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Mystic Lady ~完結編~  作者: DIVER_RYU
第十三章『決戦の時』
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『決戦の時』 急

ユウジを撃破したカズとゲオ。そして琉と戦ったメンシェ教皇の正体は機械人形だった。だがテンタクルを追ったジャック達はホンモノのメンシェ教皇と対峙、多量の教団兵による猛攻でピンチに陥っていたのであった。そんな中、負傷したフローラを抱えたままロッサの体が輝きだし……!?

 真っ赤な光が溢れ返り、洞窟内は嘘のように明るくなっていた。ジャックとアヤメは目を覆いつつ、その様子を見ている。フローラを抱きしめたままロッサは光を放ち、そのまま宙に浮いて行ったのである。赤い光に包まれて、二つの影はまるで溶け合うように一つとなり、やがてそこから6枚の翼が、スカートのように広がった尻尾が次々に姿を現した。光が収まった時、そこには隈取りのような赤い模様が入り、人型でありながらも異形の甲殻を纏ったロッサの姿があったのであった。


『な、何事ですか!?』


「ロッサとフローラが……融合した!?」


 アヤメが声を漏らす。いつもの赤いドレスは露出度が増し、動きやすいモノへと変わり、スカート部分には数本の尻尾がのようにくっついている。アラニギンの形質なのだろうか、蜘蛛を思わせる艶のある黒い殻が体のあちこちを覆っており、その姿は天使とも悪魔ともとれるまさに美しき怪物とでもいうべき姿であった。その両目を開くロッサ。それと同時に額の第3の目も開く。6枚の翼は炎のような揺らめきを放っており、そのオーラは心を持たぬはずの教団兵達に恐怖心を起こさせるのか、中々近寄らせない。


『そんなバカなことがあってたまりますか! やってしまいなさい!!』


 ロッサは空中に浮いたままジャックとアヤメの前に躍り出ると、その翼を目一杯に広げ、羽ばたくことでその揺らめきを教団兵達に浴びせた。まさに突風、いや熱風というべきか。この攻撃を食らった教団兵は皆吹き飛ばされると同時に体を焼かれ、次々に塵へと変わっていった。


「つ、強い……」


「これは……防衛本能から来るモノなのか? それともロッサさんとフローラちゃんの底力なのか……とにかく物凄いエネルギーだ。こっちの肌にまでビリビリと来ている。……任せてばかりはいられないな!」


 ジャックとアヤメは闘志を新たに教団兵へと挑む。一方のロッサは鉤爪を長く引き延ばし、分離させると同時に数人の教団兵に投げ付けた。ザクっと刺さった爪をその手で引き抜くと両手でそれを持ち、まるで剣のように教団兵に斬りつけた。そのまま剣を手に融合させると刀身は伸びてまるでムチのようにしなり、近付くことすらままならずに教団兵達は両断されてゆく。


「あの剣捌きは琉、そしてネオの……」


 斬りつけては剣状の爪を再び体内に仕舞い、額の目から凄まじい閃光を放った。閃光を浴びた教団兵は一瞬にして体が焼き尽くされてゆく。もはや催眠眼光などではない。破壊眼光である。


「あれは……彩田君のオセルスフラッシュを元にしたのか……?」


 ロッサは翼を広げたまま水面に立った。離れた所から、教団兵達は走り寄ろうとする。だがロッサの姿はなんと、その場からスゥっと消え去ってしまったのである。混乱を起こす教団兵達。するとその時、水面のあちこちから飛び出した赤い液体が教団兵の体を貫き、溶かしながらある一点に集まった。まず一つの塊がドレスだけを纏ったロッサを型どり、その次に飛び着いた液体が6枚の翼を、尻尾を、装甲の形を成してゆく。ロッサが再びその体を組み立てた時、周りにいた教団兵は一人残らず溶け崩れてしまったのであった。


「圧倒的だ……あまりに圧倒的過ぎる……」


「あれだけ苦戦した教団兵達が、こんな一瞬で……」


『こんなことがあってたまりますか……ええい!!』


 テンタクルはそのまま湖に潜っていった。すると水面で佇んでいたロッサが体を液化させ、同時に体を水中移動に適した流線型の形へと変形させるとテンタクルを追って水中へと向かって行った。


