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Mystic Lady ~完結編~  作者: DIVER_RYU
第十二章『戦慄のメンシェトゥリス』
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『戦慄のメンシェトゥリス』 破

封鎖されたクロリア島。追い詰められる一行。そんな中、ヴァリアブールの子がメンシェ教に捕まったと聞いた琉は真偽を確かめるべく一人の教徒を捕えたのであった。

 店の地下室にて、その尋問は行われた。武器を全て取りあげられ、椅子に縛りつけられたメンシェ教徒は琉を恨みの目で睨みつける。


「どんな卑怯な手を使われようと答えんモンは答えん! 殺せ!!」


「アンタ達が死を恐れないことぐらい分かってらぁ。死なせはしねぇよ、俺に前科は不用だからな」


「ならば黙り込むだけだ!」


 メンシェ教徒はそっぽを向いたが、琉はそのまま話を続けた。


「おいおい、こっちはまだ質問しただけで何もやっちゃあいないぜ? ……まぁ良い、すぐに吐いてもらうこととなるからな……昼間にかっさらった女の子がいるだろ?」


「……」


「ヴァリアブールの子だとか言ってたな……どうするんで?」


「………」


「悪魔を殺すのは善行なんだろ? だったらもうちょっと胸を張ってみたらどうなんだ。アンタ達は良いことをしてんだ、堂々と言ってみろよ。別に恥じることはないんだろう? 俺の知ってるメンシェ教徒ってのはそういうモンだったぜ?」


「…………」


 だんまりを決め込むメンシェ教徒。すると琉は近くにあった瓶からクルミを二つ取り出すと、片手の掌の中でゴリゴリと転がし始めた。音に反応したのか、教徒は琉の方を向いた。その目に気付いた琉は教徒の方を向かぬまま、凄みを利かせた声で言ったのであった。


「俺は殺しはしねぇが痛めつけることは出来る。よ~く見てろよ……」


 琉はクルミを握る手にグッと力を込めた。するとグシャッという音と共にクルミの殻は砕け、見事に中身が出て来たのである。息を吹きかけて殻を飛ばし、残った身を食べつつ琉は教徒に再び話しかけた。


「コレをアンタの体でやったらどうなるだろうねぇ。そうだな、例えばココはいかがかな……ジャック、口を塞いでくれ」


 近くにいたジャックに口を塞がせ、琉は教徒の手首を握るとすさまじい力で締め付けた。口を塞ぐジャックの手から時折声が漏れる。関節が砕けるか砕けぬかという所で、琉は力を緩めた。と同時にジャックも手をどかした。


「殺せ……! とっ捕まえたヤツを痛めつけてそんなに楽しいか……」


「楽しくねぇな。だから言ってることに答えろよ。昼間に女の子をかっさらっただろ。アルビノである以外はごく普通のヒト族の女の子を、何故ヴァリアブールと決めつけた? 何が目的だ!? そして何処へかっさらった!! おい言えよ!!」


 琉は教徒の仮面を外すと顔全体を手で掴み、口を塞ぎつつ頭蓋骨そのものをギリギリと締め上げた。今にも穴が空きそうな程に。


「彩田君、少しは落ち着かないか! そんなに焦っても情報を取り出すことは出来ない、ましてや今君は口を塞いでしまってるだろ!?」


 ジャックに指摘され、琉は手を離した。いつもの生活が出来なくなり、彼は今完全に焦燥に駆られていたのである。深く息をし、琉は少し頭を捻って考えた。


「会わせたい人がいる。……こちらへ」


 琉は扉を開けた。そこに立っていたのは……


「うちの子を何処へやったの? 何故悪魔だと決めつけたの!? 何とか言いなさいよ!!」


「……好きなようにして下さい。ただし最低限、喋れるようにはしておくこと。良いですね?」


「分かりました……」


 琉の脳裏に浮かんでいた考え。行動を起こすメンシェ教徒は薬漬けになっており、ちょっとやそっとでは口を開かない。以前やったようにロッサを使い、教義を破るよう仕向けるという手もあった。だが今ロッサとフローラはカズの介抱に付きっきりである。だがしかし、いくら薬が効いているとはいえ、何処かにまだヒトの心は残っているはず。そこで犠牲者の母親に問わせることで揺さぶりをかけようと彼は考えたのだ。

 だがその十数分後のことである。半ば寝落ちかけていた琉の耳に、鋭い叫びが突き刺さったのだ! 


