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Mystic Lady ~完結編~  作者: DIVER_RYU
第十一章『ロッサの記憶が戻る時』
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『ロッサの記憶が戻る時』 序

~前回までのあらすじ~

ハロゲニアで行動していた琉とロッサ。祖国に帰ろうとしてもメンシェの妨害に遭い、無人島に流されてしまった挙句にカレッタ号が故障してしまった。駆け付けたゲオ、カズ、フローラ、ジャックの活躍で脱出するも、今度は病院を襲撃されてしまう。激しい戦いの末ドラッケンを打ち破った琉達であったがネオ、アヤメの父、そしてジンの三人が散って逝った。そしてネオから返された眼を取り込んだロッサに異変が起こったのである。

「ロッサ! ロッサァ!! しっかりするんだ、おい!!」


 激闘の末、ドラッケン達を退けることに成功した琉達。だがロッサは依然うなされたままで、琉の言葉など耳に入っている様子がなかった。


「琉、ここにいては色々とまずい。何処かに身を隠すぞ!」


 カズに言われ、一行は港のコンテナの近くに身を潜めた。そんなロッサを抱える琉の腕に黒い液体が迸る。ロッサの閉じられた目から、黒い涙が流れ落ちていたのである。


「お母さん!? 琉、一体何が起きてるの!?」


「どうやら精神的なダメージが遂に肉体にまで響き始めたらしいな。このままでは死んじまう、どうすれば……」


「……彩田君、僕に考えがある」


 ジャックが切り出した。そしてロッサの額に手を当て、目を閉じる。徐々に険しい表情に変わってゆくジャックの顔。そして突き離されるように、彼の手はロッサから離れたのである。


「え……何をやろうとしたの?」


「精神潜入……ロッサの精神に潜り込んで治そうと思ったんだが……何なんだアレは、雷と炎が乱れ飛びながらこちらを拒否して来たよ」


 精神潜入。神経系の発達したアルヴァン族の特殊能力で、意識のない者の精神に自らの意識を潜り込ませることで感覚を共有、かつその心に直接話しかけるという技術である。悪夢にうなされたり精神を病んだ者に行う治療法だが、これを行うには術者自身に強固な精神力が求められるため、術を行えるアルヴァンは必然的に限られて来る。ましてやジャックは行ったことすらなかったのだ。


「もう一回やってみる!」


「待てジャック! ムリをするな、あまりやると神経が焼き切れるぞ! ……そうだ、精神潜入って心眼と同じように“便乗”することは出来るかい?」


「便乗!? しかし、そんなことしたら彩田君自身の神経が……」


「何も一人ってワケじゃないぜ。オレも参戦する、惚れた女を放っておいたら漢がすたるってモンだ!!」


「あたしだって! お母さんを助けたいもん!!」


「……確かに、複数人でやれば負担を軽減出来るかもしれないね。特にフローラちゃんなら同族だから融合もしやすいかもしれない。問題は男二人か……よし、イチかバチかだ、やるよ!」 


「その返事を待ってたぜ!!」


 フローラがまず、ロッサの額に手を伸ばした。鉤爪に変えた指をそっと刺し、もう片方の手を胸に当てて目を閉じる。呼吸を整え、気持ちを落ち着けると、彼女の体は赤い液体となってロッサの体内へと入りこんだ。


「よし、まずは僕が後を追う。合図をしたら僕の額に手を当ててくれ、良い?」


「了解だぜ!」



「よっ、と! ……これがお母さんの心の中……ってきゃあッ!?」


 最初に降り立ったフローラ目がけ、弾けた火の玉が降りかかる。思わず腰を抜かしたフローラであったが、その肩をそっと支える者があった。


「フローラちゃん、大丈夫かい?」


「ジャック! ってことは、カズと琉もすぐに来るってことだね!」


「とにかく、あの雷と炎をしのげる場所を探さないとね。あの二人もすぐに来ると思うんだが……」


 ジャックとフローラはすぐさま物陰に身を隠した。フローラを庇いつつ、ジャックは爆風吹き荒れる外の様子を眺めている。先程炎の降りかかった自らの手を見て、ジャックは少し焦っていた。


(まずいな、あの二人が来たらすぐにここに引っ張り込まないと。ましてやヒト族の二人は耐性が低い。慎重にいかないと……)


 そう考えてた矢先であった。


「ひゃあっ! ……ジャック、琉ニーニーが落ちて来た!!」


「彩田君が!?」


 ドサッ、という音と共に着地……というよりか不時着した琉。現実ではふんどし姿だったのが、精神世界では何故かいつものスーツ姿となっていた。見事なまでに尻から落下し、泥を払いつつ琉は立ちあがる。


「おうジャック、フローラ! カズならもうすぐ落ちて来るはずだぜ!!」


 琉がそう言い終わらぬうちに、カズはその背後に現れた。それも琉と違って頭からである。犬○家を思わせるポーズで、カズは地面から生えていた。


「んー! んんーー!!」


「ハイハイ全く、世話の焼けるヤツだぜ……よっと!!」


 琉に引き抜かれて立て直したカズ。ジャックは二人に近付くと言った。


「気を付けてね。精神世界の土を踏んだその瞬間から、君達はロッサさんの精神に入りこんだことになるんだ。さっきのでは何ともなかっただろうが、以降はここで“痛み”を感じるたびに君達の体に傷が付く。その傷は精神に付いたモノだから肉体には何も影響はないからね、精神世界を出れば回復するよ」


「なるほど分かった。多少無茶しても良いってことだな」


 身を乗り出して言ったカズ。だがジャックは首を横に振る。


「違う、むしろその逆だ。こういうのに慣れたアルヴァン族はまだしも、他の種族はむしろ傷を負いやすくなる。更にあまりに大ケガを負ってここで死んでしまうと、現実に置いて来た肉体にも影響が出る……具体的には、ショックで脳死してしまうんだ。だから慎重に行くよ」