「あ、ちょっと行動早いって! 仕方ない、アヤメさんはここで待ってて。僕はロッサさんとテンタクルを追って来る……ククルカン!」


 ジャックは自分のサポートメカであるククルカンを呼び出すとそれに乗っかった。そして装置を起動させると、


「ラングアーマー・セットアップ!!」


 叫びと共に音声コードが入力され、ククルカンから展開されたシールド内でジャックの服装がアルヴァンの民族衣装からウェットスーツに変わり、更に白銀の装甲が彼の体を覆ってゆく。一通り装着し終わった後、ジャックは口元の装置をガシャン、と着け直した。すると体中の装置が黄色い光を発し、起動した。ジャックのラングアーマーは本来女性用に開発されたモノであり、琉のそれよりも軽量でかつスレンダーに出来ている。


「行って来る! もし彩田君達がここに来たら合流してくれ。良いかな!?」


「分かったわ!」


 それだけお願いすると、ジャックはククルカンに乗って湖の奥へと向かって行く。技術も何も持たないアヤメはただ、二人を見送る他なかったのであった。




「しかし驚いたぜ。まさか、修理が終わってたなんてな! 俺のカレッタ号!!」


 琉は装備を解除し、いつものスーツを羽織って舵を取っていた。


「いやいや直ったばっかりだぜ。隠れながらの修理は中々の苦行だったよ~! もっとドーンと派手にやりたかったから」


「ゲオ、とにかくありがとう。お陰でヤツらにトドメを刺せそうだ。そんでもってカズ、お前えらくケガしてるじゃねえか! 何があったんだい?」


「へへっ、ちょっとな! そっちこそ、もっと色々あったんだろ?」


「……教皇をやった」


「何だってッ!?」


 ゲオとカズの声が裏返った。打ちつけたり伸ばしたりはしても人殺しまでは決してしなかった琉が、なんとメンシェ教のトップの命を奪ったと思いこんだからである。


「……いや、影武者だ。教皇を模した機械人形でな……ビショップ怪物どもと同じ、この宝玉で動いてやがった」


 琉は教皇型機械人形から引きずり出した宝玉を見せた。


「ビショップだったら石板ごと砕いちまう所なんだけどな」


「確かにコイツはとんでもねぇシロモノだ。……ディアマンじゃねぇからよ、詳しいことまで分かんねぇ。でも分かるぜ、ヤバい力がビリビリ来やがるのがよ……」


 宝玉を手に取りゲオが言った。


「しかしジャック達何処に言ったんだか……んん!? おい琉、あそこ見ろ! 砂浜にヒトが、絨毯みたいに寝転がってら!! そんで誰か手ぇ振ってる……って、アヤメちゃんじゃねーか!!」


「何、アヤメがぁ!? 拾うぞッ!!」




(何故です? 何故我が教徒が誰一人としていないのですか!?)


 巨大艦として洞窟内の湖から海に出たテンタクルは困惑していた。教徒達を集めておいた砂浜に、誰一人いなくなっていたためである。


『おかしい。何故一人もいないのです!?』


 テンタクルは怪物化を解き、砂浜に降り立った。仲間の姿を探して歩き回るものの、岩場の陰にも先程の洞窟の中にも教徒の姿が見当たらない。と、その時背後に気配を感じ、テンタクルは振り向いた。


「何処に行ってたのですか……貴方誰です!?」


 テンタクルが振り返ったそこに立っていたのは、白銀の装甲に身を包んだジャックであった。パージしたためか、装甲からはスクリュー等がなくなっている。


「先程のアルヴァン族!? 何故生きて出られたのです!!」


 そう言ったテンタクルの目の前の地面が衝撃と共にえぐれた。目を覆ったテンタクルの目の前にはあの、異形の装甲を纏ったロッサが空中からテンタクルを見下ろしている。


「ふっ……なるほど、よく分かりました。つまりそうやってここにいた我が教徒達を皆殺しにしたのですね。いかにも悪魔の考えそうなことです……」


「……あなた達と一緒にしないでくれる?」


 今の姿になって初めてロッサが言葉を発した。


「ビショップ・テンタクル、いやメンシェ教皇! あなたは自分がルールとなる世界を築くために他人を利用し、ヒト族ではないというだけの理由で他の種族を迫害し、更にはわたし達ヴァリアブールを悪魔だと吹聴した。しかしそれももう終わり。あなたにはもう勝ち目はないの、大人しく警察に顔を出したらどうかしら? そうするならこれ以上の攻撃はやめるから」


