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Mystic Lady ~完結編~  作者: DIVER_RYU
第十一章『ロッサの記憶が戻る時』
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『ロッサの記憶が戻る時』 破

苦しむロッサを助けるため、ジャックの力を借りて精神世界に入り込んだ琉とカズ、そしてフローラ。そこで待っていたのは……

「ん……ここは……」


 目をこすりつつ、起き上がる一人の女。黒い髪を後ろで結び、紫のウェットスーツのような戦闘衣の上からぼろぼろになったローブを羽織っている。


「そっか、お父さんが死んで、病院が崩れて……あたし、ずっと放心状態だったんだ。そうだ、琉達は!?」


 彼女の目に飛び込んできたモノ。それはコンテナの前で、険しい表情を浮かべながらロッサのデコを触るジャックと、さらにそのデコを触る琉とカズの姿であった。


「な、何なのコレ……」


 異様な光景に驚いていると突如カズが手を離し、突き飛ばされたかのように尻もちをついた。


「わあッ!! ……ハッ! 手が元に戻ってる……ってことはつまり現実に戻ったということか……」


「ちょっとちょっと一体何が起きてるのよ!?」


「あ、アヤメさん!? 気付いたのか……ってそんな場合じゃない!! 実はさっきね……」



 精神力を鍛えたジャックと仲間同士で身体を融合させることによって知識や経験を共有出来るフローラ。二人は琉達とは別のルートを取り、ロッサの姿を探していた。


「お母さん何処? 何処にいるの?」


「ロッサさーん? うーむ、精神世界内じゃ千里眼が使えないからなぁ」


 精神世界内おいては“痛み”を感じないうちはケガをすることもなく、内部で暴れている者に関しては叩きのめしても構わない。むしろ治療になるので推奨される位である。またイメージ一つで自在に武器を取り出したり出来るというメリットまであり、独特の立ち回りが可能となる。そのため強固な精神力を持ったアルヴァン族は一見、精神世界内では無敵のようにも思えるだろう。


 しかし実際は大きな弱点が存在する。精神世界内での治療のためにはまず“患者”を探しださねばならないのだが、アルヴァン族特有の術である千里眼や心眼といった捜索系の能力を使うことが、この世界では一切出来ないのである。能力を発揮してもその場で倒れてる“患者”が見えるだけであり、精神世界内での行方は掴むことが出来ない。そのため片っぱしから、アナログな方法で探すしかないのである。


「あぁ~イライラする。眼術抜きで人探しをするのは初めてなんだよ……」


「……あっち! お母さんの匂いがする!!」


「に、匂い!? ……はぁ~、こりゃ一本取られたね」


 コンコン、と頭を叩きつつジャックはフローラに手を引かれ、彼女の指した方向へ向かうのであった。だが、ジャックはすぐに足を止め、叫んだ。


「危ない!」


 フローラを抱え、すぐさまその場から離れるジャック。彼の踏んでいた箇所に稲妻のようなモノが走る。その長い金髪を後ろで縛り、ジャックは持ち前のトライデントであるメルバオムを構えた。


「随分と派手な挨拶だね、いくら記憶の一部といっても容赦しないよ?」


「撃てぇ! このワケ分からんこと言うアルヴァンの小僧を、撃てぇ!!」


 記憶の中の住人には、自分が誰かの記憶の一部だという自覚がない。更にその中でもトラウマ的存在は、厄介なことに現実での存在と比べてより凶悪さが増していることが大半である。ジャックや琉達が出くわした兵士もまたロッサのイメージにより大きく歪められ、もはや怪物としか言えぬ存在と化していた。


「メルバオム・チェイン!」


 メルバオムの先端から分銅付きの鎖が放たれる。電撃銃を絡め取り、ジャックは文字通り逆襲に出た。防水処理のために特殊な塗料をコーティングされたラングアーマーと違い、特殊合金のみを使用したソルジアーマーは電撃に弱く、兵士達は次々に倒れては消滅していった。


