『大捜索! 絶海孤島二十四時』 破
琉とロッサを探すべく、故郷を出たカズとフローラ、ゲオ。高速船内でメンシェ教に目を付けられるも退け、ジャックと合流した。
「ジャック!? お前か!! 何故ここにいる、先生になるんじゃないのか!?」
『確かめたいことがありまして、一時的にクロリア島に赴いたのです。しかしこんなことになるなんて……』
「え、ちょっとゲオさん、貴方ジャックと知り合いだったんですか!?」
意外な関連性に驚くカズ。世界は狭い、彼は今そう思っていた。
「あぁ、アイツのラングアーマーやトライデントはおれが作ったんだ。ついでに琉のもな。それ以来の長い長い付き合いだぜ! しかし久々の再会がこんな所だなんてな……」
『良いですか、高速船がクロリアの港に着いたらこっちのクルーザーに乗り換えて下さい。丁度四人乗りです! これで探しにいけるはず!!』
「よし分かった! なるほど、レンタルクルーザーを使ったのか。渡りに船とはまさにこのことだぜ!!」
ハロゲニア領内で厳戒態勢となっているのはあくまでエリアγの周りだけであり、それ以外の海域は全くのノーマークである。もっとも、全海域で厳戒態勢をしけば暮らしそのものが成り立たなくなるワケだが。
「ハインツェルさん、こっちです!」
「分かった、今すぐ行く! あと長ったらしいからゲオで良いよ!」
ジャックの借りたクルーザーに向かう三人。乗り込んで四人。アルヴァン、トヴェルク、ヴァリアブール、ヒト、種族も身長もバラバラなクルー達。わずかな希望を胸に抱き、クルーザーは海原を走る。舵をとるジャック、レーダーを見張るゲオ、カズとフローラが見張りを引き受け目を凝らす。希望と絶望を相乗りさせて、四人はカレッタ号の影をひたすらに探して回った。
「まずは厳戒区域の周りをレーダーで探るぞ。それでも見つからなかったら航路から離れた場所に向かう。良いね?」
「了解!!」
厳戒区域をナビゲーターに映し、ジャックは舵を切った。周囲を描くようにして、クルーザーは白い軌跡を描いて行く。一方その頃、クロリア島の港では。
「何、彩田琉之助の仲間が3人もクロリアに来ただと!?」
「はい。どうやらあの男を探しに来たようなので御座います。しかし生かしておいては厄介だと思い、始末しようとしたのですが……」
「……もう良い。それにあの男は生きちゃおるまい、昨日テンタクルがカレッタ号を転覆させて海の藻屑になったのだからな。ヤツらの行為は徒労に終わるだろうよ。それより、よくあそこから抜け出してこれたな」
フードの男達が物陰でひそひそと喋っている。一人は剣を背負っており豪奢なローブを着込み、もう一人はあちこちが痛むのか手で押さえつつ、仲間に支えられて何とか立っていた。高速船の中で痛い目を見たメンシェ教徒は、この一人を除いて全員がハロゲニア当局に拘束されたのである。
「ドラッケン様、今さっき例の連中がクルーザー借りて出て行きました! しかも仲間が一人増えています!!」
そこにもう一人の教徒が駆け込んで来て報告する。
「ということは全部で4人か。フン、無駄なあがきを……」
ドラッケンと呼ばれた男は報告を聞くなり笑い飛ばした。
「しかし船を操縦出来るアルヴァンなんて初めて見ましたよ。アイツら意外と……」
「おい今何と言った? 船を操れるアルヴァンだと!?」
急に口調の変わったドラッケンに驚く教徒達。ヒト族以外を軽視している彼らにとって、一介のアルヴァンの青年に過剰反応したドラッケンの言動は異常ともとれたであろう。
「良いか、すぐにクルーザーを借りて来い! そしてレンタルクルーザーの受け付けに、借りたヤツの名前を聞きだして来い、今すぐにだ!! あ、ローブは脱いでから行けよ?」
四人を乗せたクルーザーは厳戒区域から離れ、航路に向かっていた。厳戒区域内に反応らしい反応はなく、目視しても何も見つからず。途中でジャックからカズに操縦を替わり、ジャックの習得したアルヴァンの千里眼を使用してもまるで見つけられなかったのである。
「航路から離れちまった可能性が高いなぁ」
「何処かの船に、拾われてりゃ良いんだが。しかし千里眼で覗いても見渡す限りの海ばかり……」
座禅を組み、印を結んだままジャックは言った。
「わざと航路から外れるのも手ですね。未開拓のゾーンになるけど……」
「カズぅ、おなかすいたぁ……」
口々に意見を言う4人。フローラはカズからビスケットをもらい、夢中でかじりつく。
