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Mystic Lady ~完結編~  作者: DIVER_RYU
第二章『旧帝国の落しモノ』
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『旧帝国の落しモノ』 序

~前回までのあらすじ~

整備のため、オキソ島に向かった琉とロッサ。しかしその途中、新展開に入って早速三大ハルム:アラニギンの操る毒蜘蛛の襲撃を受けてしまう。オキソ島にまで迫って来た追ってを退け、島に在住していたジャックと共に打開策を得た一行は遂にアラニギンを見つけ出し、打ち破ったのであった……。

 目の前の暗闇に、徐々に光が差してゆく。ぼんやりとした視界の先が、やがて鮮明な景色になってゆく。


「う……っつつつ……」


 うっすらと開いたまぶたから、黒目がちなその眼が覗く。何とか動く右手でそれをこすると、琉はベッドの上で身を起こした。


「彩田君! やっと気が付いたか!」


 傍らから声がした。そこには青白い肌をしたアルヴァンの美青年――ジャックと、雪のような肌をした赤き瞳の美女――ロッサがこちらを見ている。と、次の瞬間だった。


 がばっ!


「琉! 良かった……心配してたんだよ!?」


「うぷぷぷぷ!? ちょ、ロッサ、苦しい……何か気持ち良いけど」


 ロッサにいきなり抱きつかれる琉。彼女の目には安堵の涙が浮かんでいる。一方で琉はロッサの柔らかく豊満な体に締め付けられ、困惑と窒息と強烈な快感で声を漏らしていた。


「全くうらやましいな、君は。ロッサさん、そろそろ放してあげないと彼の鼻が爆発しちゃうよ。……そうそう、医者の話によれば、彩田君の左肩は約5日で治るんだそうだ。かなりの部位が溶かされてはいたものの、幸い骨にまでは達していなかったらしい。細胞増殖剤を投与するって。……って聞いてる?」


 ロッサの締め付けから解放され、琉は半ば放心状態となっていた。細胞増殖剤とは、何らかの原因で失った体の部位に注射することで細胞分裂を活発にさせ、短期間で再生させるというモノである。


「増殖剤ね……分かった。全く、あの時は思わず、輪廻を信じて激痛に身を任せちまう所だったぜ」


「おいおい、君はいつの間にアルヴァン族になったのだね? まぁ、僕としては大歓迎だけどさ」


 この世界では、いわゆる輪廻思想というモノはアルヴァン族の思想の一つだとされている。そしてそれらを総称してアルヴァニズムと呼ばれているのだが、これはまた別の機会にお話しするとしよう。


「どうせ身を任せるなら、激痛なんかより快感の方がずっと良いぜ」



 1週間後。オキソ島で整備とエネルギー補給を終えたカレッタ号は再び海に出ていた。目的地は、海底遺跡エリアγの近くにあるハロゲニア領クロリア島。自動操縦モードを展開し、琉は左肩のリハビリを兼ねて甲板へと向かったのであった。


「ハァ……。フンッ! フンッ!! トウッ!!」


 左手でサーベル形態のパルトネールを握り、素振りをする琉。実は彼、両利きなので本来ならどちらの腕でもモノを持つことが可能である。しかし5日の入院生活の間は左手を使えず、体が鈍ったことを感じた琉は訓練に励んだのだった。


「フンッ! ハァッ! ディヤァッ!!」


 パルトネールをしまうと今度は袖からトンファーを取り出し、再び訓練に入る。その様子を、ロッサは傍らで見ていた。


「ねぇ琉。それ、あっちに着くまで続けるの?」


「あぁ。腕っていうのは全く使ってないと鈍るモノだからね。いきなり動かしちゃあケガをする、だからこうして慣らしているのさ」


 徐々にほぐれてゆく琉の左腕。オキソ島からクロリア島までは約4日。琉は左腕を、日常生活で使える程度にリハビリしてすぐに出航したのだが、武器や工具を振るうにはまだ不安があった。


