すみません、ほんの出来心だったんです。
言いたいことはタイトル通り。
あたしは弱い人間らしい。あたしを含めて百人の仲間たちとともに旅をしながら生きていた。
そんなあたしたちを率いたのはなんか凄いやつ。こんなのを人と認めたら……あたしたちはどうなるんだろう?家畜かな?と思う位に凄いやつ。
彼はあたしたちを率いてあっちへフラフラこっちへフラフラ旅をしていた。
いつもヘラヘラしてる、別にただのちょっとイケメンなやつじゃん。ちょっとかまってくるのがうざいし、基本的にいつでも一緒、べったりなのはちょっと辟易とするけど、まぁ優しいやつだし、うん。どうとでもなりそう。
……なんて、思ってた時期もありました。
あんなの嘘。絶対嘘。怒らせたらやばい。ダメ、絶対。
そう、あれは確かあたしが……
♯
当時あたしは反抗期真っ盛り?ていうか思春期?で、あんまりベタベタかまってくるもんだからイライラして。
つまり旅してる集団の中からちょっと目を盗んで脱走してみた。
あれだよ、あんまりかまわれると、ね?
というわけで私は人生初!ぶらり気ままに一人旅に出ました!
一人だから見るものみんな新しく見えて素敵。いつもは隣にべったりなあいつがうるさくて周りなんてちっとも見れないけど今は一人だから誰にも邪魔なんてされない!
なんて素敵!
……なんて思ってたら辿り着いたのは花咲く野原(笑)
いや、でも素敵な場所なのは本当。空は澄みきった青だし、揺れてる花は色とりどり。
ずっとここにいる訳にはいかないけど、でも今日が終わるくらいまでは、ここにいてもいいかな、なんて思ってた。
♯
だんだんと空が赤く染まって、太陽が最後のの力を振り絞るようにして真っ赤に燃えて沈んで行くのを、あたしはそこで見てた。
色とりどりに揺れてた花も同じように真っ赤に染まってる。
きっとあたしも真っ赤に染まってるのかな。
それもそれできっといい。
けど、日が落ちきって、辺りが暗く寂しくなるとなんだかあたしも心細くなる。
あんなに壮大で美しかったはずのここも、今じゃなんだか得体の知れないものが潜んでるような気がして怖い。
そこでやっと思い出す。
あたしは、ただのちっぽけな弱い人間に過ぎないんだって。
♯
「みぃつけたぁぁぁああ」
妙に甘ったるい声とともに後ろから がばっと、誰かがひっついてきた。無駄に長い腕が巻きつく。
あたしは、こいつを知ってる。
だってあたしはこいつと一緒なのが嫌で家出を……。
巻きついた腕があたしを締め上げた。
「酷いよ、俺のところからいなくなるなんてさぁ。凄い必死で探し回ったよ?どうしてくれるんだろうね?」
後ろから囁くように言われる。
どうしてくれるって言われても……て言うか離してほしい……。
「何考えてる?」
いや、はなしてほしい……なんて言えませんね、はい。
だから、えっと締め上げるのやめて死ぬ!
「ねぇわかってるの?周りの景色変わるのが好きだっていうから旅して、一人は嫌だっていうから他にもたくさんわざわざ引き連れて旅してあげてたのにさ。本当は二人が良かったのに。……それなのにちょっと目を離したすきに俺のとこからいなくなるなんてさぁ。どうして?おかしいよね?」
ぎゅううと、締め付けられる。精神的にも肉体的にもあたしのキャパオーバーなんですけど……。
……怖くて後ろが向けない。
うん。なんだこいつ怖いぞ。
優しいなんて思ってたやつ出てこい。……あたしか。
「こんなことなら最初から二人っきりの方が良かったね。旅もしないで鎖でつないどいた方が良かったみたい」
なんか不穏な単語がちらほら……何これ怖い。
「うん、最初からそうすればよかったんだよ」
自問自答自己完結。ちょっとまて、私の意見は⁉︎
彼はよし、と一息つくと私をがっちりと締め上げたまま立ち上がる。
そして有無も言わせず帰ろうとする。
「ちょ、っと待ってよ!あたしはっ!」
「……何?」
「ナンデモナイデス」
こちらを見た彼の目はやばかった。光がなかった。なんかよくわからない怖いものがドロドロに煮詰められてぐちゃぐちゃに混ぜ合わされて押し込められた感じ。つまり怖い。とんでもなく怖い。
あいつに逆らっちゃなんねぇ。
あたしでも、分かった。
♯
逃げるのを阻止するためかしっかりと抱きかかえられてあたしは連れ帰られた。
それ以来あたしは旅をしていない。旅をしていないどころか彼の部屋から出てない。
足にはご丁寧に鎖がついてて歩くたびにジャラジャラなる。
なんてこった。
一緒に旅してた他の九十九人がどうなったかも知らない。
……うん。考えなしの行動はよした方がいいね。こんなことになるなんて。
つまり言いたいことはただひとつ。
すみません、ほんの出来心だったんです。