「やった! お母さんを苦しめるヤツはみ~んなやっつけちゃえ!」


「フローラちゃん、それはあまり良いとは言えないんだ。ここで襲い掛かって来るトラウマ……アルヴァンの言葉で“フーバ”ていうんだけどね、アレはやっつけてもしばらくしたらまた元の場所から沸いて来るんだよ」


「えぇっ!? じゃあ早くお母さんを探さないと!! あっちだよ!!」


 フーバ。先程述べたトラウマ的存在をアルヴァンの言葉ではそう呼んでいる。当然のことながら潜り込んだ人や状況によって形や大きさが違い、ロッサの精神内では兵士の形をしている。ある程度ダメージを与えると消滅するがそれは決してキレイさっぱりなくなったというワケではなく、本人を治療しない限りはいくらでも沸いて来るという特徴を持つのだ。


「とはいえ、ある程度の戦闘は避けられない、か! メルバオム・フルーレ!!」


 ジャックはメルバオムを剣に変え、銃剣を持って挑みかかるフーバ達を迎え撃つ。フローラにはロッサを探すことに専念してもらっていた。すると……


「ジャック、お母さんがいたよ! ……でもあの男の人、誰だろう?」


「男ォ!? 気をつけて、フーバかもしれないよ!! ……敵が多いな、しかし患者が見つかったことだし彩田君を呼ぼう、それしかないッ!!」


 フローラの見つめる先にいたモノ。それはローブを着込み、ロッサを庇いつつ火の中をくぐる謎の男だった。


「見た所、ロッサを攻撃してはいないわ! むしろ守ってるみたい……」


「守ってる!? ……なるほど、すぐにそっちに向かった方が良さそうだ。さっき彩田君達を呼んだ、なるべくフーバ達をロッサさんに近づけないように! ……って、ロッサさんえらく幼くない!?」


 ジャックの知るロッサ。それは豊満な体を持ち、腰にまで達する程の長い髪の美女であった。だが彼の目に映ったのは、フローラと同じ歳格好の少女だったのである。


「え、でも確かにお母さんの匂いだよ!?」


「フローラちゃん、さっき説明し切れなかったけど、この世界はロッサさんの過去が作りだしたモノ、つまりここには過去のロッサさんと今のロッサさんの二人がいるんだ」


「えぇっ!?」


「ただ、過去のロッサさんがやられたら今のロッサさんにも影響が出るんだ。守らなくちゃいけないのも事実だがこうも敵が多いとね……あ、危ないッ!!」


 幼きロッサの元に、飛び掛かる兵士達。万事休す、そう思ったまさにその時であった。


「どきやがれオラァァーーーッ!!」


 凄まじい爆音と共に飛び出す影。兵士達を跳ね飛ばし、青い機体が宙を舞う。


「彩田君!」


「やった、来てくれた!!」


 フローラとジャックの表情が若干だけほころんだ。


「来てやったぜぃ! ロッサは何処だ!?」


「そこの男が庇っている……しかしあれは過去のロッサさんなんだ、治療するには現在のロッサさんを探す必要があるよ! でも過去のロッサさんにキズがついたら今のロッサさんも……」


「あ~、なるほど。了解!」


 青いバイク、アードラーに跨る二人の男。精神世界だからか、ノーヘルで走り回るその姿は暴走族のようですらあった。


「何だテメェら!? 総員構え!! ヴァリアブールもろとも生きて帰すな!!」


「そうはいかねぇな! カズ、いくぞ!!」


「おっしゃあ!!」


 片手でチェイン形態のパルトネールを持ち、アクセルを鳴らす琉。その後部座席で、カズは立ちあがると、巨大な鉄の棒を構えて跳び上がった。


「うおりゃあああッ!!」


 まず目の前の兵士を突き、棒を振り回して暴れるカズ。現実世界以上に、その動きは活発なモノとなっていた。電撃銃を叩き落とし、更には棒で押さえつけてソルジアーマーごと骨を砕きとまさにやりたい放題。更に離れた場所にいる兵士にはバジュラムを投げ付けて電撃を浴びせていた。

