『大捜索! 絶海孤島二十四時』 急
琉とロッサを探さんと、故郷を飛び出た四人のパーティ。クルーザーを借りて海を出た一行に、メンシェの毒牙が襲いかかる!
鋭角を描くクルーザーの軌道、その背後から振りかかる聖弾の嵐。四人のうち三人がヒト族以外で構成された今のパーティにとって、この攻撃は脅威以外の何物でもなかった。否、ヒト族であるカズにとっても銃弾そのもののダメージは深刻である。
「撃たれたら撃ち返す、メルバオム・パラライザー!」
ジャックの構えたトライデント、メルバオムの先端から赤い閃光が走る。琉よりも高いその射撃技術は、立て続けに三人の教徒を大人しくさせた。
「カズ! ヤツらの船に、あえて突っ込むぞ!」
「了解!!」
片手で舵を切り、もう片手で釵の形態に変形したバジュラムを構え、カズはメンシェのクルーザーに向かった。接近すると同時に、銃を構えた教徒がこちらを睨みつける。その持つ手に目がけて、カズはバジュラムを投げ付けた。回転しつつ迫るバジュラムが、相手の銃を次々に叩き落として再びカズの手中に戻って行く。二つに分けたバジュラムは互いに引き合うという特徴があり、応用すればこういったブーメランのような使い方も出来るのだ。
「そこ!」
バジュラムによる一撃が通り過ぎた直後、フローラの指がムチへと変わって教徒達をまとめて打ち据える。海に落とされる教徒達。それを見たビショップ・ドラッケンは立ちあがり、その背負った長剣を引き抜いて構えた。そしてクルーザーの接近と共にカズ目がけてその刃を振り下ろし……否、ゲオのポールアックスがそれを受け止める。刃を弾かれふらつくドラッケンに、ゲオは武器を振り回すと柄の先端を相手に向けて真っ直ぐに突いた。
「変身させてたまるかってんだ! あばよ!!」
その隙を利用し、4人は悠々とその場を後にしたのであった。そして時刻はすでに、夕方の5時を過ぎようとしていたのである。
航路を離れてクルーザーはただ一機、既に当局の船も撤退した深夜の海を探っていた。操縦を交代しつつ、周りを探るジャックとカズに、レーダーを見張るゲオ。フローラは既に眠り込んでいた。
「お嬢ちゃん、このまま寝たら風邪を引くぜ。ほら」
ゲオはカバンから毛布を取り出してフローラに被せた。今のクルーザーには三日間走り続けられるだけの燃料が積まれてはいるものの、当人達の疲れはどうすることも出来ない。塩むすび片手にずっと海を見張り、船を動かし、時に燃料を補給といった作業を続けていたのだ。それも何処にいるのか分からない、すでにこの世にいないかもしれない人を探すために。時刻はすでに夜中の11時を回ろうとしていた。
……と、その時である。
「ん? ……レーダーに反応あり、しかも通信まで!?」
「何ィ!?」
「何だって!?」
「お母さん!?」
男二人が声を上げる。眠っていたフローラまでも声を上げる。急に生気にあふれだす四人の表情。ゲオはレーダーからコードを引っ張り出し、クルーザーの通信装置に繋げた。すると……
『……ちらカレ……、誰か……い……す! 無人島……、……者は今の……名! ただ……応答……、こち……ッタ号!!』
「電波状況は悪いが、この声は…!」
「アイツの声、忘れるはずがないぜ! 結構独特な声してっからな!!」
「……見えた! 流れ着いたカレッタ号が見える、あの方向に向かって下さい!!」
いつの間にか印を結んだジャックが、見えた方向を指さし叫んだ。
「こちらカレッタ号、誰か応答願います! 無人島に漂流、生存者は今のところ4名! ただちに応答願います、こちらカレッタ号!! 誰か、応答願い……ガホッゲホッ!? ……ロッサ、交代だ。水くれ水ゥ!!」
かすれた声で叫ぶ琉。体力はすでに限界が来ており、歩くのもやっとという状態であった。
「ムリしないで……貴方が倒れたら、私達は……」
「アヤメ、すまない……しかしやめるワケにはいかねぇんだ」
アヤメの制止を振り切り、琉はカレッタ号の甲板から屋根の上によじ登る。そしてパルトネールの先端を光らせると、大きくその場で振り始めた。
「アヤメ、この人は本当にあの彩田琉之助なのか……? 残忍で狡猾な異端者という、こちらの認識は間違いだったのか!?」
「分からないわお父さん。メンシェだったら敵を殺すことが正しいとされている、けど彼は皆で生きようとする。私……どっちが正しいのか分からなくなって来た……」
