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Mystic Lady ~完結編~  作者: DIVER_RYU
第三章『作業後ティータイム』
7/40

『作業後ティータイム』 序

~前回までのあらすじ~

アラニギンを撃破し、分身蜘蛛を操る能力を得たロッサ。一行は4つ目の海底遺跡“エリアγ”に赴いた。しかしそこに待っていたのは、ロッサを襲う謎の悪夢と凶暴なハルムであった。群れを率いるデボノイド・フェンリルを倒した琉は、特殊な反応を示す砂利を持ち帰る。果たして、それが示すモノとは……。

「それで、君は頭を押さえてうずくまってたのか。なるほど、それならある程度説明がつくかもしれんな……」


 装備を解除し、カレッタ号を浮上させた琉。港に船を着け、彼はロッサの部屋に向かったのであった。


「あの遺跡に近付いた時、わたしは何故だかすごく怖くなったの。そしてあのクレーターに近付いた時、その怖い“何か”が流れ込んできて、それで……」


 布団の上で身を起こし、ロッサはハーブティーを持って来た琉に言った。


「……船に戻ったら怖い夢を見た、というワケか。あの遺跡、どうやらヴァリアブールにかなり関わることのようだね。それだけじゃない、エリアγが関わるってことは、君はラディア帝国とも因縁があると考えられるぜ。ところで、コイツを見てほしいのだが……」


 琉はそう言うなり、ポケットからビンを取り出した。エリアγのクレーターで手に入れた、今回唯一の発掘物である。


「何か、見えないかね?」


 琉はロッサにビンを渡した。ロッサはカップをトレイの上に乗せ、ビンを確認する。このビン、一見すると砂利と海水が入ってるようにしか見えない。だがロッサの額はグワッ開き、ビンを見つめている。


「ねぇ琉……どうしてこれを持って来たの?」


「……クレーターの中から、微弱なハルム反応が見つかった。オセルスレーダーの感度を限界まで上げないと見えないくらいのな。こんなのは消えかけのハルムか、もしくは君の体内に取り込まれたモノくらいだぜ。そして俺が聞きたいのは……部屋に戻ってからその夢を見なかったかい?」


 ロッサは首を左右に振った。既に浮上してから四時間は経とうとしているが、その間ロッサは部屋で熟睡していたのである。


「じゃあロッサ、このビンの中身は一体何なんだね? 分かるなら教えてくれないかい?」


 琉はロッサにハッキリと聞いた。ロッサは目を閉じ、しばらく俯いた後、そっとその口を開き、言ったのである。


「琉、これはヴァリアブールの細胞よ。わたしと同じ、ヴァリアブールの……」


「やはりな……ロッサ、さっき君の目から涙と共に死んだ細胞が流れ出ていた。ちゃっかり調べさせてもらったら、この細胞からはロッサとは若干違う反応が出てね……。君に流れ込んだのは他のヴァリアブールの細胞、君の中で響いた声はその細胞の持ち主だったヴァリアブールによるモノ、そして君をうなしたあの悪夢は恐らく……」


「そのヴァリアブールの記憶……ということは、あのおぞましい事件から生き残ったモノってこと?」


「そう、そして君に記憶を語った後、その細胞は息絶えたということらしい。いや、それ以外には考えられん。ロッサ、君ですら第三の眼を使わないと分からないくらいに弱っていながら、必死に君のもとへその記憶を届けようとしたのだろうな」


 琉は、今の推測をロッサに伝えた。そして一呼吸置いた後、


「君が怖いと感じたのは、怖い目にあったヴァリアブール達の感情が流れ込んだモノだと考えられる。実際ロッサ、君はフローラにモノを教える時に直接知ってることを細胞を介して流し込むだろ? 同じことが起きたらしいな。だから今後、君に出来るのは……」


 一瞬ためらった後、琉は吐き出すように言いきった。


「君はむしろあの遺跡に赴き、ヴァリアブールの細胞を君自身の体に全て回収すべきだ。これは当時の事を知るまたとない鍵だぜ、即ち君の……」


「……いやだ」


「ロッサ? ……やっぱな」


 琉の提案を、ロッサは断った。これは琉自身も、これはある程度予想出来ていたらしい。


「いやだ。こんな、こんな辛くて怖い記憶ばっかりならいっそ、何も思い出さない方がマシよ! リベールのことも、わたしが封印された理由も、何もかも……」


 ロッサは吐き出すように自分の感情を言い切った。あれだけリアルに殺される瞬間を経験したのだ、ムリはないだろう。


「……良いだろう、君自身がそう言うなら仕方ない。そんなモノを立て続けに見せられようモンなら、君の精神が崩壊しちまうからな。とにかく休んでくれ。そうだ、ハーブティーのおかわりを持ってくるよ」


 それだけ言って、琉は部屋を後にした。


「ごめん……せっかく今まで手伝ってくれたのに……。わたしもう、耐えられそうにないよ……」


 部屋の中で一人、ロッサは涙を流していた。ロッサは気付いていたのだ。琉の表情は何処か、虚しいモノになっていたことを。


「あ、ハーブ切らしちまった……丁度ここに来てるんだし、ブロムに行って買ってこよう。あんな状態だからこそ、ハーブティーでホッとすべきなんだぜ。……そりゃいくら記憶喪失だといっても、思い出さない方が幸せなことだってあるさ」


 琉は食堂でハーブティーを煎れていた。もちろん、ロッサのためである。ハーブティーの入ったポットとカップをトレーに乗せ、琉は再びロッサの部屋に向かった。


「ロッサ、ハーブティー出来たよ。……ハーブが切れたから買い足しに行って来るわ、俺だって飲みたいし」


 そう告げて、琉はアードラーに跨って船を去った。ロッサは部屋で一人、思いつめている。思わず記憶探しを拒否してしまったロッサ。しかし心の奥底には、自分に何があったのか知りたいという意見がまだ残っていた。何より、自分を見つけてしまったばかりに、琉に厄介事を押しつけてしまったという自責の念が、ロッサには重くのしかかっていたのだ。


