃんはこんど、『創石師』の学校に入ることになったんだ。本で読んだんだけど、えらい『創石師』は、命だって石のなかにとじこめられるんだって。いっぱいべんきょうして、えらい『創石師』になって、リーンの命がにげないようにしてあげる。ぜったい、いなくならないように。だからだいじょうぶだよ」
「ぼく、いなくならなくていいの?」
「そうだよ。一緒にいられるよ」
「ほんとう?」
「うん。ぜったいだよ。すごい『創石師』になってリーンをたすけるよ。やくそくする」
「やくそく?」
やっと、涙が止まった。それが嬉しくて、嬉しくて、こつんと額をくっつけて、やくそくするよ、と繰り返す。リーンのそばかすの散る鼻先と、自分の鼻の頭がつんつんとぶつかった。それがおかしかったのか、くすぐったそうに笑みをこぼしたたった一人の弟を、ぎゅうっと抱きしめる。
「おにいちゃん、は、えらい、そうせきしに、いつ、なれるの?」
「え、っと」
どのくらいかかるのか、そんなことはわからない。でも、すぐになれるものではないことは知っている。
「学校でたくさん勉強して、早くなれるようにがんばるよ」
「ぼくも、がんばる」
「リーンも?」
「おにいちゃんが、たすけてくれるまで、がんばる。やくそくね」
「うん。やくそくだ」
無邪気で残酷な約束は、こうして二人の特別になった。