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Mystic Lady ~完結編~  作者: DIVER_RYU
第十章『許されざる者達』
29/40

『許されざる者達』 破

退院間際を狙ったメンシェ教の襲撃。ビショップ・ドラッケンの指示のもと、次々に襲いかかる教徒達。剣を交える琉とドラッケンの元に割って入ったジャック。彼の口から明かされたのは、驚くべき真実であった。

 スッ、とジャックは姿勢を変えて琉に見せた。手を離し、琉とジャックを強く睨みつける顔は、まさしく琉が数日前に会ったあの顔であった。


「ジン……! 何故だ、何故ヤツらに加担したァーッ!!」


「琉……ジャック……貴様らのような薄汚い連中が資格をとり、何故オレが、生まれも育ちも高貴なこのオレが何故社会から脱落したのか、それは今の世が腐りきっているからだ! だからオレは、自分を救ったこの教えに殉ずることにしたのだ……!! 高貴な生まれの優れた者こそが支配する、そんな世界を実現するために、貴様ら二人には死んでもらう……!!」


「辰山君、まさか君がニタリ丸を使って遺跡を探り、掘り当てたモノをメンシェに流していたとはね。ラング装者とメンシェ教は相容れないと思っていた僕がバカだったよ、だからあの時僕を遺跡で殺そうとしたんだね?」


「ジャック!? まさか、ジャックが乗っていた船っていうのは……」


 復活編でお話ししたかもしれないが、改めて説明せねばなるまい。ジャックはかつて、ある船で働いていた。だがその船の船長はメンシェ教による思想汚染をされており、ある時ジャックを遺跡に置いてきぼりにしたのである。この事件がもとでジャックは発掘品を持ち出して半ば逃げるように船を抜けたのであった。だが、この話には琉にも話していなかったある事実が隠されていたのである。


「彩田君、すまない……。しかし僕は、身近な人間が変な宗教にハマったとはとても言えなかったんだ。仮にも辰山君は彩田君にとって恩人だし、君にはそういうアンダーグラウンドな所とは無縁であって欲しかったからね。だから僕は、独自に彼のことを調べていたんだ。だが生憎にも、君はロッサさんのことでメンシェ教に目を着けられることとなってしまった……」


「……言えなくて当然だよ。多分、そんなことを言われても俺は信じなかっただろうし、ヘタすればジャックに大ケガさせてたかもしれないしな。それにメンシェがそこまで大規模なテロ組織だと分かったのは例の監獄襲撃事件からだし……」


「貴様ら、いつまで話している。我が仮面の下を見られたからには死んでもらうぞ、覚悟!」


 まさに鬼神の如くといった様相で斬りかかるドラッケン=ジン。だがその刃を受け止め、ジャックは言ったのであった。


「辰山君、いやビショップ・ドラッケン! お前の相手はこの僕だッ!! 彩田君、早くロッサさんの元へ!!」


 ジャックの顔を振り返りつつ、ロッサ達の元へ駆け寄る琉。背後からトンファーで教徒を殴りつけて気絶させつつ、二人の前に躍り出た。


「おいネオ、しっかりせい!」


 琉はパルトネールで教徒を牽制しつつ、ネオに話しかける。


「ハ……ハルムを食わせ……ぐほぉ!?」


 ネオの体のあちこちから黒い液体が流れている。すでに何回も電気を帯びた剣で攻撃されており、彼の体はすっかりと弱り切っていた。おまけに口からも死んだ細胞が吐血の如く流れて出す。ネオの体はすでに限界を迎えようとしていたのだ。


「ネオ……!」


 ロッサはその手を赤黒く染め、ネオに刺し込むと自らの細胞を送り込んだ。だが彼の体は一向に戻る気配がない。


「ロッサ……かあさん……」


「かあさん……わたしが、かあさん……」


「ロッサ、ネオはもう……」


 突然変異により生まれたネオ。ロッサを上回る力を持ち、貪欲にハルムをむさぼる姿はまさに“魔物”であった。だがその体はヴァリアブールとして生きるために必要なモノを欠いており、こうなってしまうのは既に時間の問題だったのである。


「何をしている、三人まとめて吹き飛ばせ!」


 ドラッケンの命令を受けて、教徒達は銃を取り出し琉と、ロッサと、ネオに向けた。慌ててトリガーパーツを取り付ける琉であったが時は既に遅し、容赦なく引かれた引き金から放たれた数発の聖弾が降り注いだ……と思われた。


「ネオォーッ!?」


 吹き上がる黒い液体。ドロドロと、力なく崩れ落ちる体。琉とロッサの前に庇うように飛び出したネオは放たれた弾全てを全身に受け、あまりにも壮絶な姿へと変わり果てたのである。


