◇ソロモン
あれからすぐにマルコキニアスが追い付き、アガレスと僕を回収した。
みんなもシグマの決戦兵器ソロモンの攻撃を目の当たりにしたのだろう、ニュースは死傷者や壊滅した基地、そしてソロモンからのメッセージを流している。
「鳥井も……鳥井も消し飛ぶところだったな」
「彩華さん」
ソロモンの映っているモニターを眺めながら呟く彩華さん。
「わかってるよ艦長、しかしな」
「やっぱり、降伏宣言をうけるんですかね?」
「……だろうな、実際アレには勝てんだろ72基のソレイユを積んだトンデも兵器、此方にしたら歩しかない状況下にある将棋をさしてるもんだ」
ブリッジの空気が重くなる、すでにアメリカとオーストラリアの軍事基地の3割がソロモンの攻撃によって消えた。
軍も被害にあった人々の非難と救助で手一杯、数の差は無いに等しいが切り札がないのだ此ではじり貧になるのは必至。
「しかしシグマも一気に潰すことをしないとなると、ゲームと称した目的があるはずです……しかも我々に新型のアガレスをリークするメリットがあるんでしょうか」
「ゲームか……森!壊滅した基地割り出せるか」
「お待ちを……そっちに送ります」
「どうだ艦長」
「比較的規模が小さい基地だけを狙って撃ってますね……降伏を呼び掛けるならもっと他にもあるはずです」
「反抗を誘っていると見ていいかもな…だが軍は動かんだろ」
予測ならいくらでも立てられる、戦略ならいくらだって作ってみせるが駒がない動かせないのだ。
「艦長、みんなも待機していい……やれることはやった」
激しい頭痛と目眩が小一時間、ソレイユの全力開放が効いている。
「ナツル、大丈夫か?」
「なんとか、彩華さんも元気なさそうですけど」
「心配はいい、それより声が聞こえてやけにリアルな夢を見たんだな」
「はい、鳥井が消し飛ぶ夢をそこでエリアにソロモンの事を聞きました」
「そして『返すわ』って女の声……」
彩華さんの声を聞いてると気分が大分回復した、持ってくれていた代えの軍服を受け取り会議しつに向かう。
会議室には丹羽最高司令官とみんなが揃っていた、普段は顔を会わせない各小隊の部隊長も集合していた。
「ふむ、集まったの彩華くん頼む」
「了解です、みんな聞け!シャキッとしろ!」
沈んだ空気をなくした彩華さんは咳払いをして真剣に僕達を見据える。
「みんな知ってると思うだから、余計な事は言わない恐らく軍は動かない……ソロモンに勝てないとな、だがな引くわけにはいかん、そこで独立軍事組織を我々で立ち上げる!」
周りがザワッとなる。
「今から転属を望む者、軍を抜ける者は速やかに退役もしくは立ち去れ」
「私達は無謀かも知れません、でも闘う事を恐れても驚異はなくなりませんどうか!私に命を預けてください!」
琴乃が頭を深く下げた。
たっぷり5分の時間がたった頭を下げ続けた琴乃はやっと頭を上げた。
「一時間後、マルコキニアスで待っています」
広い会議室はガランと静まり僕と彩華さんと琴乃と由美くんだけになった。
「みんな来てくれるでしょうか……私達がしたことは反乱に近いことです」
「腰抜けの政治家よりまともな判断ですよ鳴神大佐、じゃ彩華さん、ナツルくん!新型アガレスを完成させるよ!」
「あのデータにあった騎体を使うんですか?」
「あんなのより僕達でスッゴいの創造るさ!」
「私達の旗艦と象徴たるMGを」
僕の肩を強く握り力強い決意の眼で頷く由美とほほえむ琴乃。
「私はお爺様と森特尉とで軍に呼び掛けてみます」
「頼むな艦長、私達もなんとか新型をロールアウト出来るようにする」
基地は静まり返り鳥井の軍人達もそわそわしている。それもそうだろう……何時でも狙い撃ちできるソロモンが僕達の真上にいる、王手は常にかけられたままなのだ。
「お〜し!御前達!狩崎重工と鳴神重工、そしてザム・スパーロ社から手回ししてもらった資材で新型を創る!いいな!」
「おうよ!大佐さん!」
極秘に手回しをしたのだろう……対応がはやい。
トラックから技術屋が援護に来てくれていた、愛乃都さんもこっちに気づき手をふり指揮をし各騎体の整備を開始する。
「待たせたな豪太、ほら基礎体、俺に出来る限りのチューンアップをした特別製だ、じゃじゃ馬と同じオリジナルフレームなんだこれなら耐えられると思うよ」
「おお!すまない!」
無骨なフレームがクレーンで運ばれてくる。
「あとは」「Multipurpose combat effect armor……を用意してあるよ、しかもオリジナルを使った粒子核だからある程度の直撃は無傷だ」
「多目的戦術反応装甲のオリジナルを僕に」
基礎体に白い装甲がはめられていく由美君が考えていたMGと新型アガレスを組み合わせた騎体、量産性やパイロットの安全性、コストを完全無視したハイスペックなゲテモノなのだ。
「由美の奴が設計したんだ、乗りこなせるようにする第二格納庫に行ってシュミレーションをする」
「はい!」
「いい返事だ、五十嵐!ここは頼む」
「了解しやした」
技術班がみんな敬礼し口々に応援してくれる。
少しだけ、心が楽になった。