「もうこんな時間か。ロッサ、晩飯にするぞ!」


「はーい!」


 魚釣りはもはやロッサの仕事。それを調理するのは琉の仕事。リハビリのため、琉はあえて左手でのみ包丁を握って魚を捌いていた。いつもなら気分によって持つ手を変えているのだが、今回ばかりは仕方がない。


「これじゃあ、このまま左利きになっちゃいそうだな」


「それじゃあダメなの?」


「少なくとも俺には両利きが1番さ。慣れてるとそう思うモノだぜ」


 これまであまり語られてはいなかったが、琉は両利きであることを特に戦闘においてはフルに活用してきた。普段は右手で持つ武器を左手で持ち替えて奇襲に出たり、左右から来る敵を同時に相手取ったり。そういったトリッキーな動きが得意であった琉にとって、利き腕がどちらかに傾くというのは極めて致命的である。


「まぁ、クロリア島に着いたらまた両腕を使うようにするよ。そんでもってロッサ、そろそろ鍋が出来るぜ」


 捕れた魚のワタと鱗を取り、ぶつ切りにして野菜の切れ端と一緒に鍋で煮る。魚の種類はあまり問わない。違う種類が入っても気にしない。味付けは、海水で煮るので特に気にしない。濃いと思ったら野菜を少し足す。生臭さが気になるなら切ったショウガを足せば良い。


「よし、完成! 島に着いたらこれを味噌味で作ろうかな」


 琉は魚鍋をテーブルに持って行った。ハロゲニアの今の季節は冬であり、近付くごとに寒くなってゆく。そんな時に、この鍋は非常に重宝するのだ。煮物料理とは言え、海水を使うのでコストも比較的低い。


「寒稽古の後の鍋の旨さは格別だぜ!」


「はふはふっ!」


 熱い鍋の具を器にとり、夢中になって食べる二人。まさに心身に沁み渡るというべきか。しかし寒稽古というには、外の気温はそこまで低いとはいえないというのもまた事実であった。琉は寒さには慣れていないのである。


「そういやロッサ、アラニギンから能力はとれたのかい?」


「うん、一応……」


「じゃあちょっと、皿洗いの後で良いから見せてくれないか」


 鍋を食べ終え、皿を片づけた二人。作業室に向かうと、周りのモノを片付けた。


「良い? いくよ……」


 ロッサは自分の腕を変形させ、その掌を上に向けた。するとムクムクと赤い液体が出現し、やがて液体は形を成してゆく。


「今度は手か」


「いや、その気になれば体の何処でも出来るんだけど……」


「何処でも? 一体何が……!?」


 ロッサの掌に乗っていたモノ。そこにあったのは紛れもなく、あのアラニギンが大量に操っていた毒蜘蛛であった。ロッサの得た形質、それは自らの分身として大きな蜘蛛を生み出して操るというモノだったのだ。