絶対絶命の最中、自らの信念と正義感の揺らぎを吐露する二人。今まで敵として命を狙ってきた人物に、今は命を助けられようとしている。
「こちらカレッタ号、誰か応答願いま……」
『こちらレンタルクルーザー、試作レーダーにてそちらさんの情報をキャッチした。声の調子からして……ロッサか!?』
「その声は……まさかゲオ!? こちらカレッタ号、こちらカレッタ号!! 琉、繋がった、繋がったよぉーッ!!」
「何ィ!? 本当か!! そのまま続けてくれ、頼む!!」
琉は満身創痍となりつつもパルトネールを振り続けた。腕がもげても構わない、屋根から落ちてもよじ登る、そんな覚悟を持った上で琉はシグナルを送り続けたのである。
「こちらカレッタ号、生存者は四名! 今、琉が光を放って合図をしています!」
『こちら借りものクルーザー、トライデントの光を目視。当局に問い合わせると同時にそちらに向かいます。あとは……』
クルーザー側の声が一端途切れ、そして……
『お母さん! 本当にお母さんなの!?』
「フローラ! フローラなの!? フローラまで来てくれたなんて!! ……そうよ、お母さんよ……フローラ……」
「驚いた……すでにあの男とデキていたんだ……」
「ヴァリアブール……本当に彼女らは、世界を食い尽す悪魔なのだろうか……」
屋根の上で、琉はパルトネールを振り続けながら海を見ていた。やがて一台のクルーザーと、その奥から大量の当局の船が押し寄せて来る。その様子を見た琉は安心し切った表情を浮かべ、パルトネールを握ったままこと切れたのであった。
翌日、当局の船に連れられてクロリア島に向かう四人。カレッタ号の残骸は回収され、クロリア島のドック行きとなった。そしてゲオがその修理班の中に参加し、カレッタ号の修理を手伝うこととなったのである。
アヤメはメンシェ教徒であったものの罪状がなく、アヤメの父からも薬物反応が見られなかったことから牢屋行きは免れた形となった。そして今回の消滅事件はメンシェ教の仕業であるとメディアには報じられ、ゲオ達四人は厳重注意を受けると共にカレッタ号を発見したとして表彰されることとなったのである。そして琉が生還したことにより、流れ着いた島にはハロゲニアとオルガネシアの調査班が入りこんで行くこととなった。というのも、事件が起きたのはハロゲニアであるが、琉自身はオルガネシア出身者だからである。
「ケガの功名ってヤツか」
病院のベッドでニュースや当局からの連絡を見つつ、琉は呟いたのであった。
『異端者を消すのに失敗したそうだな』
「ハッ、申し訳ありません……!」
『謝る必要などない、仕留め損ねたとはいえ、これでヤツはこの島から出られなくなったのだ、むしろ好機と捉えようぞ』
教祖による指示を仰ぐ、二人のビショップ。カレッタ号ごと琉を消そうとした彼らの目論見は失敗に終わったのである。
『ヤツは今クロリアの病院に収容されている。そこには我々を裏切った二人もいることだろう。機会は今だ、ドラッケン!』
「ハッ!」
『かの病院を襲え、そして悪魔を含めた四人を始末するのだ。邪魔する者も同様、何人犠牲者を出しても構わん。始末さえできれば良い。分かったな?』
「ハッ、必ずやかの者を血祭りに上げ、ヤツの首を持って馳せ参じる所存に御座います!!」
病院の屋上。そこに赤い影が飛来した。病院内を探り、その後は屋上から下の者を見渡している。
「何故だ……何故崩壊が止まらぬ……。おれはセオリーに従い“眼”を手に入れた、なのに、なのに……!」
足元から滴り落ちる黒い液体は、彼の体が崩れ続けているのを如実に表していた。
「あの女……ロッサに聞かねば……。場合によっては食い殺してやる……!」
今、病院には3つの勢力が集結しつつあった。琉とその近い者達、メンシェ教、そしてネオ。カレッタ号消滅事件から奇跡的に生還した琉を待っていたのは、更なる衝撃と試練の連続であることを、この時彼は知らなかったのである。
~次回予告~
病院にて休養する琉に、ドラッケンの凶刃が迫る。更に追い打ちをかけるが如く、ネオの爪が再びロッサを襲う。パニックに陥る院内、次々判明する驚愕の事実。生か死か、戦いの末に彼らを待つモノとは。
次回『許されざる者達』
物語は今、クライマックスへとひた走る!




