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Mystic Lady ~完結編~  作者: DIVER_RYU
第十章『許されざる者達』
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『許されざる者達』 序

~前回までのあらすじ~

メンシェ教徒のアヤメとの戦闘で大ケガを負い、しばらく療養していた琉は故郷であるオルガネシアに向かう途中、ビショップ・テンタクルの攻撃により見知らぬ島に流されてしまう。組織に見限られたアヤメ達父娘と共に流れ着いた琉とロッサであったが、最終的には和解して交互に助けを求めるように。すると、その事件を聞いて駆け付けた琉の知り合いであるカズ、ゲオ、ジャック、そしてフローラまでもが助けに現れ、無事に島を脱出することとなったのであった。

 嵐の前の静けさ。そんな言葉がまさに当てはまる朝であった。


「コーヒーがいつもに増して旨いぜ。さて、今日はもう退院の予定だが、カレッタが直るのは再来週だという話なんだ。それまで別な食いぶちと、寝泊まりする場所を探さないとな」


 いつもの青いスーツを着込んで部屋を出た琉は院内の貸出PCを使い、バイト募集のサイトを漁っていた。ふと見ると外はしとしとと雨が降っている。


「わたしにも出来る仕事、ある?」


「ロッサは戸籍ないからねぇ……難しいな。それにメンシェ教のヤツら、俺とロッサが生きていたと分かれば放置するはずがないだろう。一難去ってまた一難、ここんとこそういうパターンばっかりだぜ。で、俺とロッサはちゃっかり生きている、運が良いのやら悪いのやらよう分からんな」


 ため息をつく二人。結果的にメンシェの企んだ抹殺から逃れたは良いモノの、そのダメージは大きかったのである。今彼らのもとにあるのは5日分の食料と替えの服、サポートメカであるアードラーのみ。


「とりあえず近くのホテルにチェックインするかな。今この国は冬から春にかけてに雨季を迎えるんでね、雨風をしのげる場所が欲しいぜ。……収入ないから、カズやジャック達から借りないといかん……ってあれ?」


 スクロールしていたPCの画面が、急に真っ暗に落ちた。それだけでない、院内の照明が次々にダウンしていくのである。


「何、停電!? 病院で停電とかシャレにならないじゃない、一体何が起こったっていうの!?」


 ロッサがそう言った、次の瞬間であった。


「メ、メンシェ教だァーーーーッ!!」


「ひえぇッ、何でここに!?」


 病院のエントランスから、人々の叫びが響いて来たのである。思わず立ち上がる琉とロッサ。二人には、メンシェが病院に来る理由が分かっていた。


「狙いは俺達か!!」


 パルトネールと鉤爪をそれぞれ構え、二人はメンシェ教徒のいる方向へと走って行く。


「彩田琉之助とヴァリアブール、そして裏切り者二人がこの院内にいるはずだ。探せ、どんな手段を用いても構わんから探せ! ……おっと、まさか自分から出て来るとはな」


 豪奢なローブを着込んだ男が、他のフード付きローブを羽織った集団に命令を下す。だが院内に踏み入ろうとしたメンシェ教徒をパラライザーで捉え、琉とロッサが男の前に躍り出た。


