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Mystic Lady ~完結編~  作者: DIVER_RYU
第十章『許されざる者達』
30/40

『許されざる者達』 急

炎の上がる病院。ネオ、そしてアヤメの父が死にゆく中、琉達はドラッケンに戦いを挑む。果たして勝負の行方は。

「ハアッ! トゥアッ!!」


 病院の入り口付近で、カズが釵を振るう。自在に回し、鉤の部分に指をかけ、次々に近付く教徒達をいなしてゆく。


「はッ! えぇい!!」


 ムチ状に変形した指を振るい、流れるような攻撃を加えるフローラ。ハイドロ島に暮らし、日頃からカズに連れられ道場に通っていたためか、その動きは母親であるロッサよりもキレが良い。


「フンッ! フンッ!! ハァッ!!」


 ドラッケンと対峙し、ジャックはその剣を振るっていた。アルヴァン族である彼はヒト族と比べて筋肉量が少ない代わりに運動にかかわる神経系が発達しており、器用さや反応性に優れていた。


「このままじゃキリがねぇな……。よし、フローラ!」


「OK!」


 カズはフローラに合図すると、徐々にメンシェ教徒達をある方向へと誘導し始めた。釵やムチを振るいつつ、徐々に近づいてゆく二人。やがてフローラの視界からジャックの姿が消えた時、カズはすぐさま彼女の背後に回り込んだ。すると彼女の額がグワッと開き、そして……。


「食らえッ! 催眠眼光!!」


「うわぁ!? しまったァーッ!!」


 気付いた時にはすでに遅し。フローラの第三の眼から放たれた赤い閃光は、浴びた教徒達の意識を次々に奪っては眠らせていった。やがて二人の周りはメンシェ教徒達の絨毯が出来上がり、戦える敵はドラッケンただ一人となったのである。


「お母さん、大丈夫!? ……まだダメなのね」


「一体どんな記憶が……そういえばジャックは!? フローラ、手助けに行くぞ!」


 ジャックと剣を交えるドラッケン。だがその動きは急激に止まった。その首に突きたてられた釵と爪、そしてジャックの剣。


「観念しろドラッケン! アンタの部下達は御覧の通りだ、剣を捨てて降伏しな!」


 ドラッケンの手から、剣が落ちた。


「ジン、もう終わりにしよう。そして、そのまま警察へ……」


「警察? ……バカめッ!!」


 ドラッケンが叫んだ瞬間、三人は彼の前から吹き飛ばされた。驚く三人から距離を離しつつ、ドラッケンは剣を拾うと同時に懐から瓶を取り出した。蓋を指で弾いて中身を豪快に飲み干すと、ドラッケンは更に石板を取り出したのである!


「アレは!」


「ビショップの石板!?」


「察しが良いな。御望み通り、私の得た力を見せてやろう。薄汚く非力な貴様らには、もったいない見せモノかもしれぬがな……!!」


 石板を掲げるドラッケン。たちまち炎に包まれる石板と体。やがてその業火は盛り上がり、振り払うようなアクションをとると炎が消えた。


「これが……!!」


「ドラッケンが、おっきくなっちゃった!?」


 15mにも及ぶ身長。巨大な剣と化した右手、盾と化した左手。背中から吹き上がる炎の輪。角の生えた、石像で出来たドラゴンのようなその顔。怪物と化したドラッケンは、その場にいるだけで異様な存在感と威圧感を放っていた。


『見たか、私のもう一つの姿を』


「君はもう……心も体も怪物に成り果ててしまったのか!?」


『貴様らを殺すのは後にしてやる。まずは裏切り者の始末からだ……』


 ドラッケンは病院の方に向くや否や右手の剣を背中の炎にあてて火を着けた。まずい、そう思ったジャックは弓を取り出すとすぐさまアルヴァンの光の矢を放った。だが矢は左の盾で防がれ、ドラッケンはおもむろに建物目がけて斬りつける。炎とともに崩れる病院。三人の顔から血の気が引いた。


「まずい、院の中には琉が!」


「待ってカズ、今行ったらカズも……!」


「許すまじドラッケン!!」


 普段は冷静なジャックが、今回ばかりは噴火した。弓を引き、光の矢を立て続けに放つジャックであったが、矢はことごとく盾で防がれてしまう。


『弱い。あまりにも弱すぎる。所詮はアルヴァンの力か……』


 ドラッケンはそう言い放つとジャックの方を向き、その炎の剣を振り上げた。


「アキサミヨー(なんてこった)!? ヒンギレ(逃げろ)、ジャック!!」


 カズはフローラを抱え、ジャックに呼びかけながらその場から去ろうとした。しかしジャックは弓を構えたまま。ドラッケンの刃は今まさに振り下ろされようとした。


「ジャック!? いかん、見るなッ!!」


 顔を反らし、更にはフローラの目を塞ぐカズ。直後、何かが砕ける凄まじい音が辺りに響き渡った。ジャックがやられた、そう思った時である。


『私の剣が! 何故だ!!』


 カズとフローラの目に映ったモノ。それは右手の剣を砕かれ、うろたえるドラッケンの姿であった。そして炎に包まれる病院の影から現れた姿。銃を構え、かつ片手で女性を抱えた、赤いスカーフの男。ボロボロになった青いスーツを着て、彼は現れたのであった。


「琉ッ!! 無事だったのか!?」


「……カズ、アヤメも頼む。ジャック、俺はヤツを海面に引きつけて海ん中に引きずり込む。そうすれば背中の炎も止まるだろうからな。フローラ、俺がヤツを引きつける間に、ヤツの“石板”を探し出してくれ。ヤツの体の何処かにあるはずだ! ……大丈夫、俺はそう簡単には死なないぜ。アードラー!!」