「……許さんッ!!」


 怒りに燃えた琉は持っていたトンファーとパルトネールをメンシェ教徒に投げ付け、まるで急発進した車のように飛び掛かった。突進し、力任せに拳を振り抜き、叩きつける。その背後で、ネオはまさに最期の時を迎えようとしていた。


「か……あ……さん……」


「ネオ……もう、喋っちゃダメ……」


「これ……を……」


 ネオの手から、ロッサに渡された赤い宝玉。それは、かつて彼が奪ったロッサの第三の眼であった。受け取るも、ネオの腕は力なく崩れ落ちる。やがて彼の体は全身が黒い液体と化し、ロッサの抱えていた腕から溶け落ちた。そして煙を発し、徐々に消え去ってゆく。ヴァリアブールの死、それはあまりにもはかない消滅。彼のいた跡には、数個の聖弾が転がっていた。


「ネオ……」


 放心状態のロッサ。その手には、ネオから返された自身の眼。


「ロッサ、それを早く取り込め!!」


 目の前の敵を抑え込みながら、琉はロッサに向かって叫んだ。そんな中でも、メンシェ教徒達は次々に院内に入って行く。


「アギジャベ(ちくしょう)、狙いはアヤメ達か! ……うがぁッ!?」


 怒りに任せて戦う琉。そのスキを突かれ、ハルバードの柄が鳩尾を真っ直ぐに突いて来た。腹を抑え、倒れ込んだ彼の頭に容赦なく、その刃は振り下ろされようとした、その時であった。


「あんぎゃああああぁぁ!?」


 悲鳴と共にハルバードを持った相手が倒れ込んだ。その背後には……


「琉、今のは情けなかったぜ。少なくともオレの知ってるアンタじゃなかったな」


「カズ!? まさか、来てくれるなんてな……」


 釵形態に変えたバジュラムを構え、カズはメンシェ教徒達に向かって威嚇した。眼鏡越しの鋭い視線が、突然の増援にうろたえる敵に対して向けられる。


「カズだけじゃないよ!」


 元気なその声と同時に、メンシェ教徒達を弾きながら真っ赤な影が飛んで来る。琉とロッサの目の前で、影は人の形を成した。赤い瞳が特徴の、活発そうな美少女の姿に。


「フローラ!」


「お母さん、大丈夫!? ……第三の眼、てことはまさか……」


 これまでのことを聞かされていたフローラ。だが彼女が辿り着いた時にはもう、弟の姿かたちはこの世から消えていたのである。


「……そっか。一度で良いから、ネオの顔を見たかったな」


「フローラ、“仇討ち”と行こうぜ。琉、お前は早く病院へ走れ! あの時一緒に助けられた娘がいただろ、何があったのか分からんが、メンシェに狙われてら!」


「……分かった、行って来る。ロッサ、“眼”は取り込めたかい?」


「コレは……遺跡にいたヴァリア達の……!? ……何なのコレ……ヴァリアブールが、ヒトを……!?」


「え、ロッサ? おいしっかり!?」


 一難去ってまた一難。取り戻した眼を取り込んだロッサは頭を抱え、そのまま倒れ込んでしまった。悪夢にうなされるが如く歪む顔は、その苦しみを如実に表している。


「予想はついていたが、やはりな……ツラいことだらけだったか。よし、俺だけで行って来る! カズ、フローラ、ロッサを頼むぜ!!」


「おいよせッ!? ……仕方ねぇなチクショウ!!」


 メンシェ教徒を強引に押しのけて、病院へと駆け込む琉。トンファーとパルトネールを拾い上げ、まるで銃から放たれた弾丸の如く突っ込んで行く。


「探せ探せ! ……おいそこのアルヴァンジジイ、この親子を見なかったか?」


「し……知らん……」


「嘘をつけぇ……もう一度聞く、この親子を見なかったか?」


 刃を向け、怯える異種族の患者に尋問する教徒。その肩を、何者かがポンと叩いて尋ねた。


「おう、丁度良かった。俺にも聞かせてくれよ」


「誰だきさ……うおッ!?」


 素早く鳩尾にパルトネールの先端を叩きつけ、琉は教徒を気絶させた。


「さ、彩田琉之助!?」


「相変わらず“一部の”ヒト族以外には態度が悪ぃんだな。見ていてホントに胸糞が悪くなるぜ!」


 片手に通常形態のパルトネール、もう片手にはトンファーを持って挑む琉。二つの異なる武器が放つ、流れるような連撃が周囲の敵をなぎ倒してゆく。


「早くここから出るんだ、ヤツらが戻って来るまでに!!」


「あああ、ありがとうございます!!」


 琉は患者達を外に逃がしつつ先に進んだ。ひたすらに敵を打ち据え、患者を逃がし進んでも、アヤメ達親子の姿が見当たらない。そんな中でも、メンシェ教徒達の怒号が院内に響き渡る。