「その通りだ。お前を慕っていた教徒達は全員雑魚寝部屋だぜ!」


 セリフと共に海面がざわつき、カレッタ号が姿を現す。アヤメはカレッタ号に合図を送り、倒れていた教徒を全員カレッタ号に運びこんだのであった。


「万策尽きたなテンタクル! 残りはお前だけだ!!」


「……ふっふっふ……ふはははははははは!! 誰が警察に出頭するモノですか!! せっかく前の教祖を殺してニセモノを立てることでこのおバカ集団を乗っ取り、好き勝手出来るようになったというのに……ここで全てを投げ出してしまっては今まで積み重ねたモノが全て水の泡と化してしまいます!! 良いですか、私が生きている限り、この世に差別主義者がいる限りメンシェ教は不滅、何度でも立て直すだけでなのですよ!! 私の理想とする、優れた者だけが旨い汁をすすれる世界を実現出来るまではッ!! そのためには貴方達を今度こそ、海の闇へと葬って差し上げましょうぞッ!!」


 テンタクルは石板を取り出し、天高く掲げるとそこに稲妻が迸り、まばゆい光を放って見る見るうちに姿が変わってゆく。洞窟内ではイマイチ確認出来なかったが、その姿は翼からタコかイカを思わせる数本の触手を生やした巨大な魚か爬虫類のような姿であった。


『こうなったら、今の教徒などカレッタごと海の藻屑にしてやりましょう。教徒など、また集め直せば良いだけの話です!』


「喋り過ぎだてめぇ!! 子連れだっているんだぞゴラァ!! ……あんなヤツの何処にあれだけの人数をまとめるカリスマがあるんだと思っていたが、やっぱ中身は卑しい外道だったようだな。カズ、ゲオ、アヤメ、行くぜ。ダイバースイッチ・オンッ!!」


 特殊なシールドに包まれるカレッタ号。掲げられた帆が折りたたまれ、甲板が二つに割れて甲羅のような形に変わってゆく。側面に海亀のヒレを思わせる部分が張りだし、さらに甲羅のてっぺんから砲台が出現した。潜水形態へと変形したカレッタ号は、海に飛び込んだテンタクルを追って海中へと突き進んで行く。その後ろからロッサが、そしてククルカンに乗ったジャックが追いかける。いよいよ、最後の戦いが始まろうとしていた。 


「ツインレーザー、撃てッ!!」


「了解!」


 カズがスイッチを入れる。するとカレッタ号の側面に張りだしたヒレに付いた爪のような部分からレーザーが繰り出され、テンタクルの触手を飛ばした。


「アームトリガー・オン! メルバオム・アームシューター!」


 ジャックとロッサは変形したカレッタ号の屋根に乗り、構えた。ジャックはメルバオムを左腕に装着した。彼のラングアーマーの左腕にはトリガーパーツと同じ役割を果たす機能があり、ここから放たれるブラスターは通常の1.5倍へと引き上げられるのだ。


「メルブラスター!!」


 矢じりのような形の青白い光弾がテンタクル目がけて放たれる。豪快にも一撃でその首を吹き飛ばした。


「破壊眼光……!!」


 額の目に手を添えて力を溜め、赤い閃光がテンタクルに照射された。斬り裂かれるテンタクルの体。フルメンバーによる激しい攻撃により、メンシェの親玉が変化した怪物の体はあっと言う間に崩されていった。


『そんな攻撃で私に勝てると思っているのですか? おバカさんですねぇ……』


 セリフの直後、テンタクルの欠けた体は見る見るうちに再生していった。石板を狙った攻撃だったにも関わらず、いずれの攻撃も功を成していなかったのである。


「バカなッ! エネルギーの集まってる箇所は確かにあの場所のはず、なのに何故効かねぇんだ!!」


『今度はこちらの番ですよ……』


 そのセリフの直後、テンタクルの姿が消えた。ジャックとロッサが驚いた目で辺りを見渡す。カレッタ号を操る琉は焦燥に駆られた。何故なら、テンタクルの反応はレーダーからもぱったり消えていたからである。


「何処だ、何処にいる!? おいジャック、そっちは分かるか!?」


「ダメだ! さっきまであったエネルギー反応がまるで感じられない!!」


 会話を繰り広げる琉とジャックを見たゲオ。少し溜息をつくと、おもむろに琉の方に向かって言った。


「琉ちゃんよぉ、アンタ一体何のために“アレ”をつけたんだ? ……エコロレーダー、起動!!」


 するとレーダーの反応が一気に変わった。テンタクルの巨体と、数隻の船の姿がレーダーに浮かび上がったのである。


「エコロレーダー……悪ぃ、すっかり忘れてた! この影……だな? ジャック、すぐ目の前だッ! カズ、ツインレーザーを頼む!!」


 ジャックの放ったメルブラスターが宙を切る。すると何もなかったはずの空間から残骸と化したハリバットが現れたのである。


「これは! そうか、石板の力でハリバットを作りだしたのかッ!!」


「しかも無人操行と来た! オリジナルと比べりゃ小さいが、でっかいラジコンってとこかな!!」


『な、我が術を見破っただと!?』


 流石のテンタクルも動揺したのか、一気に姿を現した。するとロッサの爪が伸び、目の前のハリバットに数本突き刺さる。爪が赤く光った直後、ハリバットの船体は爆発四散した。更にカレッタ号から放たれたツインレーザーが、残ったハリバットを焼き払う。ハリバットを一掃した。