「んぎゃああああああ!?」


「んん!? おい、何があった!!」


 扉を開けてみると、そこでは思いもかけぬ事態が起こっていた。椅子に縛られたまま、教徒は転げ回り叫びたて、口から泡まで吹いて悶え苦しんでいたのである。


「な、何かこの人暴れ出して……!!」


「彩田君、コイツは一体!?」


 琉、そして飛び起きたアヤメ、そして声を聞きつけ殺到したロッサには見覚えがあった。数ヶ月前、アルカリア領ソディア島にて見た、あの地獄絵図を。


「禁断症状かッ! 皆離れろォ!!」


 琉は周りの人達を後ろにどかし、自らも部屋を出た。だが彼の頭には同時に、ある妙案が思いついたのである。


「……そうだ! ヤツのローブの中に……アヤメ、神恵水はコイツか!?」


「そうだけど……まさか!?」


「コイツは良い釣り餌になるぜ……危ねぇから皆下がってな!!」



 琉はビンを片手に部屋に入り、のたうち回る教徒にビンを見せた。


「神恵水!! よこせ!! 早く!!」


「おっと、すぐに渡すワケにはいかねぇな。今からいう質問に答えたら渡してやっても良いぞ、どうだ」


「い、言う!!」


「よぉし……」


 琉の口元がニヤリと上がった。


「では何故あの子をかっさらった?」


「……犠牲になってもらう……!」


「犠牲だと? 何の犠牲にするんだ!?」


「“トゥリス”には……生贄が必要だ……ヴァリアブールかどうかなど関係ない、誰かをぶちこめれさえ出来れば……」


「“トゥリス”だと!? おい、じゃああの子は何処へかっさらった、そしてそこに、“トゥリス”はあるんだな!?」


「場所は……フルル島の地下教会……明日の朝、地上を突き破り……“トゥリス”は姿を現す……そして儀式が行われるのさ……」


「儀式ィ!? ……そうか、ヴァリアブール悪魔説にはもう一つ、こんな目的もあったんだな!!」


 琉の脳内で、メンシェの考えが繋がった。過去に起きたことを元にし、ヴァリアブールという種族を悪者に仕立て上げる。そして人類の中でもアルビノの形質はヴァリアブールに似通っているためほぼ無条件で弾圧出来、儀式に必要な生贄を確保しやすくなる。いわばメンシェが行おうとしていたヴァリアブール弾圧の実態、それは現実世界における魔女狩りそのものであった。ただ単にダシに使うだけでなく、マイノリティー弾圧の種にした上で何かに利用しようと企んでいたのである。


「そういうことだな!?」


「……間違ってはない……さぁそれをよこせ!!」


「ほらよ、たっぷり飲め!」


 何と琉はビンの蓋を開け、教徒の口にビンを突っ込んだのである!


「おい琉!? ゴクリっつう音が聞こえてるぞ、アンタ飲ませてるだろ!!」


「何で!? 何で相手に力を付けさせちゃうの!? 神恵水を飲んだ直後の教徒は凄まじい力を発揮するわ、なのに何故!?」


「……心配御無用だぜ……」


 えっ、という顔で扉の外の者達は顔を見合わせた。すると……


「な、何故だ!? 何故……力が……沸か……な……い……?」


「はっはっはっ! このフリムン(バカ)が、お前が飲んだのは神恵水じゃねぇ、不眠症治療に使う睡眠薬だぜ!! しばらく眠ってろぉ!!」


 まさに妙案。琉はビンの中身をすりかえておいたのである。扉を開けた仲間達は

こんな手があったのかと感心する一方で、人間追い詰められたら何でもやるモノだなと思っていた。


「よし、情報が聞き出せた上にローブと仮面が手に入ったぜ。これでヤツらの所に潜り込める!」


「ちょっと待って琉! トゥリスって一体何なの!?」


「そういやまだ話してなかったな。……遺跡でたまに見つかるモノなんだが……」


 説明せねばなるまい。トゥリスというのはこの世界の海底遺跡で見つかる巨大な建造物のことである。だが中に人が入れる場所は一か所だけ、それもヒト一人が何とか入る広さなのである。一体全体何のために使われたのかはほとんど分かっていないのいうシロモノであった。


「だがヒントがある。トゥリスの建てられた場所の周りに極端にモノが少なく、あったとしても酷く崩れたモノばかりなんだ。それに一部を取り出して同位体の半減期を調べてみると……いずれも大戦争の時期に建てられたことが分かるんだよ」


