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Mystic Lady ~完結編~  作者: DIVER_RYU
第二章『旧帝国の落しモノ』
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『旧帝国の落しモノ』 破

劇痛に打ち勝ち目ざめた琉。ハロゲニアに向かう途中、ソディア島のアルからエコロケーターが送られた……。

 オキソ島を出て3日目の夜。ハロゲニア沖に碇を打ち、停泊したカレッタ号の側面で白い紐状のモノを体に巻き付け、作業をする男がいた。


「そうそうそう、もう少し糸出して……はいストーップ!」


 紐状のモノの正体は、船の屋根にいる大きな蜘蛛の出した糸。ロッサの得た能力によって生み出された分身蜘蛛である。その糸を寄り合わせて縄状にし、琉はそれを命綱として使用したのだ。


「ロッサ、装置を一つ」


 琉は傍らで浮いているロッサから装置を預かり、カレッタ号に取り付けた。電撃砲のいくつかを、エコロケーターに取り替えていたのである。こうすることで、両方のレーダーを試用できるようになるからだ。


「よし、これで全部だ。糸を引き上げてくれー!」


 そういうと蜘蛛は糸を前脚で巻き上げ、琉は船の甲板によじ登った。


「ロッサ、蜘蛛を戻して良いよ。しかしこいつは助かるな、パルトネールのチェインと違って船体に傷がつかないし」


 今までだと琉はチェインの鉤を引っ掛け、鎖を伸ばして命綱としていた。だがそれだとどうしても船に傷がつく。その点ロッサの蜘蛛なら傷を付けないので非常に便利であった。ただし人前でやれば怪しまれること間違いなしだろう。


「ありがとうロッサ。あの蜘蛛はハルムが使うと恐ろしい武器になるけど、こんな平和的活用法があったなんてね。……まぁ、人前で出来ないのが難点だけどさ」


「ふふっ、何か嬉しい……元々自分の力じゃないけどね。……寒いから早く入ろうよ……」



 翌日の朝。カレッタ号はハロゲニア領の島の一つ、クロリア島の港に船体を付けていた。


「明日作業に入るよ。今日は手続きと、コート買いに行こうか」


 早速外に出た琉とロッサ。が、アクシデントはいきなり起こるモノであった。


「うぅ寒い……凍っちゃいそうだよぉ……」


「ガマンしてくれ、基地に寄ったらすぐにコートを買いに行くから、な? だからしばらくは俺の上着で……!!」


 琉がポン、と肩を叩いた時だった。ピシッ、という音がロッサの肩から響いたのである。


「何だ今の音は。いや~な予感しかしないぞ? ロッサ、悪いけど上着をずらしてみてくれないか?」


 上着を少しだけ脱いだロッサ。すると何ということだろう、彼女の肩には見事なまでのヒビが入っていたのである。


「凍ってるじゃねぇか!? いかんいかん、ロッサは留守番してなさい!!」


「えぇ~、せっかく来たのに……」


「砕け散るよりはマシだろ、今度にしなさい。暖かい服を買って来るから」


 ロッサは渋々船に戻って行った。本来ゲル状の体を持つロッサは寒さによって動きが鈍りやすく、場合によっては凍ってしまう。というか、既に彼女の体表は凍りかけていた。


「仕方ないっちゃ仕方ないけど……いや、逆に考えるんだ。オルガネシアで目覚めたことが幸運だったんだ、ラディアで目覚めたら……」


 琉は自分に言い聞かせつつ、船を出たのであった。冷たく乾いた風が、彼の顔にひしひしと突き刺さる。上着の前をギュッとしめ、琉は船の階段を降りて行った。



 約2時間後。琉は紙袋片手にカレッタ号に戻った。


「ロッサ、良いの買って来たぞー」


 琉が戻ると、ロッサは早速部屋から飛び出て来た。


「ほい、まずはこれだ。ロッサはいつも素足だからねぇ」


 琉がまず出したのは黒いブーツであった。ロッサはそれを受け取ると、早速足を拭いて履き始めた。


「あともう一つあるぜ」


 琉が続いて取り出したのは、赤いロングコートであった。ロッサはケープとサッシュを外し、コートに手を通し始める。


「髪の毛はコートの外に出してね。……よし、似合ってるぜ」


 ボタンを付け、ビシッと着こなすロッサ。胸元が少々開いているが、これは彼女が雑誌を見て選んだモノだからである。


「でも、これで外に出られるの? 確かに暖かくなったけど……」


「大丈夫、そのコートとブーツは特殊な繊維で織られたモノでね、一定の温度に置くと自家発熱するように作られてるのさ。ただこれ高くてね、しかも着込みすぎるとヤケドするからその程度に留めといたよ。じゃ、外に出てみるかい?」


 琉に手を引かれ、外に出るロッサ。さっきは凍って砕け散りそうになったロッサであったが、今度はどうだろうか。


「暖かい……暖かいよ琉!」


「そうか、良かったな! ……俺の分も買おうかな」


 アードラーを呼び出し、二人はクロリア島の港から出発した。ハロゲニアは4つの近接した島から出来ており、互いの行き来が非常に多いという特徴がある。クロリア島はその玄関口と知られ、ハロゲニアを訪れた船の大半がここに停泊しているのだ。


「今から行くのはブロム島だ。ここの移動には小型の水陸両用メカがあると便利だぜ。てなワケで、ちょっと降りてくれ」


 アードラーを水上仕様に切り替え、再び乗り込む二人。島と島の間は、入り組んだ水路のようになっているのがこの国最大の特徴である。そしてこれから向かうブロム島には、この国の名物である味噌料理が味わえるのだ。