「アンタ、その格好はビショップだな?」


「いかにも、我が名はビショップ・ドラッケン。彩田琉之助、これまで我々に対抗して来た剣の腕、この私に見せてみるが良い!」


「良いぜ、とりあえず表に出ろドラッケン! パルトネール・サーベル!!」


 琉はパルトネールをサーベル形態に変えた。同時にドラッケンも、背中に背負った長剣を引き抜いて構える。互いを睨みつつ、二人は病院の扉から外に出た。


「ドラッケン様!」


「私には構うな、お前達は裏切り者を探して始末せよ!」


「おいドラッケン、裏切り者ってぇのはアヤメ達のことか?」


 琉はパルトネールを構えたままドラッケンに訊ねた。


「いかにも、あの女はヒト族でありながらヴァリアブールを、それも危険な突然変異個体を排除せずその命を助けようとしたからな」


「突然変異……ネオのことね?」


 ロッサがドラッケンに聞く。するとドラッケンは高笑いと共にロッサに向かって言ったのであった。


「そうだネオだ。貴様の体から生まれておきながら、貴様を攻撃して弱らせたあの凶暴な変異個体のことよ! そして聞いたであろう、ヤツの言葉を。ヴァリアブールこそが最も優れた種族だと! 凶暴でかつ自分ら以外全ての種族の頂点に君臨して食らい尽さんとする、それがヴァリアブールの本質なのだ!! ヒト族が君臨するための障害となるヴァリアブールはまさに悪魔、消えるべき存在なのだよ!!」


「さっきから聞いていればペラペラと……そんな考えよく口に出せるな。つまり何だ、ヒト族が繁栄するために邪魔だから消えて下さいってこったろ? 自分らと同じ考え方をする連中は商売敵だから潰したい、アホなヤツの考え……ロッサ、上ッ!!」


 ロッサの真上から赤い影が迫る。琉に言われ、寸手のところで液化することでかわしたロッサであったが、そこにいたのはさっき噂に上がっていたネオ御本人であった。


「ロッサ、貴様をやるのは後にしてやる。ドラッケン、ハルムのエサでしかない四種族の一つが、この世に君臨するなどバカバカしい。メンシェ教はこのネオにとって危険な存在と判断した。……殺す」


 抑揚のない、半ば片言な口調でネオはドラッケン達に宣告した。そして手からあの剣状の爪を展開し、周囲の教徒を牽制する。


「構わん、ヴァリアブールを二人とも始末しろォ!」


「ハッ!!」


 メンシェ教徒達がネオとロッサを取り囲む。それも今までのようなナイフではなく、長剣やハルバードと言った本格的な武器を持って。


「ロッサァ!」


 駆けだそうとした琉の前に、ドラッケンが立ちはだかり言った。


「待て。貴様の相手はこの私だ、行くぞ!!」


「アギジャベ(チッ)!!」


 剣を構える二人。雨脚の強まる中、琉とドラッケンはじりじりと間合いを詰めつつ互いの剣先が両者の喉に狙いを澄ます。緊迫した空気が辺りには漂っていた。だがドラッケンの動きを見た琉の心は激しい動揺に襲われていたのである。というのも、二人の動きはまるで鏡に移したかのようにそっくりだったのだ。


「その動きはオキソ流……アンタ一体何者なんだ、まさか装者か!?」


「貴様がそれを知る必要はない。タァッ!!」


 一瞬の隙。それを狙ってドラッケンの鋭い一太刀が琉を襲う。すぐさま弾き返した

琉だったが、相手はふら付くどころか今度は彼の胴を裂かんと間髪を入れず斬りかかる。慌てて受け止め、無理やり鍔迫り合いに持って行く琉。力では勝るらしくそのまま押し切ろうとした琉であったがドラッケンはわざとそれを受け流し、下を向いたパルトネールを叩き落とし、刃の先端を琉の喉元に突き付けたのであった。


「ふん、そんなモノか。大したことはないな」


(くそッ、こいつはかなりの強敵だぜ。しかもこの状況では逃げられないか……)


 琉は素手で構えつつドラッケンと間合いを取ろうとした。だがドラッケンの刃は依然として突き付けられたままであり、腰が抜けたのか低い姿勢のまま琉は敵の刃を見上げた状態となってしまったのだ。


「さらばだ、彩田琉之助!」


 正面から斬らんと刃を振り下ろすドラッケン。哀れ琉、そのまま斬り伏せられるかと思われた、その時であった。


「そうはいくか!」


 琉は左腕を刃に向けて防ぐように突きだすと、スーツの袖から勢い良くトンファーが飛び出て来てドラッケンの剣を受け止めた。更にそのまま足払いをかけようとするもドラッケンは後ろ向きに飛び退いて再び刃を構えたのである。一方の琉はパルトネールを回収し、左手にはトンファーを、右手にはパルトネール・サーベルを構えた状態でドラッケンと対峙した。