「何処だ! 何処に逃げやがった!!」


「探せぇ、ヒト族にとって都合の悪いモノはなんとしても消すのだ!!」


「チッ、狂ってやがる……早く探し出さないと! 確か隣の病室だったはずだが、さっさと場所を移したはずだしな。手掛かりすらなしか……」


「いたぞおおおぉぉぉーーッ!!」


「何ィ!? しまった、遅かったか!! ……病院の裏口だな」


 パルトネール・シューターを組み立てつつ、琉は声のした方である院の裏口へと急いだ。


(あの親子は、俺と関わったばかりに人生をより大きく狂わせてしまった。ただの敵と見てしまってはそれまでだが、このままじゃ俺自身がスッキリしねぇ。アヤメ……なんとか耐えてくれ! 代償と言っては何だが、俺が必ず助け出す!!)


 やがて見えて来るメンシェ教徒の人だかり。その中で、手槍であるキラーイリス片手に奮闘しているアヤメの姿が見えた。琉はすぐさまパルトネールを構え、引き金を引く。


「うがぁッ!?」


「ぎゃあッ!?」


 背後からの奇襲にうろたえるメンシェ教徒達。アヤメはその様子を見て驚愕した。


「アヤメッ! 今助け出す!!」


「彩田琉之助……何故あたしを……!?」


「貴様正気か!?」


「あいにく、俺には“昨日の敵は今日も敵”という考えがなくってね! さぁ、そこをどいてもらおうか、パルトスパイダー!!」


 銃口から放たれた赤い蜘蛛の巣が、メンシェ教徒達を捕えてはその動きを封じてゆく。しかし回復の遅れた父を庇いつつ戦うアヤメの状況は一向に良くならない。やがて銃を取り出す教徒達。まずい、という表情が琉とアヤメの顔に現れる。容赦なくその引き金に指はかけられ、病院の白い壁に鮮血が飛び散り……


「お父さん!!」


 その時、琉の脳内にはフラッシュバックが起きていた。ネオがその命を散らした瞬間と、まったく同じ構図だったためである。銃弾を受けたアヤメの父は鮮血の中、壁に倒れかかるようにして倒れ込んで行った。


「くそッ、一人撃ち逃したか! 貴重な聖弾が……」


「おい、今何つった!? 人を一人殺しておいて、お前らはそうとしか思わねぇのか!? 許さんッ!!」


 悲しみにくれるアヤメに襲い掛かろうとするメンシェ教徒。そこに容赦なく、琉の怒りのパラライザーが撃ち込まれる。電池の残りなど考えぬ攻撃が、スキを鋭く突いた一撃が次々にメンシェ教徒を退けてゆく。更にその勢いに慄いた相手めがけ、今度はアヤメの手槍が刺し込まれる。やがてメンシェ教徒が誰一人として刃向かえなくなった頃、アヤメは父を抱いて泣き崩れていたのであった。


「お父さん……しっかりしてお父さん……」


「アヤメ……すまん……おれがもう少し……もう少ししっかりしていれば……こんなことには……」


「もう、喋らないで……そんな、いやだよ……一人ぼっちだなんて……」


 唯一の肉親だった父を、今まさに失おうとしているアヤメ。その様子を見た琉の脳裏には先程壮絶な最期を遂げたネオと、自身の父親を失った日のことが浮かんでいた。


「アヤメ……俺は……」


 琉が何か言いかけた、その時だった。


「んな、病院が崩れてる!? まさかアイツ、使ったな……!!」


 病院の壁が、天井が、ガラガラと音を立てて崩れ始める。それだけではなく、建物の外から炎に包まれ始めたのだ。


「アヤメ……おれのことは良いから……早く逃げろ……アヤメ!!」


「嫌だッ! お父さんを置いて逃げるなんてこと、あたしには出来ない!!」


「おれは……もうすぐ死ぬ……だから、せめてお前だけでも生きろ。彩田琉之助だったな……この子を頼む。生きていればどうにかなる……行くんだアヤメ、早く行けぇッ!!」


 父親に無理矢理背中を押され、半ば突き飛ばされるような形でアヤメは病院の外に出た。すぐに戻ろうとしたアヤメだったが、その肩を琉の手が引き止めた。直後、炎に包まれ崩落する病院の天井。遮られる親子の間。まさに今生の別れ。アヤメの嘆きの悲鳴が、辺りに響き渡ったのであった。


ここのところ更新が滞り気味ですみません。

しかし最終局面だけに、慎重に書いていこうと思ってる所存で御座います。

そして今回……レギュラー陣に初の死亡者が。ファンだった方、申し訳御座いません。実は最初からこうなる予定だったので御座います(←

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