「へへっ、どんなもんだい! ……おわっ!?」


 若干天狗になりかけた琉だったが、突如カレッタ号を衝撃が襲う。窓に張り付いた触手が、外で起こっていることをまじまじと伝えていた。テンタクルの怪物体は

他のビショップ怪物よりもはるかに体格が大きく、実に全長は20mはあろうかという巨体を誇る。更に50mはあろうかという触手がカレッタ号を捕えていた。そしてモニターを乗っ取ってテンタクルの声が響いたのである。


『皆様、よくぞここまでやってくれました。しかしもうこれまでです。我が触手から逃れることは不可能、そして……見えますかな?』


 触手の隙間から、龍のような口を開くテンタクルが見えた。その口の中では青白い光が集まりつつある。その前で、触手で捕えられたジャックがもがいていた。


「ジャック!!」


『このアルヴァンを、カレッタ号ごとこのまま吹き飛ばしてやりましょう』


 そう言っているそばから、液化したロッサが次々に触手を切り裂き、溶かしていた。だが切られたり溶かされたりしたそばから触手は再生し、一向に緩まる気配がない。


『ですが……。先程言ったことを撤回するようですが、私を慕ってくれた教徒達をここで殺してしまうのは流石に良心が痛むと言うモノです。彩田琉之助、並びにその仲間達。今この場で自害するというなら介錯して差し上げましょう』


「ふざけんなコラァーッ! 誰がこの場で死ぬかってんだァーッ!!」


『まぁ良いでしょう。とりあえずここに捕えているゴミムシには私が直々に殺してやりますからね……』


 そう言うなりジャックを締める触手の力が急激に強くなった。


「ぐわああああああああああああああああッ!?」


『このまま上半身と下半身を泣き別れにして差し上げましょう。ほっほっほ……』


「テンタクル……許さん!」


 琉はその場でスーツとズボンを脱ぎ捨てた。下にはウェットスーツを着込んでいる。そしてライセンスを舵に取り付けられたカードリーダーにスラッシュさせると、背後の扉が開いたのであった。


「ゲオ、舵を頼むぜ……!」


「ちょっと琉ちゃん!?」


 ゲオ達が止めるのも聞かず、琉は背後の扉から階段を駆け降りた。そして装置にカードを差し込み、気を落ちつけるべく空手の型を少し取りながら呼吸を整え、そして、


「ラングアーマー・セットアップ!!」


 ラングアーマーを着た琉はアードラーに跨り、ジャックの元へと飛び込んだ。


「アードラー・フィンスラッシュ!!」


 まさに間一髪。触手を切り裂き、ジャックを救い出した。


「ありがとう、彩田君……」


「良いってことよ」


 琉の背後から迫る触手を、ロッサの破壊眼光が焼き払った。


「琉、見えたわ。ヤツの喉の下、あそこにある器官が触手を再生させてる! それどころか、石板がやられても再生出来るみたい!!」


「なるほど、どうりで石板ごと真っ二つにしてもダメなワケだ……。良いこと聞いたぜ……行くぜロッサ、ジャック! 良いかゲオ、ヤツの喉元を狙うんだ!!」


『よくぞ見破りましたね。まぁ良いでしょう、分かった所でその攻撃は不可能です!』 


「寝言は布団の中で言うモノだぜ。パルトネール・チェイン、パルトショック!!」


 琉はパルトネールを鎖分銅に変え、構えた。鎖から分銅にかけて電流を走らせ、熱を帯びた分銅の鉤を振り回しては触手を斬り払い、更にアードラーのヒレから展開した刃が絡んだ触手を吹き飛ばす。


「こっちも行くよ! ククルカン・ボディブレード!!」


 ジャックがククルカンの技を発動した。ククルカンのヘビのような体の側面から三角形の光の刃が展開、機体の周りを高速で回転しはじめた。まるでノコギリのように、かつ鋭利な切れ味が迫り来る触手を切り刻み、散らしてゆく。


「まだまだッ! ククルカン・セパレートアタック!」


 ククルカンの頭部から下のパーツが5つに分裂し、各々刃を纏った分身としてテンタクルの触手からジャックを守り飛び回る。近付いた触手は瞬く間に微塵切りにされ、近付くことままならない。