「感覚が戻って来たぜ……剣を持ったヒト族とやりあうのは久しぶりでな!」


「ふん、洗練された高貴なる剣技に、泥臭い田舎武術を混ぜ込んだか。いかにも貴様らしいやりかたよ……」


「言ってくれたなドラッケン。ならばその田舎武術の強さ、その身で確かめてみるが良いさ!」


 

 次々斬りかかるメンシェ教徒。長剣もハルバードも、その刃は帯電しておりヴァリアブールには非常に有効な武器となっていた。ネオはまだしも、第三の眼を抜かれたロッサは思うように力が発揮出来ない。本来ヴァリアブールのムチは小型ボートを一撃で真っ二つにする程の威力を誇るのだが、今の彼女はムチを振るうだけでも精一杯だった。


「ネオ、彼らを殺しちゃダメよ! このままでは本物の悪魔に……」


「うるさい、ヤツらは我らを殺そうとしている、やられる前にやる必要があるのだ」


 だがネオの方も本調子ではなかった。刃の間をすり抜けて爪を振るうネオであったが、その爪はことごとく教徒に届かないのである。


(徐々に力が弱まって来ている、早く何かハルムを食わねば……)


 突き付けた爪の先端は黒く溶け落ち、ネオの動きは徐々に、傍から見ても明らかに分かる程に鈍っていった。そんな彼に容赦なく刃を降ろすメンシェ教徒達。切り刻まれた全身から、どくどくと黒い液体が流れてゆく。何とか中心を突かれることだけは避けていたものの、彼の体は確実にダメージを負っていた。そんなボロボロになったネオに、メンシェ教徒の銃口が向けられる。しかしその背後から、ロッサの一撃が加えられた。しかしその威力は御世辞にも“襲った”というレベルではなく、せいぜいひるませた程度のモノである。ロッサは弱った体を無理矢理起こし、ネオの前に立って両手を広げ叫んだ。


「ねぇ、どうしてそんなことが出来るの!? ネオは弱ってるのよ、弱った相手に対してどうしてそんなひどいことが出来るの!? ……いつもそうやって、嫌いな人達を泣かせてきたの?」


 ロッサの目から、涙に交じって死んだ細胞が流れ落ちる。我々人間でいう、血の涙に近いモノであろう。


「どけぇロッサ……ヤツらは……このネオが始末する……我らヴァリアブールのために!」


「貴方達に、わたしのネオは殺させない。同時に、ネオにも誰も殺させたくない」


「ロッサ、やめろ! 相手は薬物をやってる連中だ、思考がマヒしてる、早くネオを連れて逃げろ!! ええいくそ、そこをどけドラッケン!!」


 ドラッケンの刃を押しつつ、琉はロッサに向かって叫んだ。


「安心したまえ、ヴァリアブールは間もなく絶滅の時を迎える。貴様はあの女の最期を見届けた上で地獄に行くが良い」


 隙の出来た琉の腹部を蹴り飛ばし、間合いを取ったドラッケンは剣を改めて構え直すと琉に斬りかからんと襲い掛かった、その時であった。


「メルバオム・フルーレ!!」


 雨の中を叫びと共に飛び出した影がドラッケンの刃を弾き返した。更に琉よりも素早く正確な剣技を披露し、その仮面に手を伸ばして払いのけたのである。その姿を見た琉と、顔を抑えたドラッケンは思わず声を上げた。


「ジャック、何故ここに!? ……何?」


 思わずハモった琉とドラッケン。驚く二人の間で、自前のトライデントであるメルバオムを構えたジャックは言い放った。


「やはりそうだったか。ここに出向いて正解だったよ、ビショップ・ドラッケン……いや、その正体辰山仁!!」


「なッ……何だって!? おいジャック今何て言った、ドラッケンの正体はジンって、一体どういうことなんだ!? さっぱりワケが分からんぞ!!」


「彩田君、認めたくない気持ちは分かるけどこれは事実なんだ。確かめてみると良い……」


久々の投稿で御座います。ここまで来ましたので、あとはガンガン投稿して最終章まで突っ走るつもりで御座います。皆々様、どうかごひいきに。

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