「ちょっと使い辛いな……。これじゃ見た人がビビる上に、今までオルガネシアとアルカリアで培った君の信用がガタ堕ちするぞ。うーん……」


 この能力、そのまま使おうモノなら蜘蛛の形が形なのでロッサが毒蜘蛛事件の犯人だと誤解されてしまうことになりかねない。


「じゃあ……こうする?」


 ロッサは蜘蛛の背中をそっと撫でた。するとどうだろう、蜘蛛についていた紫の模様が消えて代わりに赤い縞模様が浮き出たのである。


「もう少し、大きさも控えた方が良いんじゃないか?」


 そう言われ、ロッサは蜘蛛の大きさを縮めた。アシダカグモ程の大きさだったものが、今はジョロウグモ位の大きさである。


「それくらいなら大丈夫だろうな。なるべく今いる蜘蛛の形にしないと怪しまれるぜ。……ところで、何に使えば良いんだ?」


「うーん、うーん……。あ、噛まれたら動けなくなるから投げつけて噛ませるとか?」


「じゃあ聞くけど……何匹出せる?」


 そう言われ、ロッサは再び手を出した。そして先程出した蜘蛛を容器に移すと、また新たに同じ大きさの蜘蛛を生み出して容器に放った。


「元が同じせいかな……蜘蛛同士を同じ容器にいれてるのにケンカが勃発しないというね……」


 因みにオルガネシアのオキソ島には蜘蛛同士を戦わせる遊びがあり、琉も訓練時代にはちょくちょくやっていた。蜘蛛同士の死闘を何度か見て来たせいか、はたまた先週大量の毒蜘蛛に襲われたためか。この妙に平和な蜘蛛達を見ると、琉には一種の恐怖心が芽生えるのだった。そしてそんな彼の心など露知らず、ロッサはまた一匹、また一匹と蜘蛛を足してゆく。


(うわぁ、ホンモノだったら大乱闘に発展するぞこれ。つかこんなに詰められると気持ち悪いな)


 心の声とは言え、琉はさりげに暴言を吐いている。容器の中が10匹になった所で、ロッサの蜘蛛を足す手が止まった。


「……もう無理。これ以上は出せないわ……」


「ありがとう、もう蜘蛛はしまって良いぞ」


 蜘蛛達は次々に液化し、ロッサの手に戻って行く。


「うむ、10匹か。じゃあ戦闘で使えなくもないかな」


「う……わたし自身はちょっとキツい……8匹までは余裕だったけど」


「やっぱキツいか。確かに、科学が発達した今でも蜘蛛をイチから作りだせたなんて話は聞いたことがないし、そもそも蜘蛛の体は非常に複雑かつ繊細な仕組みをしているからね、ましてやそれを身を削って作るとなれば……。あまりムリはするなよ、君は仮にも子持ちなんだからね?」


 そう言った時だった。妙なタイミングで携帯電話に着信が入ったのである。


「誰だ? ……お、こりゃアルじゃねぇか! ハイサイ!!」


「相変わらず訛ってるよぉ! それはともかく、こないだ送られてきたハリバットの件なんだけどねぇ……」


 ハリバット、そう聞いて琉の顔が引き締まった。


「こんなん初めて見たよぉ。コイツのシールドは特別製だぁ、光やレーダーからの電波を乱反射させて姿を消してたみたい」


「なるほど、そういう仕組みか。じゃあ今の技術でも出来なくはないか……しかしこんなモノよく思いついたよな」


「理論上はねぇ。ただ誰もやろうとしなかっただけだよぉ。相手は相当な悪意の塊と考えて良いねぇ。てなワケで良いモノ送るから転送装置起動してぇ!」


 琉は作業室の奥にある装置にまで走った。すぐに装置を起動させ、しばらく待つとそこには巨大なメガホンのようなモノと、特殊なチップが送られていた。


「エコロケーターと、エコロレーダーのチップだよぉ! 試作品だけど、なんとか使えると思うんだぁ」


「なるほど。視覚に頼らず耳を澄ませ、そういうことか!」


 説明せねばなるまい。この世界のレーダーは微弱な電波を使うモノが主流となっている。いわば電気鰻みたいなモノで、ハルムが出現した際にはこの電波を強力な電流に変えて発射、即ち電撃砲として流用出来る仕組みとなっているのだ。

 一方今送られたエコロケーターは超音波を発し、その跳ね返りで辺りを探る仕組みとなっている。蝙蝠やイルカと同じ仕組みなのだが、こちらはまだ試作段階である。しかし今のカレッタ号に、開発を待つ余裕はなかったのだった。


「じゃ、何か不備があったら連絡お願いねぇ!」


 そう言って、アルは連絡を切った。琉とロッサは装置を手に取っている。


「じゃあ、早速付ける? いきなりだけど、わたしの蜘蛛が役に立ちそうだから」


「へ? ……あぁなるほど、お願いしようかな」


新展開参ります。そしてロッサの得た能力は蜘蛛状の分身を生み出して操る能力。何て言うか、美女に蜘蛛って似合いますよね、妖艶なイメージで。……ない?w

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