「カズだっけ? そのビスケット分けてくれねぇかな?」
フローラが美味しそうに食べる様子を見て、ゲオがこぼした。
「それはムリです。何せヴァリアブール用にハルムの肉や骨を粉砕して混ぜ込んでありますからね、試しに食って見たらエラい目に……」
「わ、分かった……遠慮しとくよ。それからいつまでも堅苦しい喋り方すんのはやめてくれ、おれはもう交渉相手じゃあないんだからさ、そもそも苦手なんだよそういうの……んん!?」
レーダーを見るゲオが声を上げた。思わず振り向くカズとフローラ、構えを解いてレーダーを除きこむジャック。レーダーに映っていたのは……。
「船の後ろから何か付いて来てる! 何なんだこいつはァ!?」
「何!? ハルムか!?」
ジャックは船の後ろに向かうと印を結び、額に当てるとそのまままっすぐ正面に伸ばして目を凝らした。彼の眼に映ったモノ、それは……
「メンシェ教! しかも一人だけハデな格好……まさかビショップか!?」
「ビショップゥ!? 今何て言った、ビショップだと!?」
思わず大声を上げるカズ。恐らく一行が最も出くわしたくない相手、それがメンシェ教のビショップであった。もしあのプレートを使われれば、琉達を救出するどころか生きて帰れる保証がない。
「カズ、何とか逃げることは出来ない!?」
フローラは不安そうな顔でカズに聞いた。しかし彼は首を横に振りつつ答える。
「ダメだ、これ以上速度は出ない!」
「すまない、このクルーザーは一番安いヤツなんだ……」
「チッ、どうやら対処するしかなさそうだな!」
減速するクルーザー。追いつかれると分かっているなら、あえてエネルギー消費を減らして迎え撃つ方が良い。ゲオは持っていたカバンから折りたたまれた棒状の武器を取り出すと、長さ2mほどのポールアックスへと変形させた。カズはバジュラムを釵に変形、ジャックは自前のトライデントであるメルバオムにトリガーパーツを取り付けている。フローラの腕は既に戦闘態勢だ。
やがて追いつくメンシェの船。ゲオ達のクルーザーに横付けし、教徒のうちの一人が聞いて来た。
「貴様ら、こんな航路から離れた場所で何をしている」
「あぁ~あのですね、私は免許取ったばっかりでしてね、この人達の付き添いで練習してるんです。ただちょっと変な所に来ちゃいまして……」
その場で取り繕うカズ。残る三人は皆それぞれ武器を隠し、教徒からわざと眼を反らしてやりすごそうとする。一方で言いくるめられたのか、話をした教徒はビショップと思しき人物に近付きヒソヒソと話を始めた。その様子をジャックは横目で見つつその長い耳を傾ける。アルヴァン族は視覚だけでなく、その聴覚も四種族では最高の鋭さを持ち合わせているのだ。
『ドラッケン様、相手は操舵の練習などと申しておりますがいかがなさいましょう』
『ふん、どうせ嘘に決まっている。それに、汝はあのうち三人は見たのであろう?』
『ハッ、確かに。更にドラッケン様、あのアルヴァン族はどうでしょうか』
『……間違えるはずもない。まさかまだ生きていたとはな……。良いか、ヤツらをわざと逃がして背後から襲撃する。良いな?』
ジャックは会話の内容を、小声で三人に伝えた。
「なぁるほど、さっきボコにしたヤツだったのか、アイツは。それにビショップの名はドラッケンっていうのね……」
「なぁジャック、何かアイツに恨まれるような覚えはあるかい?」
カズはジャックに訊ねた。しかしジャック自身に恨まれるような覚えはない。首を傾げつつ、彼の眼はドラッケンを見つめていた。
「分からない、何故アイツは僕のことを知っているんだ!? ……おっと、来るよ」
四人の乗ったクルーザーの方にさっきの教徒が向かって来て、言った。
「よし、もう良い。人違いだったようだ、“いって”良いぞ」
「分かりました~、ではこれにて!」
エンジンを再びふかし始めるカズ。ふかしつつ、四人の心中は教徒に対して毒づいていた。
(まるで息するかのように嘘吐きやがった。人間一度悪くなりゃ何処までも悪くなるんだねぇ)
(あの人達、やっぱり怖い。お母さんの言ってた通りだ、いやそれ以上かも……)
(何だアイツら、最初っから沈める気だったのか。敬語使ったのがバカバカしくなって来たぜ!)
(あのドラッケンって男、何者だ? それに何故僕のことを……まさか!?)
ジャックが何かに気付いた瞬間だった。
「ほぉれ来たァ!!」
今回の主役はこの四人。果たして琉達を見つけ出すことは出来るのか!?