「琉、ジャック、喉元に近付いたら一気にブラスターを!」


「分かってらぁ!」


「了解!」


 水中はヴァリアブールにとって本領である。海水に紛れるように液化し、触手の間をすり抜けてテンタクルの急所へと向かう。


「ロッサ、破壊眼光の準備を! ジャック、オセルスレーダーにエネルギーを溜めるんだ!! もうすぐ、もうすぐだぞ!!」


 三人の額が輝きだす。同時にアームトリガーに装着したメルバオムを構えるジャック。トリガーパーツにパルトネールをセットし、やはり構える琉。ロッサは爪を生やした腕を分離させて飛ばし、怪物の長い首を切り落とす。その一瞬のスキを、三人は見逃すはずがなかった。


「今だッ!! オセルスフラッシュ、パルトブラスター!!」


「オセルスフラッシュ、メルブラスター!!」


「破壊眼光!!」


 次々に炸裂する渾身の技が、怪物の喉元を捉えてゆく。一通りの技を放ち終わったその直後、三人はその場から素早く離れた。すると同時にカレッタ号の甲羅から姿を現したカレッタキャノンの先端から光が溢れだした。


「目標捕捉! 三人とも船に戻れ! いくぜテンタクル、食らえ! カレッタブラスタァァーーッ!!」


 ゲオは叫びと共にそのスイッチを殴りつけた。青白い光弾がカレッタキャノンから放たれ、触手を消し飛ばしつつターゲットへと向かって行く。やがて三人の攻撃でダメージを負ったテンタクルの頭に届いた時、光弾は再生器官ごとその頭を吹き飛ばしたのであった!! 


『おのれおのれ! よくも我が再生器官を!! 許さぬぞ、絶対に許さぬぞぉぉぉおおおおおおおおおお!!』


 怒り狂うテンタクル。その背中から出現した大砲に、凄まじい量のエネルギーを溜め始めた。一方舵を取っていたゲオの後ろの扉から、ウェットスーツを着たままの琉とジャック、そしてロッサが姿を現す。ゲオは琉にハイタッチすると、操舵席を彼に譲った。


「行くぜテンタクル、総員激しい揺れに備えろ! アヤメ、シールドを展開してくれ、そこのボタンを順番に押すんだ!」


「了解! カレッタシールド、展開します!!」


 アヤメの操作によりカレッタ号は赤いシールドに覆われる。レバーを握って速度を最速に切り替え、琉は叫んだ。


「全速全身、覚悟ッ!! 必殺・カレッタストライク!!」


 赤いシールドに覆われたまま、カレッタ号は凄まじいスピードでテンタクルに向かって突っ込んだ。一方のテンタクルからも、溜め込んだエネルギーから強烈な破壊光線が放たれる。しかしカレッタ号はそれをもろともせず、光線を真っ二つに分けてテンタクルに向かって突撃したのであった!


「行っけええええええええええええええええええええええええッ!!」


 ブリッジにいた琉、ロッサ、カズ、ジャック、ゲオ、アヤメの六人は皆声を張り上げ叫んだ。勝利への確信、爆発した攻撃性、そして因縁の決着へと至る感の極まりが彼らを叫ばせたのである。


『そんなバカな! 私は、私は一体今まで、何のために――』


 やがてカレッタ号はテンタクルの体を貫き、大きな穴を開けつつ通過した。窓にはテンタクルに力を与えていた石板が船にかかるGで張り付き、そのまま砕け散っていった。


『メンシェ教は不滅だッ!! 例え私が死のうと、この世に虐げる者と虐げられる者がある限り、第二第三のメンシェ教が生まれることであろうッ!! うぐぁああああああああああああああああああああああああああ!!』


 海中に響き渡る断末魔。それと共に怪物テンタクルは大爆発と共に崩壊、その体を作っていたモノは全て深海の群青の闇へと沈みながら消滅した。


「終わった……終わったよ……」


 半ば放心状態のまま、琉は言った。こうしてロッサとの出会いがもたらしたメンシェ教と彩田琉之助の数カ月に渡る長い戦いは終わりを迎えたのであった。ヒト族至上主義を唱え、それ以外の種族を迫害し、最終的には自分達がルールとなった世界を作り上げるというメンシェ教の野望は、一人の女性を救わんと立ちあがった青年達の愛の前に敗れ去ったのである。そして同時に、ヴァリアブールという一つの種族の未来が、ひとまず救われたのであった。


次回、最終章『Mystic Lady』 お楽しみに

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