「……分かった」


 琉とカズは何処か震えてるようにも見えた。二人とも、実はシャイで臆病な一面を持っている。ハルムや4種族が相手ならまだしも、未知の恐怖というモノにはとことん弱かった。


「とにかもかくにも全員揃ったね、精神潜入の手順を説明しようか。まずこの精神世界の何処かにロッサさんがいる。彼女を探しだし、見つけたら呼んでほしい。ただしここでは彼女の記憶の中で苦痛を与えた存在が暴れている。ある程度の戦闘は回避できないだろう。幸い精神世界だからね、使ってる武器をイメージするだけで呼び出すことが出来る……こんな感じにね」


 そう言って、ジャックは目の前で弓を取り出して見せた。


「トライデントやバジュラムを使用する際も電池の残りを気にしなくて良い。他に得意な武器があるならそれを使っても良いだろうね。分かったかな?」


「了解!!」


 一行は二手に分かれた。最も精神的に幼いフローラはジャックと組み、琉とカズはまた別方向を探した。降りかかる火の粉や雷をその場にある枯れ木や地形を使ってかわしつつ進んで行く。そして、ある程度踏み入った先のことであった。


「カズ、ちょっと待て。誰かいる……」


「誰だろう……話が通じれば良いが」


 物陰に身を潜める二人。パルトネールを取り出して後ろに隠し、琉は様子を伺った。ハルムではない。機械を思わせる足音がする。それも複数はいるようだ。そしてその足音は急に止まると、声を張り上げたのであった。


「そこの物陰に何かいる! ヴァリアブールか敵国の連中か、どちらにしても油断はするな!!」


「おい琉、今アイツら何て言った!?」


「……カズ。どうやらここはロッサの記憶の中でも、三千年前の大戦争のことらしいな。恐らくロッサか、眼を取り込んだ際に一緒に吸収した他のヴァリアブールの記憶だろう。ってことはさっき聞いた苦痛を与えた存在ってのはつまり……」


 琉が言いかけた、その時だった。


「おい、ここに変な格好のヤツらがいるぞ! 敵国の連中かもしれねぇ、やっちまえ!!」


「バレたッ!! カズ、武器を抜けッ!!」


 琉とカズが対面した相手。その格好は口元に咥えたマウスピースやそこから伸びた蛇腹状のホース、体中を覆う飾りっ気のない装甲が特徴であった。 


「何なんだアレは、ラングアーマーの御先祖様かい!?」


 そう叫ぶカズに琉は言った。その姿に、琉は見覚えがあったのである。


「カズ、全く以てその通りだぜ。ラングアーマーの元になった大戦争の遺産……ソルジアーマーだ!! まずい、ヒンギレ(逃げろ)!!」


 ソルジアーマー。琉の言う通り、ラングアーマーはこの装備を元に作られたモノである。ラングアーマーがバイザーのようなモノで目元を覆うのに対し、ソルジアーマーは遮光板のようなモノが覆っている。更に全体に飾りや装備が少なく、かつ装甲も薄い様子であった。


「待て! おい、あの変な連中を逃がすなッ!!」


 疾走する琉とカズ。その後ろから、ソルジアーマーを着た兵士達が追いかける。


「どうすりゃ良いんだよ! このままじゃ追いつかれるのも時間の問題だぜ!?」


「まずは距離を離せ! そしてバジュラムを引き延ばして、二つに分けずにヤツらの頭上に投げ付けろ!!」


「こ、こうか!?」


 夢中になってバジュラムを投げつけたカズ。兵士達の頭上で、バジュラムは強烈な電撃を彼らに浴びせたのであった。 


「うわぁぁーーーッ!?」


「ぐあぁーーーッ!? 何だ、コイ……ツ……ら……」


 一通り電撃を放ったバジュラムが帰って来る。電撃を浴びせられた兵士達は倒れ込み、まるで塵のように消えていった。一方でカズはポカンとした様子である。


「大手柄だぜカズ。バジュラムにはそういう使い方もあるってことだ。距離を離さないと大変なことになるがな。あとヴァリアブールの近くでは使わない方が良いだろうね。さ、次行くぞ次!」


 琉が次に行こうとした、その時であった。


「え、携帯!? 精神世界でも通じるのかよ……ってジャック!?」


 琉は懐から携帯電話を取り出した。慣れてない者にとって、精神世界は意外性の連続である。


「彩田君、ロッサさんを見つけたぞ! ただ敵が多い……すぐにこちらまで来てくれないか、今から空に向かって矢を放つ!!」


「何ィ、ロッサがいた!? ……矢を確認した、すぐにそっち向かう!!」


 琉とカズは空に上がる一筋の光を確認した。アルヴァン族のよく使う、光の矢を使った狼煙である。


「まさに戦闘開始ってヤツか! カズ、後ろに乗れ!!」


「ってアードラー!? ……そうか、イメージすれば出せるんだったな」


 爆風の中を、アードラーが疾走する。一際大きく上がった爆発を背に、琉はアードラーの前方を持ち上げ飛び出した。何としてでもロッサを助け出す、その願いを一つ胸に抱き、男は心の荒野を駆け抜ける。


(ロッサ、待っていろ! 俺が必ず助け出してやる)


(ロッサ様、待っていて下さい。このワタシが必ずお助けいたします! ……ふっふっふ。痛みを感じたらダメージか、元々鈍感なオレなら無双出来るぜ!!)


ロッサの精神世界に突入。果たして彼らは何を見るのか。

最初っからそういえば良いなんて言わないで下さいね。

ちゃんと理由があるんです。

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