「わたしって、ほんとバカ……。いっそ船に乗らなければ、琉にも迷惑なんか掛けなかったのに。あの時、船を降りていれば……」


 目覚めたばっかりの時、記憶をなくしていた彼女は琉に詰め寄った。


『教えて、わたしはどうしてこの中で眠っていたの? わたしに一体何が起きたの? わたしは一体これからどうすれば良いの!?』


『そう聞かれましても、当方は一切感知しておりません、すみません、ごめんなさい、許して下さい、おねがいですからゆさぶらないで下さい、その手を離して下さい、痛いです痛いです、腕が痛いです……』


 このやりとりの後、ロッサは琉の提案で遺跡に連れて行ってもらえることになったのである。だが今はどうだろうか。例え他の個体のだとしても、得られるであろう記憶は辛いモノばかりになるだろうと分かった途端にロッサは、記憶探しから逃げてしまったのだ。


「琉はああ言ったけど、本当はきっと……」


 ロッサが思いつめていたころ、街中では。


「良し、あったあった。やっぱハーブはブロムのが一番だぜ。しかもいつもの乾燥葉だけじゃなくて、今日は生葉が入手出来ちゃったよホント。そうだ、せっかくだし今晩はコイツでスープでも作ってやろうかな。ロッサのことだ、きっと喜ぶぞ~!」


 お目当てのハーブが手に入り、琉は上機嫌であった。悠々と水路を駆け巡り、カレッタ号に着くとアードラーを船底に格納、階段を上がって行く。


「ロッサは……寝てるか。よし、晩飯出来たら呼んでやるかな」



 翌日も、カレッタ号はエリアγに向かっていた。例えロッサが記憶探しを拒否しても、琉には琉自身の仕事がある。過去に失われた技術を今の世に蘇らせるため、遺跡を巡って旧文明の遺産を探し出し、高額で売り払う。ロッサには操舵室で待ってもらい、琉はラングアーマーを纏って遺跡へと向かった。


「以前教えたと思うけど、操舵室のマイクから音が鳴ったら出てくれ。逆にもし船に何かあったら、そのマイクを取ってスイッチを入れるんだ。良いね?」


「分かった……」


「……元気出せや。これは君じゃないと任せられない。じゃ、頼んだよ! 行ってきます!!」


 ロッサに連絡係を任せ、琉はクレーターから離れた場所に向かった。遺跡に入れないなら船を任せることが出来る、琉はそう考えたのである。


(昨日はクレーターばっかりで何も探れなかったしな、今日は何か金になるモノを取らないと……)


 クレーターから離れた所には、かつての建物が点在している。そしてその中には、探りきれていない所がいくつかあるのだ。とはいえ、そもそも全て探りつくした遺跡は未だ存在しないのだが。


(うむ、今日はここにしよう。さっさと終わらせて、ハーブティーでも飲むかな)


 琉が眼を付けた建物。屋根が崩れており、中にはガレキが散在している。あまり探られた形跡がないを確認し、琉はアードラーから降り立った。そしてガレキに手をやると、ラングアーマーの運動補助機能を利用して持ち上げた。


「んしょっと。……よし、ハルムの気配はないな」


 遺跡の廃墟にはハルムが潜んでいる危険性がある。今のところ反応はないモノの、他の廃墟から嗅ぎつけて来ないとは言い切れない。


(お? こんな所に……)


 琉があるガレキをどかすと、そこには更に下へ続く階段があるではないか。この建物は一階建てなので、あとは地下室ということだろう。他のガレキこそ残っているが、琉はその階段を下って行った。地下室には大体良いモノが埋もれているからだ。ただし、それなりのリスクを伴うのだが。


「パルトネール・シューター」


 地下室を探る際には、必ずトライデントをシューターに変えねばならない。落盤等で外に出られなくなった場合、ブラスターを使用して脱出するためだ。更にその先端をライトとして照らし、琉は階段を降りて行った。アードラーが一緒ならそのサーチライトを使用するのだが、今回はサポートメカの入れる幅ではないため琉一人で入らねばならない。

 深海の闇と静けさを、地下室はより一層強調していた。一寸先はまさに闇、パルトネールのライトで照らされた個所のみが目視できる、そんな状況である。数ある潜水作業の中でも最も危険なモノに、琉は挑んでいた。


(誰も見つけてなかった地下室なら、しばらく食うのに困らないだろう。こりゃあ儲かるぜ。……しかし暗いな)


 琉はパルトネールの光を更に強めた。この地下室は琉の予想を裏切って、外の建物以上に広いのである。しかしそれだけ多くの宝が眠っている可能性が考えられるともいえよう。

 広い地下室を照らすと柱が乱立しており、実に様々なモノが落ちている。一部の柱は折れているが、その柱の陰に琉はあるモノを見つけ出した。


「これは……剣か? スイッチの跡が見られるな……おおっと!」


 朽ちた剣を持ちあげると、その刃が分離した。良く見ると刃と刃がワイヤーのようなモノで繋がっており、どうやらこれはただの剣ではないらしい。


「随分と特殊な武器だな……他にも落ちてるかもしれん。ここは武器庫か何かだったのか? だとしたら大当たりだぜ!!」


 大金の予感。昨日は金になるモノが取れなかった分を今日は取り戻そうと、琉はがぜんやる気になっていたのだった


「コイツは……お、この辺が動くのかな?」


試験が終わったので再開致します。皆々様、『Space Professor』も良いけどこちらも応援よろしくですw

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