「つまりトゥリスというのは戦争に使うモノであると考えられる……てことは、メンシェは戦を起こそうとしているとも考えられるということかい?」


 カズが尋ねた。この考えでいけば、メンシェ教の狙いが読めて来る。


「恐らく。そしてさっき儀式がどーたらと言ってたでしょ? 実は一度だけ、僕が調査したらトゥリスの内部から人骨が出て来たことがあったんだ……恐らく、アレを立てる際に生贄をささげる習慣があると考えられんだ。しかし、当時は今よりも文明が発達していたはずなんだが……」


 ジャックも答える。トゥリスを建て、彼らは一体何を企んでいるのか。


「ともかく、ここを抜けださないと話にならんぜ。ヤツらの目を掻い潜るにはどうすれば良いんだ!?」


「だったら良い考えがある。地下室まで付いて来てくれ」


 ユウジに言われるまま琉達は地下室の扉を開け、眠り込んでいる教徒の傍らを通り過ぎつつ更に奥の扉を開けた。そこには更に階段が広がっている。


「引っ越し用に使った地下水路だわ。ここから行けば海に出られるに。あとコイツはおれの舟だ、確か……四人乗りだったはずだに」


「余裕だな。俺とジャックはサポートメカを使えば良い……ん、ちょっと失礼」


 突如琉の携帯電話が鳴り響いた。


「琉ちゃんか!? オレだ、ゲオだ! 今メンシェの監視をかいくぐって電話をかけてる!!」


「ゲオ!? 大丈夫なのか!?」


「大丈夫だ……今のこの状況をどうにかするにはメンシェを追っ払う他ないが、それをするにもお前らしか頼れるヤツがいねぇ! だからアードラーと、ククルカンに改造を加えた! 具体的に言うとな……あ、クソ! 来やがった!!」


「おいゲオ!?」


「詳しくはガイド音声を聞いてやってくれ、じゃあなッ!!」


 電話が切れた。ドックの様子が心配だが、多数の他種族がいるためにメンシェの監視が厳しく、近付くことがままならない。ゲオを助けるためにも、琉達に出来ることはメンシェに対する殴りこみだけであった。もし琉がこの監視の網を逃れたと分かれば、メンシェはクロリア島の占領をしている場合ではなくなるだろう。


「……とりあえず、呼び出してみるか。アードラー!!」


「どうなってんだろ……ククルカン!!」


 琉とジャックはそれぞれ自身のサポートメカを呼び出した。琉のサポートメカであるアードラーはトビエイの形をしているのに対し、ジャックのサポートメカであるククルカンはとぐろを巻いたウミヘビのような形をしている。しかしゲオから何か装置を付けられたという割には、どちらのメカも大して変化がないように見えた。


「どれどれ。音声ガイド起動、と」




 メンシェ教会アジトにて、儀式は行われようとしていた。教祖であるメンシェ教皇、唯一のビショップとなってしまったテンタクルといった重鎮達が一堂に会し、厳粛な空気の元その儀式は行われようとしていたのである。


「まずは儀式の前に、教皇様よりお話が御座います」


「皆の者よく聞け。遂にこの時が来た。我々の高貴なる教えの元に、メンシェの支配による理想の世界を築くための、まさに王手を差すこの日が。その礎として、これよりこの娘をメンシェの神の生贄にささげトゥリスを完成させる。このトゥリスにより、まずはこのハロゲニアを生まれ変わらせるのだ!」


「おおおおおお!!」


 熱狂する教徒達の声が、地下室中に響き渡る。しかしその厳粛な空気を打ち破り、現れる者があった!


「な、何者だ貴様ッ! んああああああ!?」


「く、くせものだ! ええい、神聖なる儀式の邪魔をしおって!!」


 ざわめく教徒達に、教皇はザッ、とその手を掲げた。途端に静まり返る教徒達に教皇はまた力強く言葉を並べたのである。


「儀式の邪魔をする輩がいるようだが、心を乱されてはならん! 儀式を行おうぞ、そしてクセモノ達に早速天罰を下すのだ、我々の建立するトゥリスの力によって!! 始めよ!!」


 ハッ、と返事をして儀式に取りかかろうとする教徒達。だが彼らが行おうとしたその時、生贄の娘はそこにはいなくなっていたのである。再び騒然となる教会。その直後、別な声がこの部屋中に響いたのである。


「へぇ~。で、これが生贄の子なのね~」


「よく見りゃ中々可愛い子じゃないか。そんでもってこの子に一体何をしようとしたのかな~、この不気味なオッサン達はよぉ」


次回、遂に教祖と対面する琉とロッサ! 果たしてトゥリスとは何なのか!?

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