 琉はパルトネールに声を入れてアードラーを呼び、更に銃弾をリロードをするかのように電池を詰めると再び構えた。


『貴様! 生きていたのか!!』


「そんな簡単にやられる俺じゃねぇよ。ジン、目ぇ覚ませ! いや、覚まさせてやるさ!!」


 背中の炎を滾らせ、怒り狂うドラッケン。琉はアードラーに跨り、まずは海の方を目指した。ドラッケンの背中に広がる炎の輪。その中央から撃ち出される火炎弾をくぐり、琉は相手を誘導したのであった。


(あの炎の輪を消せば大いに弱体化出来る。あとはヤツの石板の位置を特定出来れば……)


 時折放つバックスティングがドラッケンに突き刺さる。放たれた位置に炎を放つ相手だったが、琉の動きは止まらない。その背後で、フローラはその額の眼を使ってドラッケンの石板を探りだしていた。


「カズ、さっきの石板が、あの輪っかの真ん中に隠れてるよ!」


「なるほど、石板から出すエネルギーが直接炎の輪となってるワケか!」


「よし、彩田君の作戦が成功すれば輪が消える、そこを狙えば……!」


 琉を海岸に追い詰めたドラッケン。噴き上がる炎をバックに、琉はアードラーの上半身を持ち上げて海に向かって跳んで行く。変形し、海面に着地したアードラーを操って琉はドラッケンの方に向かった。ボロボロになったスーツを脱ぎ捨て、ふんどしとスカーフ、救命ベストのみを着込んだ姿になった琉はパルトネールを構え、叫んだ。


「そこだ! パルトブラスター!!」


 放たれた光弾がドラッケンの片足に炸裂する。砕かれ、バランスを崩したドラッケンは琉の作戦通り海中に倒れ込んだ。海面から上がる水蒸気、その中からドラッケンはもがくようにして現れた。炎の輪が消えている、そこを睨んだジャックは光の矢を放った直後にメルバオムにトリガーパーツをセット、叫びと共にその引き金を引いたのであった!


「メルブラスター!!」


 放たれた光の弾は、光の矢と合体して巨大な光の槍と変化、ドラッケンの背中にある石板を刺し貫くと大爆発を起こした。


『バ、バカなッ! 力を得たこの私が、こんなヤツらに……!?』


 崩れ落ちるドラッケンの巨体。その煙の中から、ヒトの姿に戻ったジンを抱えた琉が姿を現したのであった。


「琉ッ!」


「流石だぜジャック……これでアンタの因縁に、決着が付いたな……」


 琉がそう言った、直後のことであった。


「まだだ、まだ終わらんぞ!」


 叫びと共に、ジンは琉からパルトネールを奪い、一撃を加えるとその手を振り解いた。そして震える足のまま通常形態のパルトネールを構えて琉とジャック、そしてその場に駆け付けたばかりのカズやロッサ、フローラ達に向かって構えた。


「ジン……お前は……そんなんなってまで……」


 もはやジンには戦うだけの体力は残っていない。その力に対する執念と、琉とジャックに対する敵対心のみでその足は立ちあがっていたのだ。


「石板などなくても……ビショップの力を失ったとしても……! おれは貴様らを討つ! 改心なんてしないさ、いやする必要などない。間違ってるのは貴様達だァアッ!! でやぁあああああ……ああぁッ!?」


 せめて一太刀、そう考えたジンはパルトネールを持ったまま襲い掛かろうとして、その動きが止まった。喉から生えた小さな刃。その手から落ちるパルトネール。時間が止まった。そして……。


「あ……ああッ……」


 言葉を発することも出来ぬまま、ジンはその場に倒れ込んだ。喉から流れる鮮血が、辺りに流れてゆく。その首の後ろには、先端に刃の付いたムチが深く刺さっていた。引き抜かれるムチ、その根元に立っていたのはもう一人のビショップ。


「貴方の役目は終わりました。せめて安らかに眠りなされ……」


「待てッ! テンタクル!!」


 すぐに追いかけようとしたジャックであったが、テンタクルはムチで自らの足元を打つと煙と共に姿を消した。


「ジン? ジン!? おい、返事をしろ!!」


 頸椎を貫かれ、喉笛を裂かれたジン。いくら揺すっても叩いても、彼が目を開けることは二度となかった。最期の瞬間まで心を改めることなく、そして救われることもなく、かつてのエリートはその生涯を閉じたのである。


「ジン!! 何故だ、何故アンタまで死ななきゃならねんだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 熱い涙が頬を伝う。琉の叫びが、いつまでも響き渡ったのであった。かつて友であり、訓練時代に助けてもらった恩人を、色々な意味で救うことが出来なかったという無念。そして自身はただ倒すことしか出来なかったという自責の念が、叫びと涙という形で現れたのである。


「ああぁッ! イヤぁッ、やめて!!」


「……ハッ!? ロッサ? ……おいロッサ、大丈夫か!! さっきから何が起きてるんだよ!?」


 ロッサの声で我に帰った琉。果たして、第三の眼を取り戻したロッサの見ているモノは何なのか。ますます激しさを増すメンシェ教の攻撃の中、物語は今核心に迫って行くのであった。


今回で一人、章で合計すれば三人ものキャラが死亡致しました。そして次回、遂に物語の中核である謎が明かされます。是非とも御覧下さいませ。


~次回予告~

棺より甦り、記憶を求め、琉と共に行動をして来たロッサ。遂に彼女は全ての記憶を取り戻すこととなった。だがその記憶は彼女を苦しめることとなる。果たして彼女の過去は何があったのか、三千年前に置き去りにされた悲劇が今、語られる。


次回『ロッサの記憶が戻る時』


真実は時に、何よりも残酷に人を苦しめる。

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