 一方の琉もアードラーを操り、ロッサと男の周りにいる兵士にパルトネールの刃の付いた分銅を浴びせていた。パルトネール・チェインの分銅を勢いよく放つと、大木すらも易々と貫くほどの威力がある。


「パルトショック! ……そういや、ここなら電池の心配はいらないな!!」


 電流の走る分銅付きの鎖を、琉はムチのように振り回した。次々に消滅してゆく兵士達。やがてロッサへの攻撃がやむと、ロッサを連れていた男が琉の元に近付いて来た。


「どなたかは存じ上げませんが、助けて下さりありがとうございます!」


「いえいえ、そんな……!?」


 男の顔を見た琉。その表情は驚愕に満ちたモノとなった。


「リ……リベール……!?」


「はい? 確かに私はリベールですが……それより、早くここを出ないと!!」


 リベール・ドラゴニア。ロッサの持つペンダントにあった写真に写っていた、その男が今琉の目の前にいたのである。


「これは一体、何があったんですか!?」


「奇襲だよ。ヴァリアブールのコロニーを狙った、ゲリラ部隊のね」


「ヴァリアブールの、コロニー!?」


「ああ、この辺には元々ヴァリアブール達が密集して暮らしていたんだ。だから狙われたんだろうな……いかん、すぐにここを脱出しないと! この先に隠し船がある!!」


「ちょい何で狙われ……アギジャベ! おいおめぇ、さっきやられたばっかだろ!?」 


 モノを聞いてる場合ではない。フーバ兵士の性質、それはロッサの治療に成功しない限り沸き続けるという厄介極まりない性質であった。それだけではなく、かすっただけのはずのキズが、ザックリと二人の体をえぐっていたのである。


「くそう、あの剣の形状か。かすっただけでもこんなに痛いモノだったとはな……」


 ノコギリ状のその刃はキズを深める効果があり、たとえかすっただけでも強い痛みが襲う。更にカズの体には、もっと厄介なことが起きていた。


「くそッ、手首が……!」


 重い鉄の棒を振り回し続けた結果、その腕には徐々に痛みが響いていた。このことを完全に失念していたカズは、遂に武器を持つことすらできなくなっていた。そして……


「な、なんなんだコレは!?」


 カズは自らの手にいつの間にか入っていた“ヒビ”に気が付いた。そのヒビは痛みと共に体中に広がって行く。そして彼の手はガラスの如く砕け始めたのであった!


「ぎゃあああああああ!? 手ッ、手がああ!! 手があああああああ!?」


「んなぁ!? アリかよこんなの!?」


 精神世界ならではの恐怖。現実で痛みを伴う行為をすれば、その痛みにそって体にヒビが入ってしまうのである。そして痛みがエスカレートしたならば、体そのものが砕けて消えてしまうのだ。更に悪いことに、その砕ける痛みは更なるダメージとして蓄積されてゆくのである。


「ひっ、ひいいいい!! 来るな、来るな! 来るなァ!!」


「カズニーニー!!」


「しまった、このままでは……止むを得ん!」


 ジャックは兵士を散らしてカズの元に向かい、すぐさま指で三角を描いた。指の軌跡に沿って光が走り、ジャックはすぐさまカズをその中に押し込んだ。するとカズの体はその場から消え去ったのである。


「何をやったの!? カズニーニーは無事なの!?」


「現実世界に戻ってもらった。あと少し対処が遅れたら、彼は完全に砕け散って……脳死まっしぐらだった所だよ」


「精神世界……恐ろしい所だ。早くしねぇと!」


「さっき船がどうこうって言ってたね。恐らく現実のロッサさんはその近くにいる……彩田君、フローラちゃん、二人が船に着くまで守るんだ、良いね!?」


約一カ月ぶりの投稿で御座いますよぉぉ!!

実は当初、カズはここで戦死させるプロットもありましたw

まぁ、後々大変になったので没にしましたがww

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