「クロリアで交易、ブロムで食料生産。そんでもってフルルは政治の中心で、イオドがエネルギーを生産する。どの島もそれぞれ違う役割を果たしていてね、もはやハロゲニア全体が一つの島と言っても良いくらいだ。流石元帝国領と言うべきか、ここは今まで行き来したどの島よりも発達していて人が多い。何より、ここは道がキレイで走りやすくてね」


 ブロム島に着いた二人。水路を過ぎゆく船を見つつ、二人は料理店のテーブルを囲んだ。


「ここはハロゲニアに着いたら必ず寄る店なんだ。……よし、水は飲めるぜ」


「何か……疑り深くなっちゃったね」


 匂いを嗅いだ後で水を飲む琉。やはり、燃える水を飲まされそうになったことがトラウマとなっているようだ。


「味噌鍋2人前。ゴハンも付けて」


「はい、かしこまりました。あわせて1000チャリンです」


 その晩。琉はラングアーマーやアードラーの整備を終えると、キッチンに立って鍋を作り始めた。


「ねぇ琉、今日はもう食べたよね……?」


「コイツは明日の分さ。味噌料理は次の日からが旨いんだぜ。何より、こうしておけば明日暖め直すだけで食えるようになる。そしてそのために……」


 琉は味噌の入ったパックを取り出した。


「昼に行った店があっただろ? あの店は律義でね、店で出す鍋に使ってるのと同じ味噌をこうやって売ってるんだ。毎回寄るのは単純に旨いからってのもあるけどね、最大の目当てはコイツなのさ。これで船でもあの味が楽しめる、作業後のコイツの味は格別なんだぜ~!」


 早くも楽しみにしている琉。旨いメシにありつくことは、彼にとって最大の原動力であった。誰かに料理を振舞うことを覚えた今は、ロッサにその旨いメシを食べさせることも原動力となっている。作業後の鍋を楽しみにしつつ、二人は作業初日目を迎えることとなった。



 生物と言うのは、「緩」と「急」それぞれ二つのスイッチを持っている。ヒトもヴァリアブールも例外ではない。クロリア島の沖に出たカレッタ号は潜水形態に変わって海の中を突き進み、エリアγを目指している。舵を握る琉の目はまさに仕事人のそれとなっており、深層に眠る真相を目の前にしたロッサもまた引き締まった表情をしていた。


「アンカーシュート! よし、行くぞ!!」


 ラング装置のある部屋へと直行する二人。普段より厚手のウェットスーツに身を纏い、琉はラング装置の前に立った。


「ラングアーマー・セットアップ!」


 ラングアーマーの装備が一通り、琉の体を覆ってゆく。ロッサの手を取り、琉は船から海中へとエントリーした。呼び出したアードラーに乗り、二人は遺跡へと向かって行く。


「寒いな……ラングウォーマー・オン!」


 二の腕にあるスイッチを入れる琉。するとラングアーマーのあちこちにある赤いエネルギー体がより一層輝き、熱を発した。


「何これ、暖かーい! 良いなぁ……」


「こらロッサ、あんまりくっつくなって……」


 そう言いつつもまんざらではない様子の琉。ハタから見たらバカップルにしか見えないだろう。ロッサの体は、海の中では凍る心配はない。ないものの、寒いのは同じらしく熱を発する琉のラングアーマーにくっついていた。 


「わたしも暖かいの欲しいなぁ……!?」


「ロッサ、どうした? 早速ハルムか?」


 遺跡にある程度近付いた時、ロッサの様子が急変した。無言になり、何かに怯えるように辺りを見渡している。ハルムが出たなら腕が変形して臨界体勢に入るのだが、今回の場合はそれとも違う。琉にしがみ付き、ただただ震えているのだ。


「オセルスレーダーに映ってるのはハルムが少量だけ……天敵なのか? ……いや、デボノイドとパントーダくらいだ、ロッサからすれば何も怖くないはず。ロッサ、何があったんだい?」


「分からない……ただ、何だかものすごく怖いの……」


「怖い? 俺は何ともないんだが……。ロッサにとって、エリアγはどうやらかなりワケありのようだな。怖いならさっさと終わらせて戻るぞ、良いな!」


 カクカクと頷くロッサ。琉はアードラーのスピードを速め、遺跡に降り立った。


「ここは巨大クレーターだ。ハルムの潜める場所がないから、大体はここから探索を開始するんだぜ……ってロッサ!?」


 何とロッサはクレーターに着いた途端に、頭を抱えてうずくまり出したのである。彼女の奇行に、琉は頭を傾げた。


「ロッサ? おい、何があったんだ!」


 琉が心配そうになってロッサの顔を覗き込む。一方ロッサは。


「た…………て……」


「あ……い……ぅ……」


「誰……誰なの? 誰がわたしに話しかけてるの? わたしに何を言ってるの……?」


 ロッサの頭の中では、聞き覚えのない謎の声が反響していた。それも数人分、急に聞こえ始めた声に、ロッサは混乱、同時に動揺していた。


「ロッサ? 気を確かに、しっかりしろ、おい!? 俺は琉だぞ!? ……まずい、遺跡から離れよう!!」


 電波発言をし始めたロッサに戸惑う琉。ロッサを抱え上げ、アードラーに再び乗りこむとカレッタ号に直行、潜水形態では居住区が使えないのでラング装置の部屋に寝かせ、彼女のコートを布団代わりに被せると言った。


「悪い、ここでしばらく安静にしててくれ。今日は俺一人で行く!」


 再び海に入り込む琉。ロッサを苦しめる要因とは、一体!?


今度はロッサがピンチです。果たしてこの遺跡には何があるんでしょうか!?

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